第10話 追跡

 確かにずぶの素人ではないようだったが、それは技術的に見て稚拙という他ないものだった。

 盆地の周囲を囲む山々を発見して風下から回り込もうとしたところ、木々の合間にしゃがみ込むようにして何者かが潜んでいることにアシュレイは気付いた。体臭にまでは気が回らなかったとみえ、そこから流れてくる汗と垢の臭いが、隠れ潜んでいる存在がいることをありありと示していた。

 遠くから一方的に補足したアシュレイは、周囲に他の誰もいないことを念入りに確認しつつ目標に迫った。風による草木の揺れに自身の存在を紛れ込ませ、じりじりと近づく。

 相手は動かない。同じ姿勢のまま前方に向けて視線を行き来させている。盆地を背にした、外側に向けての警戒。忍耐力は備えているようだったが、それだけだ。背後から今まさに脅威が近寄ってきていることにまったく気づいていないのは致命的だった。

 射程距離に入ったアシュレイは遮蔽物のない地点に陣取り、目標が敗残兵──賊の一味であることを確認して弓に矢を添えた。呼吸で肩が上がったところを見計らい、一気に引き絞り、放つ。

 男の後頭部から眉間へ矢が突き抜ける。体がぐらりと傾き、目を見開いたまま草の上に横たわる。

 アシュレイは近づいて死亡を確認し、首を傾げる。

 何故こんなところに単独で──その疑問はすぐにある閃きへと変わった。中へは踏み込まず、そのまま周囲の山をぐるりと回るようにして偵察を続行する。

 盆地の規模が小さいものであったことが幸いし、すぐに二人目が見つかった。地図上でちょうど東側にあたる地点だ。最初の男は南側に陣取っていた。恐らくは周囲に斥候として配置されている。

 その想像を裏付けるように、三人目、四人目もあっさりと見つかった。

 盆地の縁を一周し終えたアシュレイは、不在の五人目については一旦保留して合流地点まで戻った。こと偵察に関しては足手まといになるだろうと待機させていたゲインが、木陰に座り込んで汗の浮いた顔を手であおいでいるところだった。

 「暢気なものだな」

 「戻ったか。やけに遅かったじゃないか、状況はどうだ?」

 「残りは一人だ」

 ゲインが苦笑いして肩をすくめる。アシュレイは自分の荷物の中から水筒を取り出して喉を潤した。見張りの排除に時間を掛けていたこともあって太陽が頭上に差し掛かろうとしている。

 「行くぞ。音を立てるなよ」

 荷物に雑草を被せて隠し、斜面を歩く。登り切ったところで姿をさらさないように注意を払いながら眼下の光景を見下ろした。

 盆地の平野部には田畑が敷き詰められていた。山から流れ込む水を利用しているようで、そこら中に用水路が張り巡らされている。

 「姿は見当たらないな。ということは、あれかね」

 ゲインが手でひさしを作って盆地の中央付近へ視線をやる。そこには何軒かの民家が身を寄せ合うようにして建っていた。それ以外に身を隠せそうな場所は見当たらない。

 「お前さんの第六感は何て言ってる?」

 アシュレイの鋭敏化した五感を持ってしても、そこに最後の一人がいるかどうかは判然としなかった。距離があることもそうだが、死体の臭いが強く、それ以外の情報が拾えない。恐らくは腐乱が始まっており、元の住民の成れの果てだろうと思われた。

 アシュレイは渋々、といった具合に大きく息を吐いた。

 「これ以上は近づかないと分からない。隠れていろ」

 アシュレイは太陽を背にできて、民家の窓からは見えない位置まで移動した。前方にあるのは水田、畦道、用水路のみで、遮蔽物は無い。

 ゆっくりとした動作で地面に片手をつき、両足に意識を向ける。貴き座より少しずつ流れ来て、体の中に蓄積された神気がアシュレイの身体を奇跡でもって変質させる。

 《神の威を示せ》

 消費が許容量を超え、体の奥から喜悦が湧き上がる。無能な狼は鼠をいたぶれる予感に打ち震えている。

 アシュレイは地面を殴りつけた。感情を塗りつぶされる不快感と拳に伝わる痛みでもって神意を跳ね除ける。

 手についた砂を払うと皮膚が少し破れて血が滲んできたが、骨に異常はなかった。何も問題はない。

 アシュレイは息を吸い切ると同時に地面を蹴って全速力で走り出した。畦道を四足獣のような低い姿勢を保ちながら、長く速い、それでいてほとんど音のしない一歩を繰り返して駆け抜ける。

