第18話 無理矢理おままごと

 幼稚園でのお弁当の時間が終わり、みんなは今、部屋で楽しく遊んでいます。ともえちゃんが一生懸命お絵描きをしていると、みずほちゃんがやって来ました。


「それ早くやめて。おままごとしないと、お友だちじゃなくなるよ」


 そう言われると、ともえちゃんは怖くなって素早くクレヨンとスケッチブックを片付けました。すると「もっと早くしてよ!」と言われながら、みずほちゃんに腕を引っ張られました。

 そして、いつもの二人きりのおままごとが始まりました。


「あたしがママやるから、ともえちゃんは子どもよ」

「えー。ともえ、ずっと子ども役。たまにはママやりたい……」

「お友だちじゃ、なくなるよ」


 ともえちゃんは、また怖くなりました。


「……ママ、今日の夕ご飯は何?」

「今日はねぇ~……」


 そこで、ともえちゃんが少し苦しそうな顔をしました。


「あらあら。どうしたの、ともえ」

「おトイレ行きたい。うんちしたい……」

「まあ大変! ほら早くしなさい!」


 みずほちゃんがママ役を続けながら指差したのは、近くにあるロッカーでした。


「え、でも……」

「さあ、そこでしなさい!」

「みずほちゃん……ともえは本当の、おトイレに行きたい」


 ともえちゃんは、お腹を押さえながら弱々しく言いました。すると、みずほちゃんはカッ! と鬼のような恐ろしい形相になりました。


「じゃあっ! おままごと、やめるのねっ! あんたなんか知らないっ! 早くうんち行けば!」


 おままごとセットを蹴り、みずほちゃんはスタスタとピアノの方へと足を進めます。それを見て、ともえちゃんは言いました。


「ごめんね! ともえ……もう、うんちしたくない! おままごとしよう!」


 その言葉を聞いた直後、みずほちゃんは振り返ってパアァッ……と笑顔を見せました。本当は体がつらいけれど、ともえちゃんはホッとしました。




「え、ともえちゃん休みなの?」


 翌朝、みずほちゃんは先生から「ともえちゃんは今日お休みです」と聞いて驚きました。昨日ともえちゃんはトイレへ行かずに、おままごとを続けてしまったことで体調が悪くなってしまったのでした。

 しかし、みずほちゃんは……。


「何よ、おままごとできないじゃない!」


 ぷりぷりしながら幼稚園の外に出て、石ころを蹴りながら、ともえちゃんに怒っていました。ともえちゃんが幼稚園を休むことになった原因が、自分であることも知らずに。


「あぁーっ! 休んでんじゃないわよっ!」

「じゃあ、ぼくたちと遊ぼう!」


 みずほちゃんが地団駄を踏んでいると、おままごとセットが目の前にパッと現れました。


「……ギャーッ!」


 みずほちゃんは悲鳴をあげました。いつも使っている、あのおままごとセットが宙に浮きながら話している……。すぐに逃げようとしましたが、みずほちゃんの体は全然動きません。そんなみずほちゃんを気にすることなく、おままごとセットは楽しそうに動いています。もう、おままごとは始まっています。


「ほらほら、お料理ができたよ~。召し上がれ~♪」

「た、食べられないわよ……そんな、おもちゃなんて……」


 みずほちゃんは泣きながら拒んでいます。すると、これまで楽しそうに話していたおままごとセットが全て一変しました。


「食べるの!」


 おままごとセットたちは怒鳴り、みずほちゃんに近づきました。そして、また明るい声を出しました。


「はいっ! あーん♪」

「ん、ぐっ!」


 料理に扮したおままごとセットの一部が、みずほちゃんの口の中へと入りました。


「はい、ごっくん♪」


 口の中に入った固いものを、みずほちゃんは必死に飲み込みました。このおままごとは、みずほちゃんが料理を完食するまで続きました。


「残さず全部食べて、おりこうさんだね♪ また遊ぼうね、みずほちゃん。バイバイ!」


 残ったおままごとセットが、みずほちゃんに別れの挨拶を告げました。しかし、みずほちゃんは倒れているので聞こえませんでした。




 みずほちゃんがおままごとセットを食べた翌日、園長先生は「おままごとセットの使い方」について、たくさんの園児の前で話しました。その話を聞いた園児たちは「あんなの食べるなんてバカみたい!」などと言いながらゲラゲラ大笑いしていました。




 数日後、ともえちゃんは元気になって幼稚園に行きました。そして……。


「先生、お誕生日おめでとう!」

「まあ! ともえちゃん、ありがとう!」


 ともえちゃんは、先生に誕生日プレゼントを渡しました。それは先生の似顔絵でした。病気になる前の日から頑張って描いていたのです。

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