第6話 品定め
その山道は獣道と何が違うのかという様相だった。人が住んでいるというからには多少は手入れされているものだと思っていたが、そこは想像以上に鬱蒼としていた。
手に付いた雑草の種子だか、それにたかる小虫だかを払い落としながら、アシュレイは行く先に視線を向ける。
街を出て丸一日。ようやく木々の生い茂った山の麓に辿り着いた。地図を見る限り、件の集落へと辿り着くにはこのまま緑一面の山間の隘路を進み続ける必要があるようだった。しかもただ歩くだけでなく、たびたび現れる腰の高さほどもある草を掻き分けながらだ。
道が細く、歩きにくく、視界が悪い。交通の便は劣悪で、並の感覚でいえば、好き好んでこんなところに住んでいる者は酔狂という他なかった。
だからこそ、潜んで待ち伏せを行うには絶好の地形であるように思えた。アシュレイがそれをゲインに伝えたところ、相手は難色を示した。
「途中で野盗に襲われる危険性は低い。話に聞いたところじゃ、住民はときおり獣肉を売りに来る程度の行き来しかしていないらしいじゃないか。賊は恐らく大所帯だ。そういう奴らは常に飢えてる。携行できる程度の量しかない荷物を奪い取るためだけに、僅かな可能性にすがって待ち伏せる余裕なんかないだろう。でかい獲物を探してるに決まってる」
理路整然とした意見。ごろつきのような見た目にはそぐわないものだ。
「だからといって、警戒をしないのも間抜けな話だ。偶然出くわす可能性だってある」
「そうだな。どうにかできるなら、それに越したことはない」
可能性を提示するとゲインはあっさり頷いた。意見の一致を確認してアシュレイは自分が前に立つことを提案した。
視界の通らない場所では待機するよう伝え、脇道に入って大きく迂回するように周囲の情況を窺いながら進んだ。危険がないことを確認し、戻って前進を伝える。
慎重を期していることもあって、二日目の日が暮れようとしているというのに今のところ目的地らしきものは見当たらなかった。地図を信じるならば、日が完全に落ちる前には辿り着くはずだったが。
何度目になるか分からない哨戒行動から戻ったとき、ゲインは背嚢を下ろし、幹の太い木を背にして地面に座って休んでいた。
「だらしがないな。余計に疲れるぞ」
「そっちは底なしだな」ゲインが汗をぬぐう。
「ただ歩いているだけだ。奇跡を使っているわけでもない」
「これでも行軍で脱落したことはないんだが」ゲインが水筒に口をつけ、大きく息を吐いた。「山歩きが得意みたいだが、猟師か? 弓の扱いも手馴れてる」
質問には答えず、アシュレイは水、毛布、食料の詰まった自分の荷物を背負うと、一度だけ手招きして先を急いだ。
背後では慌てて立ち上がる音。無様な足取りでなんとか付いて来ている。その体たらくからは今のところ見るべきところがあるようには思えない。しかしあのとき──この男が仕事を引き受けたとき、嘘は感じられなかった。つまり、この男は賊をどうにかできる自信があるということだ。
そもそもそれ以前、レンディアの群れに襲われた際にも、この男の心境は諦念や絶望とは程遠いものだったことを思い出す。
ふと、風に乗って流れてきたものでアシュレイの思考は中断させられた。
「近いぞ」
人の臭い。生活の臭い。足元を見れば、そこには糸と草木で拵えた小型の罠が仕掛けられてあった。住民のものに違いない。
背後の足音は現金なことに勢いづいていた。
臭いを辿っていくと、森の中でそこだけ伐採、開墾されてぽっかりと開いた空間に出くわした。口が裂けても立派とは言えないものの、十分に人が生活できそうな建物がぽつりぽつりと点在している。そこそこの規模の田畑まであった。
「驚いたな、なかなか生活感があるじゃないか」
横に並んだゲインが若干息を荒げながら感心したように口笛を吹く。
「そうだな」
