28.高難度クエスト(2)

 次に挑むクエストは、リージンフォーゲルの狩猟。こちらはこの世界最大の大きさを誇る猛禽類だ。羽を広げた時の横幅が100m、高さ50mらしい。横幅がサンドワームの半分あるのか、確かにでかい。最大猛禽類の名は伊達ではないようだ。


 リージンフォーゲルは山脈の半ばに最近住み始めたらしく、山脈を使った交通網の邪魔らしい。確かにその巨体では、邪魔以外の何者でもないな。


 そういうわけなので、現在その山脈の麓に来ているのだが、想像以上に山脈が高かった。|転移剣《ウヴァーガン)を使っても、登るのに時間をかけてしまいそうだ。


「真雫、転移しながらいくぞ」

「了解」


 もう何度目か分からないお姫様抱っこをして、山を駆け登る。


 流石に地中とかに隠れていなかったので、標的はすぐ見つけられた。


 大きさはたしかに大きい。見た目は完全にハゲワシだ。眼光が非常に鋭い。


 ヤツはこちらにはまだ気づいていない。今がチャンスだ。


「|武器《ヴァッフェ)|・《・)|召喚《フォーアラードゥング) : |必中槍《グングニル)」


 貫通に特化した形状の槍を召喚する。


 |必中槍《グングニル)。


 北欧神話の主神、オーディンが持っていたとされるグングニルがイメージだ。対象に必ず当たるという必中性を持っており、また当たったあとは自動で帰ってくる優れもの。しかし弱点があり、俺の召喚する武器よりも基本脆く、俺が本気で殴ると壊れる。


 そんな弱点をなにふりかまわず、リージンフォーゲルに狙いを定める。そして、足を思い切り踏ん張って、投げる。まだ共鳴はしていないので、全速力とまではいかないが、尋常ではない速さである。目ではとっくに追えない。


 槍が勢いを殺さずリージンフォーゲルに突っ込む。ヤツの翼にヒットした。


「キュアアアアァァァァァァアンン!!」


 ヤツの巨体が、轟音を立てて倒れる。


「やったか?」

「その台詞は俺のだよ……」


 というか、フラグ立ててんじゃねぇよ。その台詞は敵がまだ生きてる時の主人公が発する言葉だっての。


 そして、そのフラグに沿ったように、ムクリとリージンフォーゲルが起き上がる。その鋭い眼光が俺達を射抜く。


「ギュァァァァアアアアアアアア!!」


 先程の悲鳴の声とは違う、ヤツの威嚇の絶叫。空気が震撼し、肌にビリビリ伝わってくる。強さは大体リターさんより少し強いくらい。魔眼共鳴しないで、ギリギリ勝てるくらいだ。


