第6話 許されても許されなかった

「えーいっ!」

「とりゃあーっ!」


 今は掃除の時間ですが、男子たちは、ほうきを使ってチャンバラごっこをしています。


「男子たち! いい加減にしなさいよ!」

「もうやめて、掃除しよう? それに階段だから危ないよ」

「やーだねっ! お前らがやってろ!」


 意地悪な返事をする中川くん。同じ班の女子二人に注意されても、男子三人組は全然掃除を始めません。


「……」

「りかちゃん、それ以上やらなくて良いよ! 男子にやらせなって!」

「え……」


 女子で唯一黙々と掃除している、りかちゃん。りかちゃんは友達の二人と比べると大人しい女の子です。注意ができない代わりに、掃除を着々と進めていました。


「男子を甘やかしちゃダメだって。あいつら調子乗るから!」

「でも……」

「ねぇ、男子! 早く掃除してよ!」

「やだよー。ぎゃははっ!」


 三人の男子は、まだ階段で遊んでいます。


「これでどうだー!」

「うわっ、そうはいくかっ!」


 西くんが振ったほうきを、大塚くんが避けました。すると、


「イタッ!」


 西くんのほうきが、りかちゃんの後頭部に思いきり当たりました。


「りかちゃん!」

「あ~、ごめんごめん」

「やっべー……」

「何やってんのよバカ!」

「あっ!」


 そして、そのとき……。


「きゃーっ!」


 りかちゃんは頭を打たれたことで体制を崩し、転んで階段から落ちてしまいました。


「りかちゃん! 大丈夫っ?」


 返事がありません。りかちゃんは、気を失ってしまいました。


「ちょっと男子、今さら大人しくしてんじゃないよ! 早く先生呼んで!」

「う、うん! 分かった!」




 その後、りかちゃんは病院へ連れていかれました。頭は強く打ちましたが、異常はありませんでした。しかし、


「皆さん。りかちゃんは今、足を怪我しています。助けてあげてくださいね」

「はーい!」


 りかちゃんは、しばらく松葉杖が必要な日々が続くことになりました。


「本当に、ごめんなさい!」

「大丈夫。今度からやらなければ良いだけのことだから……」

「うん。おれ……もう二度と、あんなことしないよ……!」


 あの掃除の時間にふざけていた男子二人は、きちんとりかちゃんに謝りました。また西くんは、ほうきをぶつけてしまった張本人ということから家族にものすごく怒られて、坊主頭にされたのでした。あんなに偉そうにしていた中川くんも、一緒に泣いて謝っています。そんな中で、


「ちょっと大塚!」

「何?」

「あんたっ! ちゃんと謝りなさいよっ!」


 大塚くんは、全然りかちゃんのことを気にかけず、いつもと変わらず生活していました。


「えー、もう謝ったよ?」

「あのときは軽く、でしょ? りかちゃんが転んでからは謝っていないじゃない」

「良いじゃん。あいつ、あの二人も許しているみたいだし」

「りかちゃんに怪我させといて、何ヘラヘラしてんのよ!」


 大塚くんを注意するのは、りかちゃんの友達二人だけではありませんでした。


「なあ大塚。ちゃんと謝ろうよ? 一緒にふざけていたんだからさ」

「あのとき、確かに大塚の『ごめん』は聞いたけど……それとこれとは別だよ」

「何だよ、お前らまで! 大体、西があんな強く攻撃したから悪いんだろ! それに中川が女子に口答えしなければ、みんな素直にやめて、こんなことには……」

「お前、そんな奴だったのかよ!」

「最低だ!」


 とうとう男子三人が争い始めました。しかし、


「みんな、もうやめて」


 りかちゃんの一言で、すぐにピタッと止まりました。


「これ以上責めたら、大塚くんがかわいそうよ。わたしは許しているから、みんなも許してあげて?」

「え!」


 りかちゃんからの優しい言葉に、大塚くんが一番驚いています。すると、そのとき……。


「わーっ!」

「きったね……!」


 大塚くんが嘔吐しました。りかちゃんの優しさに触れた瞬間、急に吐き気が湧いてきたのです。


「大塚くん、大丈夫?」

「うっ……、おえっ! おぉ、うえっ!」


 りかちゃんが優しくすればするほど、大塚くんの吐き気は激しくなります。意地悪な大塚くんにとって、りかちゃんの優しさはそれほど刺激が強すぎたのでしょう。




 やがて大塚くんは病院に運ばれましたが、嘔吐は止まりませんでした。大塚くんはこれからずっと、この病気に苦しむことになりました。

 一方で、りかちゃんの怪我は、あっという間に治ってしまいました。

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