「秋山が寝た理由」欄のある学級日誌 ～秋立１４冊目👊～

コスモスのせい

　～　九月二十三日(日)　後半　～

　　　コスモスの花言葉　愛や人生がもたらす喜び

「……ぎゃー……。……もう許してください……」

　ざわざわざわ……。

　ざわざわざわ……。

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

　ぱちぱちぱちぱち！！！

　ぱちぱちぱちぱち！！！

『何も聞こえてない何も聞こえてない……。こ、こほん！　とうとう全面戦争へ突入してしまった両国！　はたしてこの戦争の結末やいかに！　戦争終結の鍵を握る王女は楽屋で籠城中ですし、既にあたしにも結末は分かりません！』

「国王様を返せー！」

「六本木君を解放してー！」

「うるさい。今はお仕置きの真っ最中だから後にしなさい。一斉砲撃用意！」

「こっちも砲撃の準備よ！　渡ちゃん、覚悟！」

『お客様へお知らせいたします！　入場の際にお配りした雨ガッパを着用してください！　舞台両側に作られたお城と都庁舎の、大砲の撃ちあいが始まります！』

　ざわざわざわ……。

　ざわざわざわ……。

「……お客様の準備も整ったようね。では……、ファイエル！」

「撃てー！」

　ひゅーーーーーー！

　ばしゃ！　ばしゃばしゃ！

　ばしゃばしゃばしゃ！

　キャー！　キャー！

　客席にも飛んできた！

　やだ冷たいー！

　楽しいわねえこれ！

「つめたっ！　このやろう、容赦しねえぞ！」

「やるなあいつら！　三階までバケツで水風船を引き上げてやがる！」

「こっちも秘密兵器だ！　魔法少女マジカル・ソルセルリーちゃん弾を三階まで上げろ！」

「綿あめの袋、どうやって縛ったらいいんだ？」

「キャー！　水風船、もっともって来て！」

「ずるい！　男子、なんか大きな袋持ち出した！」

「運んでるやべっちを狙えー！　……やった！　落っことした！」

「衣装が両国ごちゃまぜなんだけどさ、いつから男子対女子になったんだっけ？」

『客席へも「流れ弾係」の投げる砲弾が飛びますので気を抜かないでください！　さあ、両国総出の砲撃戦！　道久王子を手に入れるため、命の限り砲弾を投げ合います！』

「ねえみんな！　聞いて欲しいのです！　これ、抜かないとまずいと思うのです！　……つめたっ！」

『ちょっと秋山！　なんでそんなとこにいるのよ！！！』

「だってしょうがないでしょう！　これ、早く抜かないと！　それに、女子に囲まれたところで逃げ出すくらいわけ無いのでげふっ！」

「ははっ！　わけ無かったのはどっちかな？　おーい！　お前らの王子は預かったぞー！」

「うわあ。秋山、弱ぁ……」

「ひょっとして、また気絶してる？」

「いえ、ぎりぎり持ちこたえています……。助けて、渡さん……」

「ほんとは見捨てたいとこだけど仕方ないわね。……敵軍に告げる！　あなた方の国王と引き換えよ！　みんな、隼人を舞台に連れて行って！」

「へーい。……うわ、お前ほんとに六本木か？　いったいどんな目に遭ったらそんなに人相変わるんだよ……」

「………………知りたいか？」

「いや、彼女が出来るまで遠慮しとく。……おーい！　連れてきたぞー！」

　きゃー！　六本木せんぱ……い？

　誰？　あの頬がこけた人？

　死んだ魚の目をしてて怖いわね……

「……よう、諸悪の根源」

「失礼な。あれは六本木君の自業自得なのです。あと、レコーダーを勝手に持ち出した責任は穂咲にあるのです」

「その藍川はどうした？　見当たらねえけど」

「ほんとなのです。謝ってあげたいのですが……」

「そうじゃねえだろ。ヒロインがいなきゃ、芝居が終わらねえだろうが」

「……お芝居？　これがですか？　さすがにそれは無理があるのです。限界まで良く言っても、ただ俺たちが面白おかしく悪ふざけしているだけです」

「お前ら勝手に話すなよ。物語的には緊張の瞬間だろうが」

「ははっ！　秋山君は人質の自覚がないみたいだねー！」