 早急にかたをつけよう。


「”|武器《ヴァッフェ)|・《・)|召喚《フォーアラードゥング) : |火焔剣《フランベルジェ)”」


 |火焔剣《フランベルジェ)を召喚し、炎を放出する。その炎はヤツを的確に捉えた。


 しかし、炎はヤツに届かなかった。ヤツはその大きな翼を翻すように動かし、炎を霧散させたのだ。そんなことも出来るのかよ。


 ヤツはその翼をはためかせると、上空へ飛んだ。そして、ある程度飛んだところで飛翔をやめた。明らかに攻撃体勢だ。


 途端、ヤツの羽が、矢の如く飛んできた。太陽を背中にして攻撃するその様は、神々しくも思える。って感心している場合じゃねぇ。


「”|防御壁《マウアー)、展開”!」


 間一髪で、真雫の|防御壁《マウアー)発動。ナイスだ、真雫。


 ヤツが滑空して俺達に向かってきた。相当な速さである。距離はそれなりにあるが、数秒でこちら側に辿り着くだろう。


 直感的にまずいと感じた俺は、|自動剣《フラガラッハ)を複数召喚して、ヤツに打ち放つ。見事目に突き刺さった。片目だけだが。


「ギュアアァァァァ」


 フラフラとよろめいて、俺達のところとはまた見当違いな場所に落ちていった。直後ズシィィン、という音が響く。墜落したとみていいだろう。


 ヤツのところへ駆け寄る。想像以上に遠くに墜落したようで、着くまでに少し時間がかかった。


 ヤツは目をその大きな翼で抑えながら、蹲っていた。地面をサンドワームの如く這い回っている。


 この状態で殺すのは、少々哀れだが、仕方ない、これも仕事だ。


 |斬滅剣《カラドボルグ)を召喚し、首を切断する。大きな体はピクピクと動いていたが、じきにおさまった。


 最後に翼から数枚の羽を抜いて袋に入れる。羽は、軽かった。これでよく飛ばせたなと思えるくらい、軽い。


「ん、終わった?」

「あぁ、次はカーカンだが、まず昼食にしよう。腹減った」


 そう言って、自室へと転移した。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 現在、自室にて食事中。こんなこともあろうかと、事前に今日の分の昼食は確保してある。単純にサンドイッチだ。


「んー、美味しい」

「意外といいな、これ」


 特に卵がいい。もとより俺は卵好きだが、やはりサンドイッチは卵に限るな。


 ほんの数分で、5つあったサンドイッチを平らげる。真雫のペースが早すぎて、俺が2個食べている間に3個平らげていた。早食い大会とか出たら、それなりに上位に行けそうだな。


「ん、もう行く?」

「いや、少し消化してから行こう」


 戦闘中にリバースしたら、目も当てられない。色々な意味で。


 それでも少し暇なので、真雫と今後について、再度語り合うことにした。


 真雫は、早急にこの世界の人々の不安を取り除きたいらしい。つまり、邪神を早く封印したい、ということだ。しかし、俺が傷つくのもみたくないので、微妙に揺らいでいるみたいだ。


 俺も真雫と同じような気持ちだ。偽善者を気取るつもりは毛頭ないが、この世界の人々を救いたい。しかし、真雫が傷つくのが怖い。まぁ、互いに傷つかないために、『魔眼契約』を結んだのだが。


 でも、俺はある程度決心はついている。人を殺して何を思わなくなっても、義理だけは守りたい。その事と、真雫の存在が、俺の人間性の最後の防波堤だと、俺は思うのだ。勘違いかもしれないけど、用心しないといけないことに、変わりはない。


 そういうわけなので、今後の方針はこれまで通りになったようだ。


 丁度軽く消化も終わったところなので、次のクエストをクリアするとしよう。


 次に向かう目的地は──この国の東に位置する最大規模の港、オステン港。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「はぁ、はぁ。やべぇ、流石にこれは面倒くさすぎる」

「……ファイト、ノア」

「気楽でいいな、お前は」


 現在、オステン港。俺達はそこの海上で、──100は優に超える数のカーカンに追いかけられていた。


 時間は約10分前に遡る。


「ここが、そのオステン港みたいだな」

「ん、間違いない。私の能力もそう言っている」


 真雫の【場所特定】がそう告げているのなら、ほぼ間違いないだろう。


 しかし、見渡す限り海で、カーカンなんて、影すら見えない。


 カーカンは、これも世界最大の軟体動物で、見た目は完全にダイオウイカだ。大きさは縦20mと、今日戦った中では最も小さい。今までがデカすぎたから、感覚が狂ってきてそうだな。イカの足は10本と言われているが《実際は違うらしいが、よく覚えていない)、このカーカンは足が12本らしい。顎の力は、大型船をいとも簡単に噛み砕けるようだ。この世界の大型船は、それなりに大きく15m弱と聞いているのに、20mの体躯で噛み砕けるのだろうか?少し疑問に思った。


 それはともかく、辺りの捜索に移る。


 俺達は海の上では歩けないので、|転移剣《ウヴァーガン)を使って移動した。1度も海に足をつかないのは、意外と難しい。


 とりあえず、【感覚強化】を使って探索。すると、あっさり見つけた。割と近い。


「見つけた」

「本当?」

「本当と書いてマジだ」


 とりあえず、巨大化させた|必中槍《グングニル)を、【感覚強化】に頼って投げる。海は巨大な水しぶきをあげて、目標への道を開いた。一瞬、本当に一瞬だが、カーカンの姿が見えた。確かにイカだった。


 そして、気づく。また自分がやってしまったことに。


 俺達の耳では聞き取りにくい音が、空間全体に響き渡る。奥から、大きな大きな波飛沫が見えた。……いや、あれは波飛沫じゃない。カーカンの大群だ!?


