第28話 猫に石ころ
学校の帰り道に、せいやくんは捨て猫に出会いました。今は雨が降っているので、猫はびしょ濡れです。
「……かわいそう……」
せいやくんは今まで一度も動物を飼ったことがありませんが、猫を助けたいと思いました。
「ごめんね。でも、また明日来るから」
せいやくんは猫の体をハンカチで拭き、自分が使っていた傘を段ボールの中に置いていきました。雨は真夜中まで降り続けましたが、もう猫の体は濡れませんでした。
「つらくなったら先生に言うのよ。行ってらっしゃい」
「ありがとう、お母さん。行ってきまーす!」
マスクを着けているけれど、せいやくんは嬉しそうに家を出ました。
しかし、その笑顔は登校中に崩れました。
「あはは、やっちまえ!」
「何こいつ! やべーぞ毛ぇ!」
男子二人組が、昨日せいやくんと出会った猫に石を投げつけています。せいやくんのクラスメートであるこの二人は、とても意地悪です。常に威張っていて、気に入らないことがあるとすぐに怒り出します。
「コラ、何やってんだー!」
意地悪二人組が後ろを振り向くと、そこには……。
「うわっ、クソジジイ!」
おじいさんが鬼のような顔で立っていました。とても優しいけれど、真面目で厳しいことで有名なおじいさんです。
「君は学校へ行きなさい。この二人は任せてくれ!」
「はい!」
自分で注意することが怖くなったせいやくんは、近所に住むこのおじいさんを呼びました。また、おじいさんは自宅の近くに捨てられている猫をずっと気にかけていました。しかし、おじいさんと奥さんは猫アレルギーなので飼うことは厳しかったのです。
「せいや、てめえ!」
「チクりやがって!」
おじいさんに腕を掴まれている二人は、せいやくんの背中を見てギャーギャー喚いています。せいやくんは逃げるように先を急ぎました。
おじいさんのお説教が終わり、二人組は走って学校へ向かいました。しかし校門は閉まっています。
「おれら遅刻じゃねーかよ! くそっ!」
「あいつら、ぜってー許さねー!」
「まず、せいやから潰そうぜ!」
「あの野郎……ビビりのくせにジジイを利用しやがって!」
男子たちは怒り狂っています。そんな二人のもとに、ちょこちょこと何かがやって来ました。
「ニャー」
「あっ、お前!」
猫を見て、ますます二人の心は荒れました。
「こうなったのは、お前のせいだぞ!」
「あんなとこに捨てられてんじゃねーよ!」
「……ンニャアアアアッ!」
そのとき、猫は雄叫びをあげて二人に襲いかかりました。
「はっ、お前みたいなの全然怖くなんか……ギャアッ!」
猫は男子の一人に噛みつきました。その男子の体は、あっという間に真っ赤に染まりました。
「うっ、うわああああっ!」
もう一人は逃げようとしましたが、もう猫はその男子の目の前に来ていました。
「ギャーッ!」
猫は数秒前と同じように、二人目もガブガブと食い千切りました。
「……ニャ」
猫は満足そうに、ちょこちょこと元の場所へ戻っていきました。
「うっ、うわあー!」
猫が姿を消した直後、校門の様子を見に来た先生が叫びました。左胸がきれいになくなり、赤く染まった二つの胴体が先生を驚かせたのでした。
「おいでトラキチ!」
「ニャ~」
その後、猫はせいやくんの家族となりました。猫はオスの茶トラであったため、せいやくんにトラキチと名付けられました。
あの日トラキチが虎のように人間の心臓を噛み砕いていたということを、せいやくんは知りません。
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