第33話 自分だけかわいく描いて!

 休み時間、風間さんは自由帳に絵を描いていました。


「本当に上手だよね~」

「かわいい」

「ありがとう」


 親友二人に誉められて、風間さんは喜びました。


「あー! また風間さん、絵を描いてる~」


 そこに会田あいたさんがやって来ました。会田さんは風間さんの自由帳を指差しました。


「これ、あんたたち三人?」

「そうだよ」


 風間さんの親友の一人が、少し嫌そうに答えました。今、風間さんは自分たち仲良し三人組のイラストを描いていたのです。色鉛筆を使って、かわいいドレスを着たお姫様のような自分たちを描いていました。


「へぇ、なかなか良いわね」


 会田さんからの評価に、風間さんたちは目を丸くしました。三人は、その意外な展開に驚いてしまったのです。しかし、風間さんは嬉しくなりました。


「あ、ありがとう……」

「特にこれ! 風間さんでしょ!」


 風間さんの言葉を気にすることなく、また絵をビシッと指差す会田さん。その真っ白い指の先にあったのはピンクのドレスを着た女の子でした。


「う、うん」

「やっぱり~! だって一番かわいく描けているもんね!」

「そうかな?」

「もうっ、自分だけかわいく描いて!」

「えっ……」


 そのとき、風間さんから笑顔が消えました。そして入れ替わるように現れたのは、たくさんの涙でした。


「会田さん! 何てこと言うのよ!」

「最低!」

「何よ! あんたたちだって、そう思っていたんじゃないの?」

「私……そんなつもりは……」


 風間さんは泣きながら、親友二人に話しています。


「大丈夫、分かっているから」

「よくも泣かしたね! 先生に言いつけてやるっ!」


 親友二人は、風間さんを慰めながら職員室を目指しました。一人になった会田さんは、自由帳を手に大笑いしました。


「あいつ……自分大好きねぇ! あっはっは……」


 会田さんは右手で持ったそれを床に投げ捨てました。そして踏みつけました。


「何てことをするんだ!」

「はっ、誰?」


 聞き慣れない声に驚き、会田さんは動きを止めました。その直後、会田さんにビュンッ!

と、たくさんの細い何かが飛んできました。


「ギャッ!」


 風間さんの色鉛筆が、次々と会田さんの左胸に直撃します。


「我々のご主人様は友だち思いだ!」 

「自分を先に描き終えて、大好きな二人は時間をかけて、もっとかわいく描こうとしていたの!」

「そんな彼女を傷つけて良いと思っているのか!」


 赤、黄色、青……。色鉛筆たちは持ち主への思いを熱く伝えながら突撃しました。そして、いよいよ最後の一本となりました。


「私を好きになってくれて、いつも楽しく使ってくれたあの子をいじめるなんて……」


 風間さんが一番大好きだったピンクの色鉛筆が、怒りを露にして敵に接近しています。


「絶対に許さない!」


 ピンクがとどめを指し、色鉛筆たちの戦いは幕を閉じました。




「君は、これからも胸を張って絵を描き続けるんだよ」

「……はい」


 風間さんたちが、担任の先生を連れて教室へ向かっています。


「ん、何だ……?」


 教室の前には、クラスの仲間以外にも多くの人が集まっていました。


「あ! 先生~っ!」

「ど、どうしたんだ?」


 クラスメートの男子が、顔を真っ青にして先生を呼びました。


「会田が血だらけで倒れているんです!」


 教室では真っ赤に染まった会田さんと、愛する持ち主のために全力で戦って力尽きた色鉛筆たちが倒れていました。また、彼女たちの側には汚れた自由帳がありました。




「風間さんをいじめてから自滅なんて、汚いよな」

「あいつプライド高い奴だからね~。謝るくらいなら消えたかったんだよ絶対」


 後日、会田さんは自らこの世を去ったという噂が学校で流れました。また、会田さんが風間さんを傷つけたことが児童たちに知られました。風間さんの色鉛筆は、嫌がらせの一環で会田さんが粉砕したのだろうと、学校のみんなは思いました。


「会田さんは地獄行きよね」

「地獄絵図……」


 学校で会田さんをかわいそうだと思う人は、一人もいませんでした。そして会田さんの家族は風間さんにきちんと謝罪し、色鉛筆も自由帳も弁償しました。

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