第7話 口が臭い女の子

 今朝、横田さんは教室に入って大きな声で、クラスメートに報告しました。


「ねぇ、みんな! 聞いて聞いて! 昨日小室さんが、お漏らししたって!」

「えーっ!」

「マジかよ!」


 一気に教室が騒がしくなりました。特に男子が楽しそうです。横田さんは満足そうに話を続けます。


「本当よっ。しかも大の方らしいわ!」

「だから昨日の六時間目の学年集会、臭かったのか~」

「そういえば少しの間、先生の話が中断されたね……」

「そんで先生が『誰だ~? こんな素晴らしい香水をまいたのは~』って言って大爆笑!」


 アハハハハ、と教室は笑い声が響きました。朝から汚い話で大盛り上がり。


「やめなよ!」


 そう言ったのは、小室さんの親友である女子たちです。


「お腹の調子が悪くなることは、誰だってあるでしょ?」

「いちいちそんなことで騒ぐなんて……。バッカじゃないの、あんたたち!」

「ガキね、下品で最低!」


 教室は、一瞬で静かになりました。しかし、彼女は止まりませんでした。


「フン、ちゃんと体調を整えない小室さんが悪いんじゃない。何よ、お熱い友情ごっこしちゃって……」

「横田さん! ふざけんのも、いい加減にしなよっ! あの子は元々お腹が弱いんだから、かわいそうじゃない!」

「お、おい! お前ら止めろよ……!」


 ある男子の一言で、女子二人も静かになりました。教室の入り口に、小室さんが来ていたのです。

 そして小室さんは涙を流して、引き返してしまいました。


「あっ、小室! ごめんな!」


 男子が小室さんに言っても、小室さんは足を止めませんでした。小室さんと仲良しの女子たちは、全員で小室さんを追い駆けました。

 その日、とうとう小室さんは教室に戻ってきませんでした。




 翌日、横田さんは昨日の出来事は全く気にせずに登校しました。


「おはよーっ!」


 教室に入って横田さんが挨拶しました。するとクラスのみんなが、苦しそうな表情を浮かべました。


「うわっ、くっせぇー!」

「横田さん、すごく臭い……」

「うんこでも食ったのかよ~?」


 横田さんは驚きました。自分の口が臭いなんて……。今朝、きちんと歯を磨いたはずなのに。


「何よっ! 昨日の当て付けのつもり?」


 やっと昨日のことを気にし始めた横田さん。けれどクラスのみんなは、まだ鼻を摘まんでいます。


「……自分では気づかないんだろうけど、お前が来て挨拶してから、教室が一瞬で臭くなったぞ?」

「ちょっと自分の口、確かめたら? ほら、両手で口を囲んで……」

「えぇ~……」


 横田さんは、手で口の周りを覆い、息を吐きました。そして鼻をピクッと動かした直後、


「うわっ、横田!」


 バタンッ、と横田さんは倒れました。至近距離で悪臭を嗅いだため、気絶してしまったのです。


「……正直言って、公害レベルだったよな……」


 誰かが言ったその一言に、教室にいるみんなは一斉に首を縦に降りました。横田さんの意識がなくなると、教室に漂っていた悪臭は、きれいさっぱりなくなりました。


 その後、横田さんは永遠に目を覚ましませんでした。横田さんがクラスから消えた数日後、小室さんは登校できるようになりました。そして、横田さんの話を聞いて小室さんを笑ったクラスメートは、全員小室さんに心から謝りました。


 

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