27.高難度クエスト(1)
チュチュ、と小鳥の囀りが聞こえてくる。なんだろう、最近よくこの囀りで起きるよね。【身体強化】を手に入れたからだろうかね?
時刻はまだ6時。正直まだ寝たかったので、ゴロン、と転がって先程とは違う方向に寝ようとする。すると、真雫の顔があった。それもどアップで。
「うおっ」
勢いよく後ろに跳ねてしまい、ベッドの下に落ちてしまった。またベッドから落ちたよ……これも災いの一つか……?
今の衝撃で、真雫も起こしてしまったみたいだ。
「……ノア、大丈夫?」
「あぁ、全然大丈夫」
実際に身体的にダメージはないが、このままこんな起き方が続くも精神的にキツいなぁ。改善しないと。
立ち上がり、部屋を見渡す。当たり前だが、誰もいない。寧ろ、いたら怖い。
しかし、今ので完全に目が覚めてしまった。もういいや、支度しよう。
朝のあれこれを色々済ませ、朝食を作り始める。今日のメニューは、ベーコンエッグとパンだ。簡素だが、俺的にこの朝食が気に入っているので別にいいだろう。
ベーコンを一枚一枚フライパンに乗せて、その上に卵をかける。昔は苦手だった卵を割るのも、この体ではさらに楽になった。
パンは魔法冷蔵庫の中に入っているパンを取り出す。あとは相当高かったバターを塗る。
「真雫、運んでってー」
「ラジャー」
作り終わったところで、真雫に指示を出して自分の朝食を運ばせる。最近は、こんなのがいつもの朝だ。
「ん、ノアの料理はいつも美味しい」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
おっと、礼のみを言うはずが、心の声まで出てしまった。台詞が何やらタラシみたいな感じになっている。真雫は特に気にとめなかったみたいなので、良かった。
いや、しかしまぁ、本当にこれが日常になってきたな。ほんの少し前は、高校生活をエンジョイしようと気合いを入れていたのに、それが今では異世界で邪神封印するハメになっているとは……。人生って色々あるなぁ。
「ん、ごちそうさま」
真雫は食べ終えたようだ。俺も丁度食べ終えたので食器を片付け、いつものコートを羽織る。さて、今日も仕事するか!
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「さて真雫、どのクエストにする?」
「んー、これ」
俺達はバッグを買うため、またギルドに来ていた。思ったよりも空いている。殆どの冒険者は午後からクエストを受けるのだろうか?まぁ、今はどうでもいいことだ。
真雫に聞いてみたところ、高難度クエストを3つも選んでいた。内容は、
・砂漠に住むサンドワームの狩猟
報酬 金貨5枚
・南の山に住むリージンフォーゲルの狩猟
報酬 金貨6枚
・港に出没するカーカンの狩猟
報酬 金貨6枚
どれもこの世界じゃ、凶暴魔獣として名を馳せているヤツらばかりだ。確かに報酬は高い……のか?金貨1枚が1万円だとすると、命をかけて戦って、1匹6万円程度の価値しかないのか。安い気がしないでもない。
「一気に3つもやるのか?」
「これで半分は手に入るから」
答えになっていない。俺達は言わばチートだから、別に大丈夫だろうし、真雫が受けたいってなら受けてもいいか。クエストは途中でリタイアも出来るので、あまり心配はない。ゲームみたいだが、実際リタイアするには対象から逃げなきゃいけないため、そう簡単にはいかないのだ。
ちなみにクエストは、一度に10まで受けられる。
とりあえず3つとも、カウンターへと持っていく。
「すみません、これら全部受けたいのですが」
「はい、分かり…………」
受付嬢が笑顔のままかたまった。彼女の目は渡した3つの紙に釘付けである。
「僭越ながら申し上げますが、これらのクエストは、あなたがたのレベルを上回る可能性がございます。それでもよろしいでしょうか?」
笑顔から一転、真剣な表情を見せて、そのようなことを彼女は言った。
確かに俺たちでは勝てない可能性もあるだろうが、もし勝てないのなら転移してリタイアすればいいだけなので、大丈夫だ。
一瞬でそれを考え即答する。
「はい、大丈夫です」
「……分かりました。頑張ってください」
「ありがとうございます」
そう言って逃げるようにギルドから出る。さっさと済ませたいところだが、最初に行くところは意外と遠い場所なので、馬車を手配した。行き先はケーニヒクライヒ王国の北にある──オウネエンデ砂漠。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
サンドワーム。それは、この世界では最大の大きさを誇る
このクエストの依頼主は、砂漠を横切ると着く帝国に用があったのだが、サンドワームが住み着いてしまい、行けなくなったため、依頼したとのことだ。
馬車に乗って、ガッタンゴットン揺られながら、俺はサンドワームの対処法を考えていた。目的地まではあと10分余裕がある。真雫は、やはり酔っているようだ。そのままずっと酔っていてもらうと非常に困るのだが。
大きいのだったら、やはり攻撃範囲が広いのがいいよな。使うなら、
「……ノア、負けそう……」
「戦いはまだ始まってすらいないぞ。戦いはこれからだ」
「うぅ……」