アシュレイにしてみても予想外だった。今まで歩いてきた道と同程度にみすぼらしい家々──戦災の被害者が寄り集まってできた集落もどき、せいぜい掘っ立て小屋のような家屋が木々に埋もれそうになっている様子を想像していたのだが、思いのほかそこは集落の体を成していた。
「俺が話を進めるぞ?」
アシュレイが頷いて同意を示すと、ゲインは手近なところにいた農作業中の男に向かって近づき、手を上げる。
「やあ、どうも」
その男は集落に足を踏み入れたときからこちらの様子を窺っていた。当然ならひどく警戒していたが、相手の一見友好的な態度を見てか、持っていた農具を構えたりはしなかった。
「こちら、賊の被害に遭われているそうですね」
「あんた、どこでそれを」男はすぐに思い至ったのか、はっとして期待に満ちた声を上げた。「ああ、つまり」
「ええ。レイヤンの商工会の方に聞いてきました」
「ありがたい。助かります……それで、他の方は?」
農夫が目を細めて二人が歩いてきた方を見る。いったいどれほど連れてきてくれたのだろうかと。当然だがそこには誰もいない。
「俺たちだけです。とりあえずは、話の通じる方に面通しをお願いしたいのですが」
男は一転して不信感を強めたようだったが、たちの悪い冗談ではないことを理解すると、やや肩を落としながらも集落のまとめ役のところへと案内をしてくれた。
二人が連れて行かれたのは他とそれほど代わり映えのしない黒ずんだ木組みの建物だった。出迎えたのは疲れの色の濃い顔をした初老の男で、ウィレットと名乗ったその老人は視線を忙しなく動かしながら突然の来客を家に招きいれた。
手っ取り早く話が進むようにとカルドアにしたためてもらった紹介状を渡すと、ウィレットは記された印章を胡散臭いものを見るような面持ちで何度か確かめ、暫くの間それに目を通していた。
読み終わったのか、困惑を浮かべながら老眼鏡をテーブルの上に置く。その顔にはこう書かれてあった。本当にこいつらが?
「その、匪賊退治を引き受けていただけるとのことで」
「ええ」
差し向かいに座ったゲインが短く、はっきりと答える。アシュレイは壁を背に少し離れた位置に立っていた。事前に申し合わせたとおり、余程のことがなければ交渉に口を挟むつもりは無かった。
先日の獣にかなり使わされたこともあり、神気の残量は心もとない。しかし、何はともあれ情報の取得は最優先時効だった。少し消費して老人、それとゲインの反応に神経を尖らせる。
ウィレットは言い難そうに、何度も口を開きかけてやめるといったことを繰り返した末にようやく言った。
「その、使徒様でいらっしゃるとか」
「それについては後で証拠をお見せするつもりですが、とりあえずはどうするか決めてしまいましょう」
唐突に切り出されてウィレットは顔の皺を深くする。
「どう、というのは?」
「もちろん野盗を、どう、退治するかについて、ですよ」言葉を飲み込めていない様子の相手に向けて、ゲインは説明を続ける。「仕事の落とし所について、まずは雇い主と認識をすり合わせておかなければなりませんからね。いえね、奴等の住処を見つけて根こそぎ始末できればそれに越したことはないんでしょうが、こっちは二人しか用意できませんでしたし、それにこの集落の人間を総動員しても、この規模の山で山狩りをするなんてのは不可能でしょう。まさか、すでに野盗どもの所在を調べていたりは」
そうわざとらしく尋ねる。相手は渋い顔をして首を横に振った。
「まあ、そうでしょうね。拠点を複数持っているか、方々を移動しながらその先々で都度奪っているか、余程の間抜けでもなければそのどちらかでしょう。どちらにしろ居場所が分からないのでは一網打尽とはいきません。ちなみに、こちらの集落に戦える人間はどれくらいいますか?」
「僅かですが、先日襲われた時に死人や怪我人が出ましたので、恐らくは十人を満たすことはないでしょう」
