第12話 あのときから間違いだらけ
「それでは算数のテストを返します! 間違いは、しっかり直すことよ!」
「はーい」
「まずは……」
出席番号順に呼ばれ、みんなの答案用紙が次から次へと返されます。自分のそれが手元に渡ったときの反応は様々。
「……次、また頑張って」
「はい、ありがとうございます……」
このように、あまり望ましい結果ではなかった子もいれば、
「これからも、その調子でね」
「おっ、やったぁ~っ!」
もちろん良い結果だった子もいる。
「ほら見ろよ~お前ら~」
りゅうくんは、自分の答案用紙をクラスメートに見せびらかしています。
「りゅう、100点だ!」
「すっげー!」
「へへっ。まあね♪」
友達からの尊敬の眼差しに、りゅうくんは気持ちが良くなりました。それを見て、先生が言いました。
「りゅう、調子に乗らないの! 早く席に着きなさい」
「いーじゃん、いーじゃん♪」
りゅうくんは、すっかり逆上せ上がっています。楽しそうに着席した直後、りゅうくんが大声を出しました。
「100点とれないの?」
その声を聞いて最も驚いたのは、かなちゃんでした。りゅうくんは、隣の席に座るかなちゃんの答案用紙を覗いたのです。かなちゃんの点数は、68点でした。
「え……その……」
「68点なんて、かわいそうだな~バカで。おれが勉強、教えてやるよ! な?」
「う、うん。ありがと……」
りゅうくんが、かなちゃんの肩をバシバシと叩きながら語りかけました。かなちゃんは泣きそうな顔で返事をするだけでした。
「そうかそうか、そんなに嬉しいか! いや~天才は困っちゃうなぁ~!」
「静かにしなさい、りゅう! 今から間違い直しをするから!」
「へいへい。まっ! おれさまは直すとこ、ないけどぉ~」
「さーてと、宿題♪ 宿題♪」
お母さんに100点を誉められて、りゅうくんはさらに上機嫌。いつもは早くやらない宿題も「おれさまに分からないことはな~いっ!」と、やる気満々です。
今日の宿題は、算数のプリントでした。
「お、テストと似た問題ばっか! 楽勝だし!」
りゅうくんは自信満々です。プリントの問題を解き始めると……。
「……ん?」
あれっ?
「えっ、ちょっと、どうして?」
何でおれ、間違ってんの?
というか手が勝手に動くよ!
消そう……。
えっ、手が動かない!
違う、違うってば!
この問題は、そんな答えじゃないし!
「ちょっと、どうしちゃったの? 昨日は自分のこと、あんなに天才って言っていたのに……」
次の日、りゅうくんが提出した宿題を見た先生は驚いていました。何だかおかしいと思った先生は、りゅうくんを職員室へ連れていき、二人きりで話すことにしました。
「だって先生、正解を書こうとしたら手が勝手に間違いを書いちゃうんだよ? 消しゴムで消そうとしたって消せないんだ! お母さんにそれを言ったら、怒られたけど……」
「何を意味の分からないこと言っているの。お母さんも怒って当たり前でしょ。とにかく一生懸命やりなさい!」
「……はい」
りゅうくんの話は、誰にも信じてもらえませんでした。
それからしばらくして……。
「はい! この時間は算数のテスト返すよ~! 今回は難しかったかな? 次はもっと頑張るように!」
また別の算数のテストが返されるときが来ました。
「そんな中100点満点は、たった一人! かなちゃん!」
かなちゃんには、クラスのみんなから大きな拍手がおくられました。かなちゃんは先生から、大きな花丸がついた答案用紙を笑顔で受け取りました。
「かなちゃんは最近、何事にも一生懸命です! みんなも見習いましょう!」
「はーい!」
かなちゃんと先生、そしてあと一人を除く全員が元気な声を揃えました。
「……何で……?」
りゅうくんは、0点の答案用紙を右手でグチャグチャにしながら下を向いていました。あれからずっと、りゅうくんは勉強で間違うことしかできなくなってしまったのです。頭で分かっていても、いつだって0点です。
やがて成績がこれ以上ないくらい下がってしまい、りゅうくんはみんなの笑い者になってしまいました。勉強だけではなく何をやっても、間違うことしかできなくなりました。一方かなちゃんは、その後も全てのことを頑張り続け、いつでもどこでも、誰からも「すごい、すごい」と言われるようになりました。
ずっとその後、かなちゃんは立派な大人になりました。そんなかなちゃんを、りゅうくんは空から見ているのでしょうか。それとも奈落から見ているのでしょうか。
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