「だからってロープでぐるぐる巻かないで欲しいのです。……いたたたたたっ！　ちょっとこれ、ほんとに動けないのです！」

「では！　人質を交換するぞ！　緊迫感のあるBGM、スタート！」

　ちゃらっちゃちゃらららっちゃちゃ～ん💖

　は～ん💕

　は～ん💕

「それしかないんかーい！」

「ある意味、すげえ緊迫感のあるＢＧＭだが……」

「確かに！　身動きが取れないので、なにされるかわかりません！」

「……どうしてお客はこれで大ウケしてるんだ、道久？」

「俺が知りたいのです！　……ちょっと！　六本木君に近付けないでくださ……、近い近い！」

「押すんじゃねえ！　こんな音楽に騙されるな！　客席はドン引きだろうが！」

　チューウ！！

　チューウ！！

「一部の熱狂的な支持が逆に怖いのです！」

「まったくだ！　……って、瑞希！？　てめえ、客席をあおるんじゃねえ！」

「ごめんなさい。瑞希ちゃんの横で客席をあおってるの、うちの母ちゃんです」

「今度は何だ！？　目隠し？　おいやめろ！　ほんとにやめてくれ！」

「怖いのです！　邪神へのいけにえにでもされている気分！」

　チューウ！

　チューウ！

「頭を押さえつけるな！　怖え！　怖え！」

「だ、誰か助けてーーーーーっ！！！」

　ちゅう♪

　きゃーーーーーーー！！！

　いやーん！

「…………ちゅう、なの」

「穂咲！？　……え？　目隠しを取って下さい！　今俺、何とちゅうしたの！？」

「ちゅう、なの」

「それはハムスター！　ちゅうとは鳴きません！」

「そうなの？」

「は、ハムスターだったのか！　驚いたぜ……。後ろにいるの、藍川なのか？　俺の目隠しも取ってくれ！」

「騒がしいお父様なの。ちょっと待つの。…………あ」

　どん！

「あっ！　むぐっ！？」

「むぐおっ！　ぺっ！　ぺーっ！」

　ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー！！！

　あたしの隼人様の唇がーーーー！！！

　いやー！　何よあの男！　殺してやる！

　ご馳走様でしたなの

　これだから秋山道久は！

　あいつ何組？　ちょっと許せないんだけど！

「…………君のせいで、俺の抹殺待った無しなんですが」

「偶然なの」

「それに君、今、ご馳走様とか言っ」

「気のせいなの」

「うえーーーーーっ！　口を拭きたいのに自由が利かねえもどかしさ！」

「ほんとにうるさいお父様なの。……みなさん、人質交換をしたところで、今日の所は一旦兵を引いて欲しいの」

「……姫様がそうおっしゃるなら……」

「まあ、藍川がそう言うなら……」

「よし！　全軍、引くわよ！」

「全軍撤収！」

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

　じゃーーーーーーーーーん！

　～夜の湖畔～

「……で？　穂咲」

「マリーなの。ようやく静かにお話できそうなの」

「ああ、そうですね、マリーでしたね。Ｔシャツで出てきたからつい本名で呼んでしまいました」

「着崩れちゃったから着替えてたの。時間かかったの」

「それで出てこなかっただけなのですか、俺は怒らせているのではないかとひやひやしました」

「……それより道久君」

「はい」

「なんでお芝居の間はいつも紐でぐるぐる巻きなの？　それに、クワに縛り付けられたりしてかっこ悪いの」

「なんでか理由は分かりませんが、結果、会場のくすくす笑いをゲットできたのでこれをやった女子一同は今頃舞台袖でガッツポーズでしょう」

「ふーん……。あのね、道久君」

「はい」

「あたしは道久君よりも、平和を取ることにしたの」

「……それで本当にいいのですか？」

「だって、道久君チャーハンも食べてくれないし、お化粧も褒めてくれないし」

「そういう自分の価値観を当てはめちゃいけないと思うのです。トロッコ問題と言いまして、五人が乗っているトロッコが二またに差し掛かって、片や崖になっていて、片や線路に縛り付けられた人がいる場合どっちを取るのです？」