 警戒していた妨害はなく、あっさりと民家に辿り着いた。家壁に張り付くように身を隠し、周囲の状況を窺う。

 全速力で走ったにも関わらずアシュレイには僅かな呼吸の乱れもなく思考もはっきりしていた。ただ神気の影響による興奮があるだけだ。

 死体の臭いは変わらない。鼻が曲がりそうになるが、その中に生きている男女のものが混じっていることに気が付いた。物音はなし。話し声もない。聞こえるのは微かな呼吸音だけ。寝ているのだろうかと考え、中の様子を窺うために窓を探した。

 視線を左右に走らせる。おかげで、その奇妙な現象にいち早く気付くことができた。

 家から伸びる影が僅かに盛り上がっていた。目の錯覚かと思って凝視していると、やがてそれは見間違いではありえないほど大きくなり、上に伸び、鎌首をもたげた。

 目にしたものがあまりにも想像の埒外で反応が遅れた。目の前に聳え立つ黒い円柱状の何かが縦に裂け、そこに牙のようなものが生え揃っているのを見て、初めて背筋に悪寒が走った。

 アシュレイは全身から力を抜くように仰向けに倒れた。その上を影の怪物の牙が通り過ぎ、家の壁を削り取る。

 砕け散った木と漆喰の破片が上から降り注ぐ。接地した肩から首にかけてを支点にして後ろへ跳ね起き、アシュレイは駆け出した。

 走りながら振り返り、影から生まれた怪物の様子を確認する。日光にさらされた部分が色あせ、砂のように崩れ去っていた。体の大半を失った怪物は力なく地面に横たわり、やがて平面に戻って消えた。

 安堵を覚えたのも束の間、今度は前方左の草むらから棒状の黒い何かが飛び出してきた。走りながら体を仰け反らせて避け、土を巻き上げて地面を滑る。その勢いのまま側転して立ち上がり、間髪入れずにまた走り始めた。

 一瞬遅れて、倒れた位置のそばにある用水路の奥から黒い甲虫の足のようなものが生え、地面を抉り取った。

 いずれも同じように日光を浴びて塵になって消える。

 何が起きているのかは分からなかったが、何が牙をむいているかは分かった。アシュレイは周囲に油断なく視線を巡らせる。行く手に存在する草の影が少し動いたような気がした。千切れ雲の影が僅かに波打ったようにも見えた。どの方向にでも動けるように備えながら短剣を抜き放つ。

 やはり目をつけていた影から何かが飛び出してきた。魚のようにも見えるそれを短剣の腹で受け流しつつ、雑草の影から現れた獣の顎を飛んで躱す。

 飛び、跳ね、的を絞らせないように間断なく左右に動き、アシュレイは立て続けに生えてくる黒い何かの狙いを外しながら一気に盆地を走り抜けた。

 盆地の出入り口として唯一整備された坂道を駆け上がり、速度を落とす。ある程度離れた時点で追跡の手は止んでいたが、念のために警戒しながら道の縁の木陰に近寄ってみた。わざとゆっくりと歩いてみる。何も起こらない。

 「おい、おい、何だ今のは」

 草を掻き分け、踏み潰し、ゲインが現れた。一部始終を見ていたらしく随分と慌てていた。

 「何だと言われてもな」アシュレイは体中についた土を払い落とした。「それは僕が聞きたい。あんたの国の信徒で、同じ軍にいたんだろう?」

 ゲインは首を横に振った。「いや、あんな奇跡があるなんて聞いたことはないし、見たこともない。そもそもやつらは脱走兵だ。軍が税金分の仕事をしているなら神気の供給なんぞ止められれてるはずだ」

