第16話 カメの仕返し
「何ノロノロしてんだよ!」
「ごめんね」
休み時間が始まる前、アンケートを実施しました。今はそれを回収しています。はるきくんは回収係ではありませんが、みどりちゃんに怒鳴っています。
「お前が遅いから、近藤ずっと待ってんじゃねーか!」
「別にそんな……」
「近藤くん、本当にごめんなさい」
みどりちゃんは改めて謝りました。近藤くんは困りながら「良いって」と言いました。
「あー、急いで場所取りしなきゃいけねーのに! 近藤、先に行くからな!」
はるきくんは、みどりちゃんが二回謝ったことを全然気にもせず、ボールを持って友達数人と教室を出ました。その様子を見て、みどりちゃんは言いました。
「行きなよ。アンケート、私が職員室へ持っていくから」
「えっ?」
「遅くなった罰」
みどりちゃんは教卓の上にあるアンケートを持ち、頭を下げて去っていきました。
翌朝、女子のみんなは教室で盛り上がっていました。
「みどりんが作ったの? すごーい!」
「かわいい~。私にも作って!」
「ありがとう! 作る作る!」
昨日、みどりちゃんはクラブ活動でカメのマスコットを作りました。これまでに、みどりちゃんが手芸クラブで作ったものは女子全員から好評でした。しかし今回は、これまでで一番の出来映えです。女子がみんなで絶賛していると……。
「へー、それ手作りなんだ……」
「何よ、興味あるの?」
ちょこちょこと来た近藤くんに、みどりちゃんの親友が少々強気に話しかけました。
「えっと……」
「バーカ! そんなもん興味ねーよ」
ズケズケと話に割り込んできたのは、はるきくんでした。
「こんなちっこいもんで、よく騒ぐよな女は。そういう自分が、かわいいと思っているだけだろ?」
「は?」
俯いてしまったみどりちゃんを除く女子全員で、はるきくんを睨み付けました。はるきくんは一瞬ビクッとしましたが、それをごまかそうと、まだ口を動かします。
「だ、大体カメがカメ作ってんじゃねーよ!
これ以上ノロマが増えても迷惑なだけだし!」
そう言うと、はるきくんは近藤くんの腕を引っ張って逃げるように離れていきました。
「あんた謝りなさいよ! 昨日は散々みどりんに謝らせていたくせに!」
「あのとき、みどりんは貸した消しゴムを返されていたから最後になったんだよ!」
「ヤな奴! 気にしなくて良いからね、みどりん!」
女子の総攻撃が始まりましたが、みどりちゃんはずっと黙っていました。
「くそ女ども、今朝はよくもやってくれたな!」
体育が終わり、はるきくんは一番早く教室へ戻りました。そして、みどりちゃんの机の上にちょこんと乗っているカメのマスコットをパッと取りました。
「へへへ……こんなカメなんて」
「君、さっきノロマが増えても迷惑って言ったよね?」
「え? ……そうだけど」
はるきくんは聞いたことのない声に戸惑いました。けれど怖いので、質問には真面目に答えました。するとその直後、
「よし! みどりんに意地悪した君を消して、ぼくも消える!」
「はあっ? どういうこっ……ギャアッ!」
全部言い切る前に、はるきくんは吸い込まれていきました。自分がむんずと掴んだ、カメさんの中へと……。一気にはるきくんを吸い込んだカメさんは、ぷくーっと風船のように大きく膨らみました。
「な、何だっ!」
パーン! と大きな音が聞こえてきたので、教室に向かっていた児童は急ぎました。
「わぁっ! 先生、大変です~!」
教室には大量の粉末が散らばっていました。その後、はるきくん以外のクラスのみんなは先生の指示に従って掃除しました。粉は一つ残らず、きれいさっぱりなくなりました。
放課後、みどりちゃんが親友とカメのマスコットがなくなった話をしていると……。
「あのとき、はるきが『カメなんて消してやる!』って急いでいたのと関係あるのかな……」
話が耳に入ってきた男子が勇気を出して、はるきくんの行動について知らせました。
「ごめん、カメのマスコットのこと分からなくて……」
「気にしなくて良いよ。わざわざありがとう」
その男子は、職員室へと急ぎました。はるきくんが行方不明になったので、先生に情報提供を頼まれていたのです。
「みどりん……」
「まあ、また作れば良いよ」
みどりちゃんは心配してくれている親友に、気にしていない素振りを見せました。実はみどりちゃんは、あのマスコットを見る度に嫌なシーンを思い出すことになるならば、なくなって良かったのかもと思っていました。
帰り道、みどりちゃんは親友と別れて一人で歩いていました。さっきの親友の「消してやるって自分も消えているし」という言葉について、いつもお兄ちゃんが言っている「ブーメラン」ってこういうことかなぁ……と考えていたら、
「あの、みどりちゃん!」
近藤くんがやって来ました。
「マスコット、作り方を教えて! 妹にあげたいんだ!」
「……うん!」
みどりちゃんは喜んで返事しました。
やがて色とりどりの粉は、一粒も残らず燃やされました。
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