 カーカンには、自分が死にかけた時、まるで自分の仇を取らせるように、仲間を収集する能力を有している。まさに、今それを使ったわけだ。俺としたことが、また失敗するなんて。


 カーカン達は意外と速く、すぐに俺達の前に姿を現した。これは計100匹以上はいる。流石にこの数は捌ききれない。


 そして、現在の逃走劇に戻る──。


「これ、どうするよ?」

「|防御壁《マウアー)・|衝波《ショックウェル)で倒す」

「この数は流石にキツいだろ」

「……むぅ」


 可愛く膨れる真雫だが、お前結構余裕だろう?しょうがない、少し本気を出そう。本気を出したら、周りに被害が出るかもしれないから、あまりしたくなかったんだよね。


「”|武器《ヴァッフェ)|・《・)|召喚《フォーアラードゥング) : |斬滅剣《カラドボルグ)”」


 逃走から一転、振り向いて立ち向かう。


 そこから数m跳躍し、先頭にいたカーカンを一刀両断する。綺麗な切断面が目に映る。


 仕留めたカーカンの死体を土台として、もうひとつのカーカンへと更に跳躍。剣を振って、新たな死体を量産する。


 それが何回も続き、ざっと10匹分の死体を量産したところで、イカの足の攻撃が飛んできた。確か触腕と呼ばれる部位で、伸び縮みするはず。


 俺の豆知識通りにその触腕は俺に伸びて、巻き付こうとする。


 それを俺は|斬滅剣《カラドボルグ)で八つ裂きにした。ボトボトと地面に触腕の欠片が落ちていく。


 そしてまた触腕が伸びてきたので、同じように八つ裂きにして、その本体を殺る。


 しかし、そこでまた触腕が飛んできた。ああもう、鬱陶しい!


 実際、|斬滅剣《カラドボルグ)を横薙ぎに思い切り振れば、相当な数を削れるのだが、それだと港に被害を出しかねない。故に自重しなければならないのだ。


 バッタバッタとヤツらを斬り伏せていく。あっという間に8割は倒し終わった。残りざっと20匹だ。


 恐怖を抱いたのか、俺に背を向け、ヤツらは海へと帰っていこうとしている。ここで逃がすと、将来的に危険かもしれない。


 1番奥のカーカンに転移する。ヤツの死角に転移したため、ヤツは気づいていない。


 最近パターン化しているけど、まだ直さなくていいか。下方から振り上げて最後尾だったヤツを絶命させる。


 あと19匹ぐらいだ。もう少しだけ本気を出そう。


「”|加速魔法陣《ベシュロイニグング)、展開”」


 |加速魔法陣《ベシュロイニグング)をカーカン達の間の手前に展開する。そして、元最後尾のカーカンを踏み台として蹴り、加速魔法陣に突っ込む。直後、俺に爆発的な加速がついた。


 速すぎて通り過ぎそうなところを何とか追いついて、カーカンを横に一つ一つ殺していく。


 あとには、カーカンおよそ100匹が、海の上に死屍累々と転がっていた。


「よし、終了。真雫──」


 真雫を見れば、唖然としていた。加速魔法陣のあまりの速さにかたまったらしい。


 とりあえず、港に戻ろう。先にカーカンの触腕の一部を袋に入れるのを忘れない。


「真雫ー?戻ってこーい」


 港に着いたはいいものの、真雫はボーッとしていて、眼前に手を振るオレにも反応を示さない。


 故に、チョップ。


「うにゃ!?」


 涙目で、且つ上目遣いで、真雫が俺を見る。非難する目だ。


「いつまで呆けているんだ。行くぞ」

「……別に呆けてない。上級悪魔に攻撃を受けていた」


 恥ずかしそうに頬を染めて、そっぽを向いてそんなことを言った。いや、その誤魔化し方は無理がある。


 まぁ、これでクエストは全て完了だ。しかし、このカーカンの死体群、どうしようか……。いいや、ギルドに任せよう。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「たった1日で、高難度クエストを3つも……!?」