その質問を予想していたようにウィレットは淀みなく答えた。その理由は明快だ。何しろ助けにやってきたのはたったの二人の自称使徒。現地の人間をあてにしていると思われても不思議ではない。
「なるほど。まあご想像の通り、ある程度は手伝っていただくことになるかもしれません。ただ、そこまで危険は無いと考えています」
「と、おっしゃいますと?」
声には疑うような響きが含まれていた。ウィレットは口ごもって汗を拭き、慌てて取り繕うが、ゲインの方には毛ほども気にした様子はない。
「何をやるかというと、待ち伏せです。こっちから見つけられない以上、向こうからやってきてもらう必要があるので、これしか無いようなもんですがね。そこで、襲ってきた賊どもを撃退、いや、可能な限り数を減らします」
ウィレットは疑いを隠しきれない様子だったが、それでもその大言を否定するような愚はおかさなかった。そして、重ねた年齢に相応しい抜け目無さで彼は肝心な部分を尋ねた。
「こちらにはどれくらい滞在していただけるのでしょうか」
「帰り道を考えると、七日といったところですね」
「七日ですか、それは──」
短くはないか、そう続けようとしたウィレットの台詞をゲインは遮った。
「申し訳ありませんが、こちらも待たせてる相手がいましてね。ただ、労働を伴わない報酬というのも気が向きませんし、あなた方が商工会に提示した報酬は目標を達成した暁に頂くことにします」
ゲインの視線がちらりと横に向けられる。アシュレイは小さく頷き、異論がないことを伝えた。
「期間中はご迷惑をおかけするかと思います。具体的には休める場所を提供していただければ。食料はある程度持ってきていますが、差し入れも、貰えるのであればありがたいですね」
老人は目を伏せ、白くなった眉を捻じ曲げ、考える素振りを見せる。
ふり、だけ。動悸に変化はない。その内心に逡巡の様子がないことは分かっていた。諦めにも似た心境かもしれない。最低限の経費だけで結構、運良く、いや運悪く賊が現れなかったならば、その金でまた別の人間を雇うといい。そういう話だ。実質、集落側にほとんど損はない。どうせ自分たちが依頼を受けなければ他に誰もこんな所に来たりはしなかったのだから。
「その条件でお受けいたします」
老人はやがて重々しく口を開いた。半ば小芝居じみていたが、白々しいというほどではない。そこに慎ましさが伴う限り、自分の価値を押し上げようとする行為は理解できるものだった。
話がまとまったことを察してアシュレイは声を上げた。
「入ってきたらどうだ」
二人が何事かと目を向ける。ややあって、恐る恐るといった具合に家の戸が軋み、男がひとり姿を現した。この家まで案内してくれた人物だった。
「ダン」
ウィレットが席を立ち、やや咎めるような声音で男の名を呼んだ。
「いや、構いませんよ。気になるのは当然でしょう」ゲインも立ち上がる。「細かい部分については、また話しに来ます。それじゃあ、寝床の場所を教えてもらえますか?」
「ダン、バロウ夫妻の家に案内して差し上げなさい」
ダンと呼ばれた男が眉をひそめる。「あそこですか」
「空いているところはそこだけだ」
「分かりました」いかにも不承不承といった様子。
ゲインが軽く頭を下げて家を出る。アシュレイも壁から背を離してそれに続いた。
「しかし、街の近くとは言わんが、もう少しまともな場所を選んでもいいと思うがね」
ダンを先頭に夕暮れの中を歩きながらゲインが言った。遠くでは夕日で影になった鳥が群れをなし、場違いにも思えるほど間延びした鳴き声を上げている。
「選べればそうしたんですがね。使徒様、あちらがそうです」ダンは少し先にある民家を指差した。
「使徒様、じゃなくてゲインだ」
ダンは目を丸くしたあと、皮肉屋の笑みを浮かべた。「ダンだ」
「聞いたよ。そっちはアシュレイ」
アシュレイは口を開かなかったが、相手はそれを好意的に受け取り苦笑を浮かべた。
