第14話 “No food is good.”“No,food is good.”
「はぁ……」
今日は月曜日です。あさみちゃんは元気がありません。その理由は……。
「給食当番って面倒臭いよね~、あさみちゃん!」
「う、うん……」
親友の言葉にも、元気に返すことができません。たった一週間の辛抱……と思っても全然気持ちが楽になりません。またいつか、給食当番に耐える一週間がくるからです。
「タレがかけてある肉団子! おいしそう!」
「そ、そうだね……」
失敗しちゃったら、どうしよう。
あさみちゃんは不安で頭がいっぱいでした。
「そしたらさー……」
ゆうだいくんがクラスメートと話しながら、給食当番の前にやって来ました。話に夢中で、ゆうだいくんの給食プレートは揺れています。
「あのー、じっとしてもらえないかな……」
あさみちゃんはそう言いましたが、全然ゆうだいくんは聞いていません。しかしその後、プレートが安定しました。大丈夫かな、と肉団子をプレートに置こうとしたそのとき、
「うーわ最悪! 汚れたじゃねーかよ袖!」
「ご、ごめんなさい……」
ゆうだいくんのトレーナーの袖に、肉団子が落ちてしまいました。肉団子がプレートの上に置かれる直前、ゆうだいくんが大笑いしてプレートの位置がずれてしまったのです。
「いや……ゆうだい、今のはさ」
「どうしてくれんだよ! これ気に入っていたんだぞ!」
「ごめんなさい……」
「弁償しろよ! と言っても貧乏そうだしな~お前……あ、そうだ!」
あさみちゃんが泣きそうな顔をしていると、ゆうだいくんが何か思い付いたようです。
「お前の肉団子とゼリー、おれによこせ! そしたら許してやる!」
「う、うん! 分かった!」
ゆうだいくんの言葉に、あさみちゃんはコクコクと首を縦に降りました。
「ちょっと! あさみちゃんは悪くないのに何でっ?」
「ゆうだい……それおかしいよ」
「おれは傷ついてんだよ! 服を汚されて!」
この出来事の一部始終を見ていたクラスメートから何を言われても、ゆうだいくんは「おれは被害者!」という考えを改めませんでした。
「あ、先生!」
今まで職員室にいた佐藤先生が、教室に戻ってきました。
「おっ、今日もおいしそうだな!」
「あの、先生……」
「どうした、あさみちゃん」
「食欲がないので、保健室に行きたいです」
「え? ……分かった、大丈夫?」
「はい。もう食べる時間になるし、一人で行きます」
あさみちゃんは白衣を脱いで、廊下で涙を流しながら保健室へ向かいました。あさみちゃんが教室からいなくなると……。
「先生、あさみちゃん今……」
「聞いてくれよ先生! あいつ肉団子で、おれの服を汚しやがったんだぜ!」
あさみちゃんの親友の言葉を、ゆうだいくんは遮りました。
「……だから元気なかったのか」
「でも、おれ優しいから許してやった! あいつ、お詫びに肉団子とゼリーを譲ろうとしてくれたし」
「……そうか。さて、みんな食べようか! 先生の給食を用意してくれて、ありがとう!」
そう言って佐藤先生が自分の席へ戻ると、ゆうだいくんは、あさみちゃんとの一件を知っているクラスメートを一人残らず睨みました。
「いただきまーす!」
ゆうだいくんは、もう袖のことを全く気にしておらず楽しそうに肉団子を口に運びました。
すると、
「う……!」
何だこれ!
ゆうだいくんは驚きました。あんなにおいしい肉団子が、今まで食べてきたものの中で最もまずく感じたからです。しかし周りを見てみると……。
「おいしいねー」
「肉団子、最高!」
ゆうだいくんは気のせいかな、と思いながら食べ続けましたが……。
「デザートの時間~♪」
給食の後半、先生からのお知らせです。おかずを食べきっていない子もデザートが食べられる時間になりました。ゆうだいくんは勢いよくゼリーのふたを開けました。
大丈夫、これはうまい!
そう思って、一欠片のゼリーを口に入れた途端……。
「おい、しっかりしろ!」
ゆうだいくんは、泡を吹いて倒れました。本当はおいしいゼリーを食べたけれど、ほっぺたではなく命を落としたのです。
「あさみちゃん、おいしい?」
「うん」
クラスメートの数人が、あさみちゃんの元で給食を食べていました。これは佐藤先生の計らいです。
「あさみちゃん」
「何?」
「これ、良かったら食べて……」
その男子は、あさみちゃんに肉団子を一つあげました。
「えっ? 自分で食べなよ!」
「一つあるから大丈夫。ゆうだいと話していたのに……全然止められなかったことの、せめてものお詫びをさせて欲しいな」
「……ありがとう」
あさみちゃんは、おいしく、そして楽しく給食を食べられたようです。
給食の後に佐藤先生は、ゆうだいくんを除くクラスメートから、あの一件について話を聞き出しました。誰一人、嘘を吐きませんでした。そして誰一人、あさみちゃんを責めませんでした。
また、学校では少しの間、給食のことで大騒ぎになりましたが「給食に問題はなく、ゆうだいくんの体がおかしかっただけ」という結論に至ったようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。