 「あんたは使えるようだが?」

 事情があるのさ。そう言ったきりゲインは口をつぐんだ。結論が出そうにないため、あれについてはひとまず措いておくことにした。

 「残りはあの家のどれかにいた。この距離だが、あんたなら届くのではないか?」

 ゲインは距離を測るように目を細め、難しい顔をする。

 「更地にするのは、まあ、できるね。で、攫われた女はまだ生きてるのか?」

 「想像通り、あの家の中だ」

 「そうなると、努力を払うべきだろうな」

 「最悪、言い訳をすることは不可能じゃないと思うが?」

 アシュレイは水を向ける。ゲインはいかにも気乗りしないといった様子で槍をもてあそぶ。

 「女は、被害者だ。お前こそどうなんだ」

 戦火に炙られ、今なお苦しむ女。それに対して思うところはあった。

 「助けられるなら、それに越したことはないと思っているよ」

 「だったら下らないことを言うなよ」

 「さて、どうする? 具体的には行くか行かないか、という話だが」

 アシュレイがいった。ゲインが渋面をつくって顎をさする。

 「そっちはいいだろうが、俺はあんなもの避けられないぞ」

 「間近で見た限りだが、あの妙な黒い生き物、のようなものは、影からしか出てこなかった。光に弱いようで、日光を浴びるとすぐに塵になっていたよ。寧ろあんたと相性が良さそうだがな。得意だろう、ギラギラ光らせるのは」

 「人を金物か何かみたいに言うなよ。しかし、影ねえ。とりあえずは慎重にいきたいところだが──」

 言いかけて、ゲインが眉根を寄せる。アシュレイには、よりはっきり見えていた。接近してきた正体不明の存在に気付き、攻撃を加えたような人物が次に何を考えるか。しかもそれが脛に傷を持っていることを自覚しているとなれば、当然の行動でもあった。

 油で光る不潔な蓬髪に薄汚れた衣服をまとった男が、肩にぼろを着せられた裸同然の女を担いで歩いていた。

 栗色の髪の女。

 民家のうちの一軒からドアを蹴り開けて現れるなり、周囲の山林へ向かってのろのろと進んでいる。

 逃亡。姿をくらまそうとしている。こちらの選択肢としては、追うしかない。

 「先に行く」

 アシュレイはそれだけ言い残して走り出した。盆地の端を迂回したりはせずに、姿を晒して突き進んだ。

 幸いにも敵の足取りは重く、十分に補足は可能だった。この期に及んで女を連れいるせいだ。強い侮蔑の念が沸き起こる。

 進路をまっすぐには取らない。影から距離を取るため民家を大きく回り、不規則に蛇行して狙いを定められないように動く。まるで見当違いの方向に突き出た黒く尖った何かを尻目に、アシュレイの足は更に加速した。種が割れていればあしらうことは不可能ではなかった。

 距離がつまる。女に矢が当たる可能性を懸念し、短剣を抜いた。あとどれほども必要ない。もう少しで刃を突き立てることができる距離だった。

 しかしそこでようやく、何故男が外に出たか、その本当の理由を知ることになった。急に陽の光が遮られ、辺り一帯が影で塗りつぶされていた。

 風に流された足の速い雲によって、太陽が覆い隠されていた。

 誘い出されたことを理解したときには既に遅く、無数の小石を投げ入れられた水面のように、地面の上の影のそこらじゅうに波紋が広がっていた。

 それが悪手であると分かっていながらアシュレイは反射的に上へ跳んだ。その高さは大の大人の頭の高さをゆうに超えており、地面から飛び出した無数の魚の群れはその足を掠めることも出来なかった。だが、すぐに跳躍の頂点を過ぎて落下が始まり、それを狙って次の波紋が広がる。

 空いた手で背負った短弓を掴み取り、短剣と交差させるようにして前に構えた。できるだけ体を丸めて的を小さくし、致命傷を防ごうとする。

 男の下卑た笑み、黄ばんだ歯が目に映った。手足、いや、片手片足さえ無事ならば次の瞬間には殺せるはずだと焦燥を静かに怒りに変える。

 覚悟していたものはこなかった。雲は未だに頭上を漂っていたが、アシュレイのすぐ上で、無数の光の球が眩く輝いていた。たっぷりと光を浴びせながら、網目状に交差して高速で飛び去っていく。影が薄れ、今にも飛び出ようと頭を見せていた黒い何かはいずれも塵になって消えていた。