「この辺りはもともと炭焼き小屋やら陶窯やらがあって、人が住んでたんだよ。まあ、ウィレット爺さんの親父の代までしか使ってなかったそうだが。少し手を入れたんだ。何も無いところを切り開いたわけじゃない」
「まあ、そりゃそうか。住居を作るなんて簡単にはできないよな」
確かに目にした建物はどれも年季の入ったものだった。昨日や今日建てたとは思えない。
「かなり古臭いが、寝起きする分には問題ないよ。野宿するよりはよっぽどいい。女子供にはきついからな、あれは」
「そうだな」
アシュレイの耳はゲインの呼吸が少し早まっていること感知した。理由は分からなかったが、いまのやり取りでゲインは僅かに苦しみを覚えている。
「ここだ」家の前まで辿り着く。ダンが戸を開けて入るように促した。「余り物があったら持ってくるよ」
「血の臭いがするな」
アシュレイが鼻をひくつかせながら呟いた。ダンが溜息をつく。
「念入りに掃除はしたんだがね。野盗に押し入られるまでは、別の人たちが使っていたんだ」
「バロウ夫妻?」
「そう。それと、両親を亡くした娘さんが同居していた。家屋の数が足りないから、複数の家族が共同で使ってるんだ」
「元の住人は?」
「夫妻は殺された。娘さんの方はそのとき」
ダンが言葉に詰まる。
「聞いている。一人、攫われたそうだな」
「まだ暗いうちに悲鳴が聞こえて駆けつけたんだが、間に合わなかった。家の中はひどい有様だったよ。赤い絵の具がぶちまけられたみたいだった」ダンの表情には無力感とやるせなさがありありと浮かんでいる。「人の良い夫婦だったし、良い娘さんだったんだ。本当に」
徐々に小さくなる背中を見送ったあと、二人はあてがわれた空き家に入った。一見、惨劇の後とは思えないほど片付けられている。
「方策を聞かせてもらおうか。引き受けたからには勝算があるんだろう?」
換気のために戸を開け放ったまま、アシュレイは手近な椅子に腰を下ろす。鋭敏化した嗅覚のせいで少し息苦しい。
「策なんてもんじゃない。どっちかっていうと手品の種だが……後で話す。歩き疲れたから、少し休ませてもらってもいいか?」
ゲインは荷物を適当な場所に置いてから寝台に腰を下ろした。辛うじて家の形をした建物。個室などといった贅沢なものは存在しない。入ってすぐが居室で、寝室だった。中央にはテーブルと椅子、端には前の住人の数と一致する三つの寝台。
「随分向こうに気を使った条件だったな」アシュレイが言った。
「同意してくれたもんだと思ってたが」
「別に不満があるわけじゃない。意外だっただけだ」
「意外ねえ。そんなにがめつく見えるか?」
主張の強い眉目を捻じ曲げながらゲインが顎をさすった。薄暗いせいで人相の悪さが際立っている。近くに殴れそうな手ごろな相手がいないか探しているようにも見えた。
「爺さんにも言ったとおり、気が向かないってだけだ。働かずに金銭を受け取るのも気分が悪い、それだけの話だよ。気分が良くなけりゃあ、意味がない」
慈悲か憐憫かは分からないが、その声と態度に嘘は無かった。
「ここまで徒歩だったし、経費分はもらう約束をした。それもせいぜい持ってきた携帯食料の分くらいだろうがな。どうせ街に滞在中は暇だったわけだし、損なんてないだろう。それとも、お前さんとしてはもう少し絞り取りたかったのか?」
「いいや。逆に、吹っかけたら口を挟もうと思っていた」
ゲインが眉を上下させる。「金が目当てで付いて来たんだと思ってたんだが」
「必要な分だけあればいい。あんたこそ、借金とやらはいいのか?」
「よくねえが、別に大金持ちになりたいわけじゃないんだよ」
不貞腐れたように言って、ゲインは横になる。
「まあ、俺のことはいい。そっちこそ、何でこんなところまで付いてきたんだ?」
「思うところがあった。もちろん報酬も目当てだが」正当な額の、と付け加える。
「ひとの趣味に口を挟む気はないから何でもいいがね。とりあえずは哨戒のほうを頼むぜ。悪いが今からやってもらいたい」
