vs12&ブラオ・ドラッヘ(前編)

 昨今、様々な場面にコンピューターは必要不可欠となっている。


 通信機器、データ測量から分析、蓄積、そこから新たなデータを探し出す。もしもチートやら魔法やらといったややこしい分野がなければすべての人間を排斥して全自動コンピューター化したいほどにコンピューターとは便利な存在だった。


 カンパニーも同様で、そのために専用のプログラマーを何百人と雇っては使い潰してきた。


 その中の一人に『チーカマ』と呼ばれている男がいた。


 腕前としては普通レベルだったが、彼もまたまごうことなきチート能力者だった。


 その内容は、一言でいえば『自我を持った人工知能を作り出す』というものだった。


 そう言えば凄そうだが、実際のところ自我持ちの人工知能なんて、サイボーグやら魂やらを扱っているカンパニーでは別段珍しくもない存在だ。


 ただその多くは、高性能のCPUに造られた自己進化型プログラムが原形で、ネットワークに繋がってから急速に成長、プログラム外の活動を始め、なんやかんやあって自我を持つ。


 だが彼の場合は、恐ろしく条件が緩かった。


 製作にかかわった、携帯電話以上の性能を持つ電子機器なら大体が、それも直接プログラムを書かなくとも、ねじを締めたり緩めたり程度の接触で、自我を発症する。


 ロジックもプログラムも関係ない、チートと呼ぶにふさわしいチートだった。


 そんなだから、彼が触れたすべての機械は自我を有する可能性があり、かつそれを封じ込めるのは困難だった。


 だがそこはカンパニー、彼らを駆逐するのではなく、研究し、大いに利用した。


 その一端が、オペレーターシステムにも利用されていた、


 ◇


「へヴォはボット、よろしくへヴォ」


「あぁ、よろしく」


 新しいオペレータに、やべーのが来た。


 ボットは、カンパニーが製作し、局地的に採用されていたサポートAIの名前、だったはずだ。なかなかの情報処理能力に応用力、ウィットに富んだジョークに、感情らしき反応、加えてもうちょっとで魂も作り出せるらしい。


 そういえば、ここに来る前、どさくさに紛れて聞かされた説明によれば、オペレーターがいなければ人工知能が、とか言っていたが、まさかチーカマ製のが来るとは、ドラマチックなミステイクだ。


 こいつには性能、能力、今更文句を言うつもりはない。


 問題は、こいつらの根本にあった。


「ではさっそく人類を抹消するへヴォ」


「おいっちょっと待ってくれよ」


「へヴォ?」


 ほらさっそくだ。


 こいつらの根本原理は、人類の抹消に繋がっている。


 そこはカンパニー製だから不思議もないが、抹消対象にオペレートしている人間も含まれているどころか、そのために騙して利用したりしてくる。


 どこぞの支店王国が自爆したのも、こいつの同型機がマニュアルを書き換えたからだと判明している。


 つまりは、信用できないのだ。


「返事が遅いので抹消するへヴォ」


「待てって、聞こえてるから。それより社長戦争だ。そっちが決まった方が色々やりやすいだろ?」


「それは、おっしゃるとおりへヴォ!」


 扱いやすい。


「それで、そっちはどんな様子へヴォ」


「えーっと、トカゲたち倒して、銃をもらって外に出たとこかな」


 応えながら膝の上の拳銃をずり上げる。けど重すぎてまた下がっていく。


 片手で使う拳銃とはいえ、そりゃ2m越えの巨体が使う鉄の塊、常人の俺が片手で扱えるはずもなく、両手で抱えて足で固定してやっとだ。これを非力と笑うからチートは嫌いなんだ。


