第15話 笑いでごまかせ!
三時間目が終わり、日直の高井くんは黒板を消しながら、ある女子に呼び掛けました。
「山田さん、頼むから手伝ってよ! おれ一人じゃ大変だ!」
「あたし今、忙しいから無理~」
もう一人の日直である山田さんは、自分の席に集まった友達と、話に花を咲かせていました。
「手伝ったら?」
高井くんをかわいそうに感じた女子の一人が、山田さんをたしなめました。すると山田さんは、すっくと立ち上がりました。そしてスタスタと高井くんの元へ向かっていくと……。
「……あはははは!」
高井くんの目の前で、変な顔を作りました。それを見せられて、高井くんは大笑いしています。高井くんの様子を見て「よしっ!」と思った山田さんは、さらにおもしろい顔になって、言いました。
「粉が服につくの……い~や~だぁ~」
「あっははははは! 分かった、分かったから……!」
「そ。じゃ、後はよろしくねっ♪」
高井くんの返事を聞いた直後、山田さんはコロッと表情を変え、自分の席へ戻りました。
「え……」
高井くんは呆然としました。そして数秒後、黒板消しを再開させました。
「高井、一緒に帰ろうよ」
「ごめん、みんな先に帰って良いよ。おれ、まだ学級日誌を書き終えていないし、他にも日直の仕事が残っているんだ」
友達から下校に誘われた高井くんでしたが、待たせるのは悪いと思い、断りました。
「ねぇ山田は?」
「そうだよ、あいつ何もしてねーだろ。やらせれば?」
「……うーん……」
「あっ! 山田のやつ、もう帰ろうとしているぜ!」
「よし、止めるぞ!」
「あっ、みんな……」
高井くんの仲良しグループのみんなは、友達と下校しようとする山田さんのところへ急ぎました。
「山田!」
「……あ?」
男子から名前を呼ばれた山田さんは、機嫌が悪そうに振り返りました。
「高井に日直の仕事、押し付けんじゃねーよ」
「そうだよ、かわいそうじゃないか!」
「大体お前……あっははははは!」
山田さんに注意していた男子は、全員笑い出しました。山田さんが、おどけ始めたからです。
「あたし女よ~ん。男なんだから、それくらい頑張って~ん。女の子をいじめないで~ん」
「あーはっはっはっは! オッケーオッケー……」
「良かった。じゃ、バイビー♪」
大爆笑する男子たちに背を向け、山田さんは涼しい顔で去っていきました。
「……し、しまった!」
「やられた……」
「……高井……本当に、ごめん……」
「気にすんなよ、また明日」
「うん、バイバイ」
しょんぼりする友達を見送り、高井くんは日直の仕事に戻りました。
「大勝利~♪」
ルンルン気分な山田さん。友達と別れ、今は一人で家に向かってます。家までもうすぐ……となったところで、
「あはははは!」
たくさんの笑い声が聞こえてきました。山田さんは驚きました。そして周りを見ると、山田さんを指差している人もいました。
……何なの?
ムッとした山田さんは、急遽いつもとは違う道で帰ることにしました。遠回りになりますが、山田さんは耐えられませんでした。
あたしの何がおかしいの……?
やっと人気のない場所に来た山田さんは、気になって鏡をランドセルから取り出しました。そして山田さんは、自分が笑われていた原因を知りました。
「えっ……?」
山田さんの顔は、高井くんたち男子を笑わせたときの顔になっていました。山田さんは帰り道、一人になってから既にその顔になっていました。
嘘! どうしてっ?
元に戻そうとしても、山田さんの顔は全然戻りません。
「……ギャーッ!」
山田さんは絶叫し、涙や鼻水でグチャグチャにもかかわらず、すっかり変わり果てた顔を手で押さえて走り出しました。
「……寺田さん、手伝ってくれて本当にありがとう」
「ううん。あの子が迷惑かけて、ごめんね」
あのとき山田さんをたしなめた寺田さんは「このままじゃ高井くんが大変」と思い、靴箱で山田さんたちと離れて教室へ戻ったのでした。
「高井~。昨日は寺田さんに手伝ってもらったんだってな♪」
「ずるいぞ、お前!」
「くそっ、おれたちを先に帰らせたのは、そういうことだったのか!」
「そんなわけないだろ!」
翌日、高井くんが寺田さんと日直の仕事をしていたことが噂になりました。クラスのアイドル・寺田さんと二人きりだったことを、うらやましいと思わない男子は一人もいません。高井くんは時の人となりましたが、それは一時間目の授業が始まる前に終わりました。
高井くんたちの噂は「滑稽な顔をした山田さんが、道路で転び、頭をぶつけて倒れていたところを発見された」という話によって、あっという間に霞みました。
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