おしおき怪談

卯野ましろ

第1話 鉛筆、返して!

「鉛筆、返して!」


 じゅりちゃんは、ゆかちゃんにそう言いました。今月に入って、これで十回目です。




「鉛筆、貸して」

「良いよ」


 ゆかちゃんが、じゅりちゃんから鉛筆を借りたのは先月です。すぐに返してくれる、とじゅりちゃんは思っていました。ゆかちゃんは、じゅりちゃんにとって大切な友達です。じゅりちゃんは、ゆかちゃんを心から信じていました。

 けれど、ゆかちゃんは……。


「ええと、後で」

「いつか買って返す!」

「はいは~い。またね」


 いつも適当な返事をするだけで、じゅりちゃんにえんぴつを返していません。


 さて、今回はどんな言葉が返ってくるのでしょうか……。


「しつこいなあ! 分かったわよ、今返す!」


 何てひどいのでしょう。じゅりちゃんはショックでした。けれど、やっと返してもらえる、と少しホッとしました。そしてそのとき、


「痛いっ!」

「ほら、返したよ!」


 ゆかちゃんは、筆箱から鉛筆を取り出して、それをじゅりちゃんに投げ付けたのです。じゅりちゃんは右のほっぺを手で抑えながら、涙を流しました。


「ふん! しつこいから悪いのよ!」

「じゅりちゃんをいじめるな……」

「な、何?」


 満足気なゆかちゃんに、誰かが声をかけました。聞いたことのない声に驚く、ゆかちゃん。すると、


「ギャアッ!」


 何かが、ゆかちゃんの顔に向かってビュンッ! と飛んできました。


「くそ! 次こそ絶対にやっつけてやる!」


 それは、ゆかちゃんがじゅりちゃんに投げつけた鉛筆でした。


「よくも、じゅりちゃんをいじめたな!」

「いやあああああっ!」


 えんぴつは、またゆかちゃんに向かっていきました。鋭い頭が、ゆかちゃんに近付きます。

 しかし、


「やめて! 大切な友達なの!」


 じゅりちゃんが泣きながら叫ぶと、鉛筆の動きは止まり、ポトッと床下に落ちました。


「ゆかちゃん大丈夫?」


 じゅりちゃんは、ゆかちゃんを抱き締めました。


「じゅりちゃん……。ごめんなさい!」


 ゆかちゃんは泣きながら、じゅりちゃんに謝りました。




 その後ゆかちゃんは、借りた物をきちんと持ち主に返すようになりました。そして、じゅりちゃんとはずっと親友同士でした。

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