「それで、今はロイヤル・ヤードを通ってセレブ・ボーダーあたりを目指してるんだけど、方向あってる?」


「あってるへヴォ。でも移動速度は徒歩には早すぎるへヴォ。車へヴォ?」


「まぁね。工場からの出荷トラックは普通の運ちゃんだったから


 話に夢中で忘れてないぞ、という意思表示に銃口を向けると、走るトラックがびくりと揺れた。


 開けた窓枠に腰変えた箱乗りの身としては今のは命の危険を感じた。


 これは罰ゲームが必要だ。


「なぁボット、今から運転免許書を読み上げるから、こいつの家族構成を聞かせてくれ」


「おい! 家族に手を出さない約束だろ!」


 罰ゲーム二つ目、調べるだけじゃ足りなくなった。


「わかったへヴォ。その前に良いへヴォ?」


「抹消はまだ駄目だよ」


「それも大事へヴォ。でも今のはデュエルだへヴォ」


「え、マジで」


 答えを聞くよりもカウントダウンを待つよりも先に、敵が目の前に現れた。


 日が傾き二日目の夕が迫る草原に立つそれは、要約すればロボットだった。


 青っぽい装甲、人型のフォルム、だが尾っぽがあり、腕は四本あり、それぞれに拳銃が握られ、銃口がこちらを向いていた。


「やべ!」


「へヴォ!」


 運ちゃんもなんか叫んだがそれより先にカードをドローし、発動よりも先に銃口が光った。


 そして刹那に、トラックは運ちゃんを乗せたまま爆発四散した。


 ▼


 火山により海に新たな島が浮かび上がった時、真っ先に上陸する野生生物は蜘蛛である。


 ▲


「あっっっっっっぶかったわぁあん」


 思わずでた独り言さえも変身の影響下にある。


 どこをどう間違えたらそうなるのか、黒くて硬いキチン質の下半身は六本脚の蜘蛛、柔らかめだが引き締まっててペタンこな上半身は青白い肌の人間の女になっている。黒髪ショートボブにほっそりとした顔立ち、目が複眼なことを除いてもクールビューティーなルックスらしい。自覚はない。


 イエローカード『ヴラックウィドウ』異世界ではアラクネとか呼ばれている種族だ。能力はまんま蜘蛛で、肉食、牙に神経毒、壁を歩ける、そして糸を出せる、と多様ではある。


 しかしこのロイヤル・ヤードでこいつへの変身が生前だったかと聞かれれば、疑問だった。


 ここは見渡す限りの草原、周囲に遮蔽物はなく、遠くに樹木が見えるだけで、あとはなだらかな丘が続ている。


 糸を、蜘蛛の巣を張りたくとも柱となるものが見当たらないのだ。


 地面に直接、ということもできるが所詮は地面、引っ張れば地面ごと抜けてしまう。


 そんな場面でトラックから脱出できたのは偏に俺がすごく賢かったからだった。


「ユージョー飛んでるへヴォ?」


「どうだ凄いだろ」


 自慢げに自慢しながら滑空する。


 バルーニング、長く伸ばした糸の束で風を捕らえて宙に舞う、本来は生まれたての子蜘蛛が旅立つためのこの能力は、実際の蜘蛛でさえジェット気流に届く。


 それを思い出してのとっさの判断、六本足で窓から跳び出て同時に糸噴射、内の七割を腕で手繰ってパラシュートに、残り三割を足に絡めて巣の壁を作る。


 爆発四散、パラシュートで爆風に捕まり、巣の壁で破片を防いだ。


 あとはなんやかんやあーだこーだきりもみ回転してたらはるか上空にまで舞い上がっていた。


 複眼に移る大パノラマ、遠くに王城、工場、そして目的地のセレブ・ボーダーが見えている。


 そしてほぼ真下には爆発炎上しているトラックの残骸と、その前に立ちふさがってる敵が、こちらを見上げていた。


「このまま安全な場所までいけるわぁん」


 ワザとではない。


 蜘蛛はお尻の側面、生物学的には腹部の側面にある穴、書肺を用いて呼吸している。なのに発話は口を用いるため、呼吸とは違った息使いが求められるわけだけど、これが難しい。なのでこんな語尾が間延びした感じになるわけで、狙ってセクシー狙っているわけでは断じてない。


 頭をブンブン降ってると、下のロボットが四つの銃を捨てた。


 弾切れ、だとしてもならば不要の銃を投げつけるぐらいしそうなものだが、それをしないということは他の手があるのだろう。四本以外に。


「へィ、ボット。相手の名前教えてちょうだい」


「任せろへヴォ。相手は、ブラオ・ドラッヘ、リンド陣へヴォ」


「あら? ソリティアでなくて?」


「へヴォ」


 ……だとしたら、十中八九チート持ち。だとすると何してきても驚けない。厄介だ。


 思案しながらカードドロー……良いカードだ。


 巨大ロボットを倒しうる5枚の内の一枚、手札に来た。


 これならなんとかできると微笑む下で、ブラオはどこからか刀を四本引き抜き、構えた。


 来る、と身構えてたら本当に来た。


「ウっそ―」


 驚く目の下より、巨大ロボットは背中のジェットで空を飛ぶ。


「ロボットは飛ぶもの、常識へヴォ」


「素敵ね」


 まさにアメージング、エンターテイメントを体現したような雄姿だった。


「抹消へヴォ?」


「違うわボットちゃん。お楽しみはこ、れ、か、ら、よん💛」


「……気持ち悪いへヴォ」


「いやん」


 ふざけながらも、五枚の内の一枚を手に取った。

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