「……自分が助かりたいからごまかしてる？」

「いいえ決して。さあ、どちらを取ります？」

「うう、確かに難問なの。……ねえ、道久君はどう思うの？」

「線路に括りつけられた当人に聞かれましても。トロッコはあっちに行ってほしいのです」

「でも、それじゃあみんなが助からないの。……ああ、わたくしは一体どうすればいいのなの？」

「…………あのね、穂咲」

「マリーなの」

「いいえ、穂咲。実は俺も、王子一人の犠牲で両国の戦争が終わるなら、それが正解のような気がするのです」

「そうなの？」

「すいません。クワを構えないで下さい、まだ話は終わってません。……でもきっと、まだ方法はあると思うのです」

「どうするの？」

「どうなるか分かりませんが、明日の開戦前、俺が思い切って両国の間に立てばいいと思うのです」

「……立つの？」

「得意ですし」

「最近立ってないから、腕が鈍ってると思うの」

「鈍るのは足なのですが。ええと、つまり、二つの国が一つの国になれば戦争は止まると思いませんか？」

「…………おお。なんだか画期的なアイデアなの」

「両国の王様には隠居してもらって、俺が新王になると宣言するのです」

「大胆なの」

「そ、それでですね……。あの、できれば……、君が妃にごにょごにょごにょ」

「舞台なんだから大きな声で言うの。こんなにそばにいるあたしにもごにょごにょ以外何にも聞こえなかったの」

「…………ほ、穂咲がお妃になって下さい！！！」

「…………まあ！」

「穂咲……！」

「道久君……！」

　ちゃららら～、ちゃららら～。

　ちゃららら、

　ちゃららら、

　ちゃららら、

　ちゃららら……、

　ジャーーーーーン！！！

　ちゅっ

「ハムスター！」

「……マリーなの」

「え？」

「穂咲じゃなくてマリーなの！」

「…………ほんとだ。…………え！？　俺、いつから穂咲って呼んでました！？」

「浮気者の王子なの！　穂咲って誰なの！？　きっと絶世の美女で、スタイルだってぼんきゅっぼーんな大人の女性なの！」

「ぺたん、ぽよん、だるーんな子供の女性ですよ？」

「…………み…………」

「み？」

「やっぱり奈緒ちゃんみたいにおっぱいがある子がいいのねーーーーーーー！」

「『み』はどうした！？　あと、原村さんのおっぱいは関係ないでしょ！」

『ゴホっ！　ゴッホゴホ！』

「ゴメン原村さん！　後でいくらでも謝るからナレーションよろしく！」

『え？　ナレーションって、何をすれば？』

「待てマリー！　どこに行く気だ？　……まさか！　こうしちゃおけない！」

『なんだ秋山、ロープほどけるんじゃない。それよりどこに行く気…………、ええええええ？　うそ！　壊したんじゃなかったの！？』

　バキン！

　ボキン！

　ガラガラガラ！

　ウイーーーーーン！

　ジャキーン！！！

『……ＧＥＴ　ＲＥＡＤＹ！』

　キャー！

　お城が壊れて……？

　なんかかっこいいのが出てきたー！

　わはははは！　どうなってるんだこれ！

　凄い！　無駄によくできてる！

　いや、よくできてるってレベルじゃねえだろ！

　コックピットは丸見えなのな

　お芝居用に工夫したんだろ？　それよりめちゃめちゃかっこいいなこれ！

『もう怒ったの！　道久君を倒せば、世界は平和になるの！』

『そうはいかん！　俺は何としてでも生き延びる！　城も壊れちゃったし！』

『こっちは都庁がめちゃくちゃなの。どっかで聞いたことあるの』

『言うなーーーー！　ねえ、ロボの武器はどこにあるのです！？　え？　このライフルを構えて撃てと？』

　ウイーーーーーン！

　ジャキーン！！！

　………………ジョバーーーーー！

『でかい水鉄砲！？　うわ！　ゴメン！　コックピットのカバー外してあるから直撃しとる！』

『ひやーーーー！　びしょびしょなのーーーー！』

『ほんとゴメン！　だが、どうやら俺の勝ちのようなのです！　そちらは素手ですし、ここまで届かないだろ～！』

『うう！　怒ったの！』

『いやいや、腕を伸ばしたところでここまで届かないと……』