 アシュレイは胸中で賞賛を送る。

 《威を示せ》

 一足飛びに間合いを詰め、伸ばされた腕をかいくぐって鎧の隙間から男のわき腹に短剣を刺し入れた。顔を引きつらせ、か細い悲鳴を漏らしてよろける男を見て、狼がアシュレイの口元を笑みの形に捻じ曲げる。

 巻き添えで凍りつく前に女を奪い取り、無造作に地面へ横たえた。男の体は既に刺した箇所から霜が広がり始めている。

 短剣を引き抜き、腕を切りつけ、顔面ごと目を縦に割り、切っ先を膝に突き立てる。恐慌状態に陥った男が悲鳴を上げるために喉を震わせようとするが、既にいたるところが凍り付いており、それすらかなわなかった。

 男が地面に倒れる。その衝撃であちこちにひびが入った。アシュレイはゆっくりと近づき、冷や汗をかかされた憂さを晴らすように頭を、胴を、腕を、足を、それぞれ念入りに踏み砕いて塵にした。

 獣性の発散を終えると、無様な行いを恥じ入るように深呼吸を繰り返した。頭が冷えてきたところで女の安否を確認する。

 息はある。だが、その姿は見るも無残なものだった。服はところどころ引きちぎられ、露出した部分にはひどい痣がつけられている。よく見れば人の手形をしていることが分かる赤黒のそれは、彼女がどれほど乱雑に扱われたかを示していた。栗色の髪に艶はなく、頬はこけ、体のあちこちに乾いた男のものがこびりついていた。元の器量が良いことが見て取れるだけに余計に痛ましく見える。

 「無事か?」

 それはどちらに向けられた言葉だったのか、小走りでゲインが現れた。

 「見ての通りだ。首尾は上々、と言えるかどうかは難しいところだが」

 何か着せるものはないかと口を開きかけ、ゲインの様子がおかしいことに気付いた。

 女の姿を見るなり、口を半開きにして硬直していた。足が震えている。鼓動と呼吸が乱れている。

 「どうした? 不幸な女の姿がそんなに珍しいか?」

 「いや……なんでもない」

 とてもそうは思えない台詞をはいて、ゲインは首筋の汗を拭った。それきり口をつぐむ。

 まあいいと不可解な態度に対する疑問を頭から追いやった。踏み込まれたくない領域など誰にでもあって当然だ。

 「さっきは助かった」

 礼を言うと、ゲインは視線をさまよわせ、「そうかい」とだけいって頭を掻き毟った。

 野営用の毛布は集落に置いてきている。アシュレイは上着を脱ぎ、女に着せた。帷子が仕込んであるため重いかもしれなかったが、肌をさらしておくよりはましだろうと考えた。

 「そっちの身動きが取れたほうがいいだろう」ゲインが女を背負う。

 「そうだな」

 念のため他に生き残りがいないかを確かめたが、腐りかけている元の住民と思わしき死体しか見つからなかった。祈りを捧げた後、帰路につく。




 「随分と心配しているようだな」

 日が傾きかけ、ようやく集落が見えるか見えないかのところまで戻ってきたとき、後ろでぜいぜいと息を荒げるゲインに向けてアシュレイがいった。

 よほど気になるのか、道中、何度も何度も背負った女に視線を向けていた。

 「おかしいか? この有様だ、気にもなるさ」

 「そう深刻そうな顔をするほどのことでもないと思うがな」

 「……言い切るね」

 たじろいだ様子だったが、発言の根拠については興味をそそられたようだった。足元に絡みつく草を鬱陶しそうに踏み潰しながら目を向けてくる。

 「つまらない不幸自慢だ」

 「別に構わない」

 アシュレイは背負われている娘を眺めた。ここまでの道のりでもなすがままの状態だった。足取りに合わせて揺られるばかりで、視線はいまだにうつろ、口は微かに開いたまま動かない。

 「僕の故郷はあの集落と似たような状況だった。色々と努力はしたが、前の冬を越えることができたのは僕以外にいなかったよ」

 裕福とは程遠く、痩せている上に険しい土地柄のため農耕では十分な食料を得ることができない山中の寒村。地理上の問題から街と街との中継地点としても成立しない。代々、狩猟や山の植物の採取、そして出稼ぎによってそこでの生活は成り立っていた。収入は安定しているとは言いがたいもので、決められた税を納めるだけで精一杯といった有様だった。

