第8話 鉛筆、返して!
「鉛筆、返して!」
じゅりちゃんは、ゆかちゃんにそう言いました。今月に入って、これで十回目です。
「鉛筆、貸して」
「良いよ」
ゆかちゃんが、じゅりちゃんから鉛筆を借りたのは先月です。すぐに返してくれる、とじゅりちゃんは思っていました。ゆかちゃんは、じゅりちゃんにとって大切な友達です。じゅりちゃんは、ゆかちゃんを心から信じていました。
けれど、ゆかちゃんは……。
「ええと、後で」
「いつか買って返す!」
「はいは~い。またね」
いつも適当な返事をするだけで、じゅりちゃんにえんぴつを返していません。
さて、今回はどんな言葉が返ってくるのでしょうか……。
「しつこいなあ! 分かったわよ、今返す!」
何てひどいのでしょう。じゅりちゃんはショックでした。けれど、やっと返してもらえる、と少しホッとしました。そしてそのとき、
「痛いっ!」
「ほら、返したよ!」
ゆかちゃんは、筆箱から鉛筆を取り出して、それをじゅりちゃんに投げ付けたのです。じゅりちゃんは右のほっぺを手で抑えながら、涙を流しました。
「ふん! しつこいから悪いのよ!」
「じゅりちゃんをいじめるな……」
「な、何?」
満足気なゆかちゃんに、誰かが声をかけました。聞いたことのない声に驚く、ゆかちゃん。すると、
「ギャアッ!」
何かが、ゆかちゃんの顔に向かってビュンッ! と飛んできました。
「くそ! 次こそ絶対にやっつけてやる!」
それは、ゆかちゃんがじゅりちゃんに投げつけた鉛筆でした。
「よくも、じゅりちゃんをいじめたな!」
「いやあああああっ!」
えんぴつは、またゆかちゃんに向かっていきました。鋭い頭が、ゆかちゃんに近付きます。
しかし、
「やめて! 大切な友達なの!」
じゅりちゃんが泣きながら叫ぶと、鉛筆の動きは止まり、ポトッと床下に落ちました。
「ゆかちゃん大丈夫?」
じゅりちゃんは、ゆかちゃんを抱き締めました。
「じゅりちゃん……。ごめんなさい!」
ゆかちゃんは泣きながら、じゅりちゃんに謝りました。
その後ゆかちゃんは、借りた物をきちんと持ち主に返すようになりました。そして、じゅりちゃんとはずっと親友同士でした。
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