そう来るだろうと思っていたアシュレイは了解した。「分かってる。だが、いくらなんでも四六時中は無理だぞ」
「ああ。お前さんは暗くなってから明け方までをやってくれ」
「理由は? あんたが楽をしたいからか?」
「そんな阿呆な理由で仕事を振るかよ。奇襲をするなら断然、夜だ。俺が賊ならそうする。そりゃあ昼間と比べるもんじゃないが、これから数日は月が二つ出るから、夜でも視界にそこまで不安はない。だから、そっちが夜だ」
ある種の信頼が込められたゲインの声音。人を使うのは上手いようだ。
最長で七日。体力に関しては問題ない。周辺の警戒を行う程度であれば、神気の消費もそう大したものにはならないだろう。アシュレイは納得して頷いてみせたが、相手はすでに目を瞑っていた。声もどことなく気が抜けている。反論が上がらないことを承諾と受け取ったのか、ゲインはそのまま続ける。
「日中は俺がやる。あとはまあ、集落の連中からも歩哨を募って、苦労してもらおう」
「概ね異論はないが、数を頼りに昼間に来るかもしれないぞ」
「そうだな。襲ってきたのは四、五人って話だったが、それが全員ってわけでもないだろう。ただ、昼ならそれこそ俺一人で十分だよ」多分な、と付け加える。
普通に考えれば放言の類だったが、やはりこれも嘘ではない。声に自信が付随している。その理由が気にかかった。正確なところを言えば興味があった。ここまでのこのこついて来た理由のひとつでもある。
「相手に僕のような手合いがいたらどうする?」
「そればっかりはどうにもならん」
あまりにもあっさり言い切られたのでアシュレイは非難する気にもならなかった。
「無責任だな」
「出来もしないことに責任を持つほうが無責任なのさ。もちろん、やるだけはやる。まあ、加護を受けた信徒なんぞそれほど珍しいわけじゃないが、使徒と認められるほど力のある、となると話は別だ。滅多にいない」
加護を得て奇跡を起こすには、自らが仕える神にそれを下賜される必要があった。そこに至るまでの方法や手続きは神によって様々だ。
「あんたの国ではどうなってるんだ?」
そう尋ねると、ゲインは少し考え込み、やがて口を開いた。
「本人の資質次第だが、基本的に人の手による審査が存在する。簡単なものでは所属する組織による人物評価に始まって、ものによっては中央議会の承認を得る必要すらある。一例だが、訓練を経て正式にカルマムルの軍人となった信徒の中で適正のある者には加護による体力の増強が行われるが、その効果は気持ち疲れ難くなるといった程度のものでしかない。おおむね、認可を受ける難度に効果が比例しているわけだ。一部の例外を除いて、強大な力を振るうためにはそれ相応の資格や実績が必要になる」
地位も名誉もある人物。「賊なんぞに身をやつすことはない、と」
「ああ。小耳に挟んだ話じゃ、サルタナも大体同じようなものらしい」
言外に所属を聞かれていたが、アシュレイは無言を返答にした。相手の方もどうでもいいとばかりに続ける。
「とにかくだ、奇襲を察知して先手が取れたらどうにかなる」
「その根拠は?」
「後で見せる。どうせ住人へ説明をしなきゃならんからな」
「そうか。なら、好きにするといい。あんたがしくじったら、僕がどうにかしよう」
「頼もしいね」
「今夜のうちに襲ってこないことを祈っておくんだな」
「そうしとくよ。悪いが、先に休ませてもらうぜ。何かあったら叩き起こしてくれ」
「もうひとつ。七日で何も起こらなかったらどうする?」
「そのときは間抜け面して手ぶらで帰ればいいだけだ。痛くも痒くもない」
最後のほうは声が間延びしていた。やがて寝息が聞こえ始める。アシュレイは周辺の警戒を行うため外に出て、音を立てないようゆっくりと扉を閉めた。
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