背中をさすってやる。それから寝かせることにした。馬車の構成上、どうしても膝枕の形になってしまうが、仕方ないか。
そして10分後。それはもう広大な砂漠に出た。馬車には、真雫をまた酔わせるわけにはいかないので、お帰りいただいた。俺達は他に帰れる手段を持っている旨を伝えたので、渋々運転手さんは了解してくれた。
さて、まず探すか。【感覚強化】でサンドワームの居場所を探す。察知はできなかった。隠れるのが上手いのか、俺達に攻撃する意思がないのか。後者ならまだしも、前者はまずいかもしれない。
それから1時間強探したが、サンドワームは1匹も見当たらなかった。元からいなかった、という考えが芽生えてくる。それならそれで、ほかのクエストで代用すればいいのだけれど、二度手間は好きではない。
見渡す限りでは地上にはいないみたいなので、恐らく地中だろう。まず、炙り出すか。
ゴルゴーンを発見した時と同じように、真雫に当たらないようにコントロールして殺気を放つ。軽い殺気なので、挑発程度にしかならないはずだ。これで怒ってくれれば、俺としても助かる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!と地面が縦に大きく揺れる。咄嗟にこの場が危険と判断した俺は、真雫を抱き寄せ最大速で逃れる。既に魔眼共鳴済みなので、そのへんは抜かりがない。
地面が割れると同時に、そいつは姿を現した。確かにミミズだが、先端に平面上で歯がぎっしりと並んでいる。そいつはありえないほどの巨体を地面からさらけ出していく。デカイな流石に。まだ地面に埋もれている部分があることから、これでまだ全長ですらないことが分かる。【感覚強化】が教えてくれる強さは、リターさんと同等。これは確かに高難度クエストだわ。
「ギュワアアァァァァァァァァアア!!」
ヤツの鳴き声が轟く。思わず耳をふさいでしまう程に五月蝿かった。
そう思っていた矢先、ヤツが己の巨体を使って飛んできた。後端も見えている。まずい。距離は取るべきではなかったか?
「真雫、半径10mの
「了解」
ズズウウゥゥゥゥゥン、という音がして、真雫の
真雫を抱えながら、手に召喚した2つの
上空からサンドワームを見下ろす。ヤツはまだ暴れ回っていた。暴れ終わってからどうにかしたいが、それでは恐らくヤツは地中に戻ってしまうだろう。
しかしこのまま攻撃してしまうと、外してしまうかもしれない。別に外しても誰もいないからいいのだが、一気に仕留めた方が地形変化が少ない。
何か、いい方法がないか……ん、あれならいけるか?一時的だが効果があるかもしれない。
「”
巨大化させた
次に
そう思いいたり、
しかし、切断した一部一部が、気持ち悪く動いている。なんで虫は体から離れても、ああいう風に動けるのか毎度のことながら思う。毎度と言っても、そんなに虫を切断した記憶はないが。
しばらくして、サンドワームの動きが止まった。どうやら絶命したらしい。
「……終了?」
「みたいだな」
事前に近くの地面に設置しておいた
あまり嬉しくないが、真雫は少しづつだが、こういう死体をみても、ある程度は平気になったみたいだ。恐らく人死はまだ耐えられないだろうが、動物や虫は大丈夫かもしれない。
サンドワームの先端へと向かう。歯を1本摂取して、ギルドに提出するためだ。
意外と小さい歯を抜いて、袋に入れる。死体はギルドがどうにかしてくれるだろう。
でもあれと戦って5万円か……。安い気がしてならない。俺はそれなりに余裕があったので良かったが、俺よりも弱い人だと結構キツい。もしかして、ギルドがよく空いているのは、冒険者稼業が相当シビアな仕事だからだろうか。確かにこの国では、仕事を探せばいくらでもあるしな。
「先にギルドに行く?」
「そうだな、この袋意外と邪魔だし、ギルドに行こう」
俺達は袋を先に1つだけ提出するため、ギルドに戻った。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「……クリア?」
受付嬢の目が点だ。信じられないものをみた!みたいな感じで、目の前に置かれたサンドワームの歯の入った袋を凝視している。
そもそも高難度クエストは、日に日をかけてクリアするものだ。そうギルド長には説明させてもらっている。でも、あれぐらいの魔獣なら、リターさんでも普通に倒せると思うけど?
聞けば、サンドワームの短時間討伐はギルド創設史上初めてらしい。そもそも、基本地中に潜っているがために、見つけるのにすら普通は数日を費やすのだそうだ。そして、運がよくすぐ見つけても、個体の能力が強いため、1日に帰還するのはありえないスピードらしい。
受付嬢の説明で、本当にそうなのかなぁ、と思っていたが、周りの驚愕の視線から、嘘は言っていないように思える。目立たないよう行動したかったのに、いきなり目立ってしまった。
「それでは、次のクエストがあるのです、では」
「あの、もしやその次のクエストも……?」
「高難度クエストですが?」
周りが更に驚愕に染まった。そんなに異例かね?
そう疑問に思いながらも、ギルドから出て、次の目的地へと向かう。次はおおよそ近いので大丈夫だ。
場所はここより南の山脈──スードゲビルゲ山脈。
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