 ギルドに報告しにいくと、受付嬢に本気で驚かれた。やはり、高難度クエストと呼ばれるだけあって、同じ人が1日で複数クリアは異例らしい。最初は半信半疑だった受付嬢も、1つ、2つ、3つとクエスト完了の証の袋をカウンターに出すうちに、本格的に驚いていた。


「あ、あと、カーカンをおよそ99匹無駄に殺してしまったので、なるべく早く掃除していた方がいいかもしれません」

「お、お1人でカーカンを100匹殺したのですか……?」

「いえ、真雫もですよ?」


 ほとんど俺一人だが、これ以上無闇に目立ちたくない。今更ながら無駄にカーカンを殺したことに後悔をしてしまった。流石にこれはやりすぎたな、目立ちすぎてしまう。


「で、ではカードをお見せ下さい」


 恐れ多い、と言った感じで、カードの提示を要求される。こんな風にさせるなんて、俺がやったことはそんなに凄いことなのか?普通にリターさんも出来そうなんだけど。


 カードに印鑑魔法?を押してもらい、報酬の金貨17枚を貰う。そして、周囲が騒がしくなる前にギルドを退出する。


「よし、とりあえず夕食にしよう」


 日は既に傾いており、時は夕暮れを指していた。いつもよりも動いた所為か、腹が減っている。俺としては、とりあえず腹をこしらえておきたかった。


「了解、どこにする?」

「前の、ヨールッパってところにしよう」


 あそこのメイジックベアーの角煮は美味かった。もう一度食べたい。


 真雫も二つ返事で了承し、ヨールッパに向かう。するとばったり、リーベと会った。


 リーベはあの誘拐事件以来、少しずつだが人間恐怖症がなくなってきている。それほどのことが、リーベの身に起きたのだろう。俺としては、微笑ましい限りだ。


「マナ、ノア、こっちに来てください」


 フードを被ったリーベが俺たちを手で招いている。フードを被っているということは、お忍びでここに来ているのか。本当に成長したな。


 拒否する理由はないので、遠慮なく同じ席に座らせてもらった。


「お二人とも、夕食ですか?」

「あぁ、丁度クエストが終わったからね」


 リーベには事前に冒険者になることは伝えていたので、驚いた表情は見せなかった。


「それで、どんなクエストでした?」

「カーカンとリージンフォーゲル、あとサンドワームを1匹ずつの狩猟」


 店員にメイジックベアーの角煮のセットを頼み、リーベの質問に答える。直後、カランという音がした。どうしたのかと見ると、リーベが手に持っていたフォークを皿に落としていた。


「本当ですかっ!?」

「ほ、本当だよ?」


 急にグイグイと迫ってきた。思わず引いてしまう。リーベは恥ずかしそうにきちんと席についた。


「1日でですか?」

「1日で」

「それ凄いですよ!歴史に名を残す程の偉業ですね!」


 マジか、そんなに目立つことをしてしまったのか……。本当に自重しなければやばいな。


 数分して、料理が運ばれてきた。「いただきます」と呟いて、角煮に舌鼓を打つ。うん、やっばり美味しい。味がよく染み込んでいるし、何より肉が柔らかく、味わい深い。あっという間に食べきってしまった。


 ちなみに真雫も同じ角煮を選んでいた。美味しそうに顔を綻ばせていた。真雫も気に入ったらしい。


 それからリーベを家まで送って、自室に転移してからベッドにダイブする。ふぅ、今日は意外と疲れた。明日も高難度クエストを受けるだろうから、さっさと寝ることにしよう。

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