第31話 何でも言う病
「その服、変だよー」
「何でそんなヘアピンにしたの? かわいいつもり?」
「このハンカチ微妙~」
「太っているから水着が似合わないね! いつも水泳の時間、かわいそう!」
井坂さんは思っていることをズバズバズケズケ言ってしまいます。それを注意する子は、一度しか出てきませんでした。指摘された井坂さんの反応は……。
「友だちだからこそ何でも言えるんじゃないの? いちいち相手が傷つかない言葉、選ぶの? そんなの友だちじゃないから! 本当の友だちは、ぶつかり合って仲良くなっていくんでしょ!」
井坂さんは親友に怒鳴り散らしました。その言葉に何一つ返さず、親友だった彼女は井坂さんから離れました。
やがて井坂さんは、一人ぼっちになりました。
「みんなが傷つきやすいだけじゃん。弱いんだよ。何よ、あたしが毒舌キャラとか嫌われ者みたいにされちゃって……」
それでも井坂さんは、自分が仲間たちから嫌われてしまった理由を受け入れようとしません。井坂さんの言葉に傷ついた子たちが悪いと思っています。
「うわっ、センスないシャツ!」
「こういうかわいいの持っている自分がかわいいと思っているんでしょ」
「いつも暗いよね、あんた」
「ガリガリね。骨みたい! ご飯きちんと食べなきゃ!」
井坂さんは相変わらずでした。もう誰にも相手にされていないにも関わらず、一人でずっと心ない言葉をたくさん発していました。
「え、歯が痛い?」
「うん」
「じゃあ……」
ある日、井坂さんは急に歯が痛くなりました。それで口数が少なくて、井坂さんのクラスは今までで最も穏やかな日でした。みんな清々していました。
お母さんから診察券や財布など必要なものを渡され、井坂さんは近所の歯科医院へ向かいました。
「こんにちは」
院内に入ると、井坂さんは驚きました。そこにいたのは、若い男の先生だけだったからです。
「ぼく以外のスタッフは今日、休みなんだ。でも大丈夫。悪いものは全部やっつけるさ」
「は、はい……」
「では、こちらへ」
少し怖いと感じた井坂さんでしたが、その先生の台詞に安心しました。治療はすぐに始まりました。
そして、すぐに終わりました。
「これで良し、と……」
先生の目の前には、血だらけの井坂さんがいました。部屋を移動した直後、先生は井坂さんを椅子に座らせ、身動きが全くとれないようにしました。そして歯の治療に使う道具や無関係の鈍器や花瓶などを持ち出して、井坂さんの口を中心に彼女の体を傷つけ始めました。
「何でも言う病は、ちゃんと治療しなくちゃね……」
そう呟くと、先生は井坂さんを残して消えてしまいました。
「あれっ! 急だな~」
そのころ、一人の男性が歯科医院の前で困っていました。この歯科医院は、今日は急な休みだったのです。扉の張り紙は、井坂さんが来たときにはなくなっていました。
翌日、また歯科医院は休みとなりました。スタッフたちが血塗れの人間を発見して大騒ぎとなったからです。
「井坂を血だらけにした歯医者さん、新人いじめがすごかったらしいぞ。いつも職場のみんなから悪口を言われていたって」
「へー」
「その新しい歯医者さんは失踪した挙げ句、どこか高いところから落ちたって……。それで、あの日は緊急で休みになったとか」
「ま、まさか!」
「え、何?」
「そ、その新しい人が……お化けになって、井坂をやっつけたとか……」
「いや、それはないだろ」
「だ、だよな……」
やがて、その歯科医院は悪い噂ばかり流れて潰れました。また、井坂さんを迎えた新人の歯科医が地上で姿を現すことは、もう二度とありませんでした。
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