 しかし、それを不幸だと感じたことも無かった。それが当たり前だったのもあるが、いま思い返しても必要なものは全てそこに揃っていた。とりあえずの安全、飢えに苦しまない程度の食料。特に手厚かったのは教育で、読み書きや計算に加え、獲物の見つけ方、追跡のこつ、逃走において注意すべき点、罠の仕組み、世の習俗、物心ついた時から両親には様々なものを教え込まれた。

 その平穏がぎりぎりの均衡の上に成り立っているものだと気付かされたのは、戦争が始まってからだった。戦況が悪化したという理由で普段徴兵に送り出している以上に村の男手が取られることになった。

 後を頼むと言い残し、父は戦争へ行った。

 アシュレイは奮起したが、しかしあっさりと生活は傾いた。自身の未熟もあったが、働き手の数自体がまったく足りておらず、残った人数では村人全員を食わせることはできなかった。

 父を含む、戦場へ行った男たちからの手紙が送られてきた。近況と、誰それが戦死したとの報告。返事で窮状を訴えたが、それが聞き届けられることはなかった。やり取りの間隔は段々と長くなっていった。

 無理をした数少ない大人が山で滑落してからは更に状況が悪くなった。まずは満足に体を動かすことができない老人が、次に自ら獲物をとれない子供が、それから生まれつき体の弱い人間が、順に死んでいった。

 病床の母の顔色は悪く、寝台に横たわる身体は枯れ木のようにやつれ、呼吸によりほんの僅かに胸が上下していなければ死体と見紛うほどだった。しかし、母はその状態においてもなお他者への思いやりを優先するような、優しく厳しいひとであった。野鳥を捕って帰ってきたアシュレイに向けて、隣の家の子供たちにわけておあげなさい、そう、ほとんど聞き取れないような声で呟いたほどだ。隣の一家は既に全員が死んでいた。

 村人たちがひとり、またひとりと減っていく。男達からの連絡は途絶えて久しい。

 教育により正しく知性を獲得していたアシュレイは、もはや彼らが戻ってくることはないと直感していた。怒りは無い。彼らが取った行動に対して理解を示すことすらできた。

 要は、無能だったという話だ。このようにやせ細った土地しか残せない先人たち、そのような場所にしがみ付いて干からびていく村民たち。自分もそうであることを否定するつもりは無かったが、それを率いていたプレイヤーこそが、その最たるものであることは疑いようのない事実だった。

 愛想を尽かすのも無理はない。

 最後の一人となって初めて迎えた朝、村の家々を回って土を掘り起こせそうな金属器をかき集めた。その途中で見つけた遺体は十三。その全てを墓所まで運ぶのにはひどく苦労した。

 開いた場所に農具を突き立て、地中の硬い岩にあたればつるはしで砕き、掘り返し、使い物にならなくなった道具を取り替え、木こり用の斧、山道を掻き分けるための鉈まで使って数日かけて地面に大穴を空けた。そうしてできた墓穴にまずは母の遺体を、それから放置された他の亡骸を並べて埋葬し、今度はその姿が見えなくなるまで掘り起こした土を被せ、数日、けじめとして掟と習慣に従い喪に服した。

 「故郷は捨てた。維持できないものに拘泥していても仕方がないからな。それからも碌な目には遭っていないし、苦労のし通しだ。ああ……何が言いたいかというとだな、それでも僕はいま、それなりに何とかやっている、ということだ。彼女だって、どうにかこうにかやるだろうさ」

 そうするしかないのだから。ゲインは神妙な顔つきをしている。今の面白くもない身の上話を聞いて哀れみに近いものを覚えている。

 あからさまな悪党ではなかった。心根の卑しい人物でもないように思える。しかし、それが必要とあれば、並みの手合いよりよほど上手く悪徳に手を染めてしまえるだろうということは、これまで目にしたものから容易に想像がついた。

 望むところだった。どうせ手を借りるなら、あれくらい度が過ぎていた方がいい。

 「おい」

 「何だよ」

 アシュレイが語気を強めて呼びかけると、相手はぶっきらぼうに応じた。

 「僕の仕事を手伝う気はないか」

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