第13話 すてきなマフラー

 今朝、ちかちゃんはいつもよりも楽しそうに登校しました。


「おはよう、ちかちゃん」

「おはよー」

「あれっ? そのマフラー、新しいの?」

「うん。ママの手編みで、昨日完成したばかりなんだ」

「えっ、手編み? すごいね~!」

「温かそうだし、きれいな紫……」

「大人っぽくて、すてき!」

「うんうん、似合っているし」

「ありがとう!」


 ちかちゃんは仲良しのみんなからマフラーを誉められると、ますます嬉しくなりました。また、ちかちゃんにとって紫は一番大好きな色でした。


「朝から欲求不満ですかー?」


 意地悪な声が、ちかちゃんたちの後ろから聞こえてきました。振り向いてみると、そこにいたのは……。


「お、おはよう田村さん……」

「紫が大人? 老けているの間違いじゃないの~」


 ちかちゃんの挨拶を無視して、田村さんはマフラーを悪く言い続けます。もう既に、ちかちゃんは目に涙を浮かべていました。


「手編みとか嫌だな~。きっと手垢で汚いでしょ? 何か安っぽいし……」

「田村さん、いい加減にしなよ!」

「あんた何言ってんの? ふざけんな!」

「世界でたった一つだけのマフラーって最高じゃん!」


 ちかちゃんの友達は、みんなで田村さんに注意しました。それでも田村さんは止まりません。


「あたしのマフラーの方が、きれいで高くて……ピンクでかわいいもん!」

「その自慢は何度も聞いたし。自分が一番じゃないからって、そういうの良くないよ」


 そのとき、これまで楽しそうだった田村さんが初めてムッとしました。いつだって自分が一番でなければ嫌。それは図星でした。


「何よ! そのマフラーが、あたしのマフラーより良いってこと?」

「ち、違うよ!」


 朝から怒り狂う田村さんに向かって、ちかちゃんは大きな声を出しました。


「私のマフラーなんて、大したことない。田村さんのマフラーの方が全然良いよ。変なもの巻いて来ちゃって、ごめんなさい……」


 ちかちゃんはボロボロと涙を流しながら、田村さんに謝りました。そして急いでランドセルの中から教科書などを取り出し、マフラーを空っぽになったそれに押し込みました。


「本当に本当に……ごめんなさい!」


 また田村さんに頭を下げた、ちかちゃん。するとすぐにランドセルを片付け、一時間目は体育なので、体操着を持って更衣室へと逃げるように向かいました。


「当たり前のことを、泣きながら言うなんて……変な子」


 そう言って、田村さんは笑いました。自分がクラスメートから、今どんな目で見られているのか全く知らずに……。




「あー最悪! 帽子、教室だわ」


 靴箱に来たところで、田村さんは帽子を忘れたことに気づきました。それを見た女子は……。


「帽子よりもさ……もっと大事なことを忘れているのに気づけ!」

「あのワガママ女、あんたが最悪なんだよ」

「ちかちゃん、大丈夫かなぁ……」




「……え?」


 田村さんが帽子を取りに教室へ入ると、紫のマフラーが宙に浮いていました。


「待っていたよ……ちかちゃんと、ちかちゃんのママ、そして僕をバカにした……君のことを」

「……ギャーッ!」


 田村さんは逃げようとしましたが、


「逃がすもんか!」

「っ、あ!」


 すぐにマフラーに捕まってしまいました。首にマフラーが巻かれた田村さんは、体が固まって動けません。


「どうだい、温かいだろ? 何と言っても心がこもったマフラーなんだからね!」

「……は? 全っ然、温かくないんだけど……こんな……不良品」

「そっか! じゃ、これならどうかなあ?」


 怯えながら否定する田村さん。それに対してマフラーは明るく言葉を返し、


「っん!」


 キュッと田村さんの首を絞めました。




「あいつ、結局ちかちゃんのマフラーがうらやましかったんだ」

「マフラー巻いたとき、死ぬほど嬉しかったってこと? やばくね?」

「最初から素直になれば良かったのに。こんなことになってバカみたい、その子」

「クラスメートのマフラーをディスってバチが当たったんだってさ」

「自分で自分の首を絞めるって正にそれ」


 紫のマフラーが田村さんを永久的に眠らせてから数日後、田村さんは学校で一番有名な児童となりました。




「ちかちゃん、またマフラー編んでもらって良かったね!」

「うん」


 あの日ちかちゃんが巻いていた紫のマフラーは、田村さんのものとなりました。田村さんが、ちかちゃんのマフラーを欲しがっていたと思われたからです。棺桶の中に入れられたので、田村さんとマフラーは離ればなれになることはありません。いつまでもいつまでも、ずっと一緒です。

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