『ロケットパーーーーンチ！』

　ウイーーーーーン！

　ゴゴゴゴゴゴゴ！

　ズドン！

『フォークリフトで振り子のように！？　ごはっ！　凄い衝撃！　シートベルトしてなかったら落っこちてましたよ？』

『そして接近戦でとどめなの！』

『うわわわわ！　ちょっと！　ロボが歩くのです！　怖い！』

　……ズシン！

　メキメキッ！

　バキン！

『あーーーーっ！　散々心配した俺の気持ちごとステージを踏み抜いたのです！』

『……うっぷ……、酔ったの……』

『なんてロボに向いていない子！　チャンスはチャンスなのですけど、殴るわけにはいかないのです！　怪我しちゃう！』

『うう……、あれ？　勝手に腕が持ち上がってるの。ＡＩ？』

『下でおにいさんが勝手に操縦してるだけですよ！　ストップストップ！　それ、ほんとに怪我しそう！　…………お？　止まりましたね』

『…………やっぱりわたくしには、王子様を倒すことなんてできません』

『え。……うそでしょ？　ここでお芝居に戻るのです？』

『さあ、その銃であたしを叩いて、すべてを終わらせてください！』

『コックピットから身を乗り出しての熱演は素敵だと思いますが。俺にだってそんなことできませんよ』

『ああ！　でも王子に殴りかかった罪は消えない！』

『……お？　それ、昨日読んだ台本ですね。確か、湖畔で短剣を喉に突き付けるシーンだったような……って！　パイルバンカーをコックピットに突き立てないで欲しいのです！　危ないよ！』

『王子様に出来ないのなら、潔く、あたしはここで自らの魂をこの小さな器から解き放ちましょう！』

『は、早まるな！　マリー！』

『そのお気持ちだけを胸に、マリーは旅立ちます。さあ、王子様！　私へ最後の言葉を下さいませ！　その言葉、しかと受け止めましょう！」

『マリー！　今、私の胸を苦しめる、一番の想いをここで言おう！』

　ちゃららら…………

　ちゃららら…………

　ちゃららら

　ちゃららら

　ちゃららら

　ちゃららら

　じゃーーーーーーん！

『そんなに身を乗り出したら、びしょびしょＴシャツから透けた下着がお客様に丸見えですよ？』

『…………ひやーーーーーーー！』

　ちゃらっちゃちゃらららっちゃちゃ～ん💖

　は～ん💕

　は～ん💕

『ＢＧＭのタイミングが秀逸！　あとで誰が担当だったか絶対突き止めてやる！』

『…………み…………』

『み？』

『道久君の、バカ―！』

『待て！　ロボでパンチするやつが……、うわあああああああああ！』

　どかん！

　……ベきい！

　…………どんがらがらがらがら！！！！！

　ずしーーーーーーーん！！！！！

　うわーーーー！

　きゃーーーー！

　ロボが照れ隠しパンチ撃った！

　撃たれた方、ロボごと倒れたけど……

　中にいたヤツ平気なのか！？

『あ、秋山！　大丈夫！？　…………え？　ここであたしがしめるの！？　ええと…………。げ、玄米国の巨大ロボによる強烈なパンチがさく裂！　ライ麦国のロボは、大の字に倒れました！　こうして長きにわたる戦いは、王子と王女の一騎打ちで幕を閉じ、玄米国の国王は、ライ麦国の王女を平伏させたのでした！』

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

「…………俺の国が勝ったんだよな？」

「そうなんじゃない？」

「だったら、俺がぐるぐる巻きのままっておかしいだろ」

「…………あんたは一生そうしてなさい！」

「もう、許してください王女様」

『ちょっと！　それじゃ逆よ！　……こ、このように、恋と言うのは不思議なもので、時に国の諍いの種となり、時に国の優劣を付けるのです！　め、めでたしめでたし！！！』

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

　だらららっ！

　だらららっ！

　だらららったったったったん！

「めでたくねえ！」

『……め、めでたく無いのです……』

　じゃーーーーーーーーーん！！！