幕間話2.魔神が宿りし左目と正義の使者の生い立ち
「ふん、我が左目よ、我を乗っ取ろうたってそうはいかないぞ……。俺は特別な訓練と経験を経ているからな」
ここは我が城。世間一般的に自分の部屋即ち自室と呼ばれている場所だ。こんなのが城だって?笑わせるなよ、とほざいているお前、知らないだろう。この部屋は魔界にある我が城と繋がっており、いつでも行き来できるのだからなぁ!
そう、私は
ピーンポーン。
ムッ、どうやら何者かが我の領域へと侵入してきたようだ。外界への扉を開ける。
「
「まず中に入れてもらいたい」
「よかろう、入るが良い」
来たのは我が能力をも上回る力を持つ者、
「それで、何故にここへ来た?」
「……ノアに、決闘を申し込みに来た」
「……ほう?」
決闘か。よかろう、我が魔神が宿りし左目にひれ伏すがよい!
「さぁ魔神よ、戦いの時間だ、目覚めるがよい!!」
「万人を救いし、光の力よ!私に加護を!!」
そして、我等の戦いに火がついた……。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「火がついた……じゃねぇよ!」
現在、パラスト内。俺は軽く大声でら過去の自分にツッコミをいれた。恥ずい、恥ずすぎる……!そして痛すぎる……。
俺と真雫、そしてリーベは、パラストにある俺達の自室でだべっていた。リーベも丁度休養中だったので、同じく暇だった俺達と共に1日だべることにしたのだ。暇人の所業である。
「まぁまぁ、ノア、落ち着いてください。それぐらいの経験なら殆どの人がありますよ。多分」
リーベのフォローが身に染みた。俺は、いい友を持ったな。
「それよりもノア」
「何だ?」
「ノアの
「あっ、それ私も知りたいです」
「……言わなきゃダメか?」
「ダメ」
これもそれなりな黒歴史だから、あまり教えたくないんだよな。しかし、2人のキラキラした目で迫られ、負けたので語ることになった。
この能力、
しかしある時、そのアニメに出会ってしまう。最初は、ただ友達から誘われて見ただけだった。始まりは、本当にそんな些細なことだったのに、段々とそのアニメ、もといアニメ全般にどっぷりハマっていった。そして、その誘われて見たアニメの主人公の能力が、魔神が宿りし魔眼使いだった。
既に中二病を発症していた真雫の所為もあってか、自分にも左目に魔神が宿っていると思い込んでしまい、それはもうイタイ中二病になったのだった。
「その、あにめ?ってなんですか?」
「うーん、動くイラストみたいなやつだよ」
「へぇ、面白そうですね」
興味深そうなリーベには悪いが、この世界にいる以上、アニメは見れない。こんな話をしているからか、久しぶりアニメを見たくなってきた。
「では、なんでマナは
「知りたい?」
「知りたいです」
それは俺も聞いたことがなかった。というか、あまり疑問にすら思っていなかった。
真雫は知っての通り、正義が大好きだ。真雫もアニメに影響されたらしい。そのアニメは、ヒーローが人々を救う話なのだが、敵と戦っているうちに、助けられない人がいて悔やんだり、助けられたのに助けられなくて嘆いたりと、とにかく主人公ヒーローが悩み、成長する物語なのだ。あまり人気がなく、寧ろつまらないとネットでは散々叩かれていた作品だ。
俺もまぁ、その作品は好きだ。人類を背中に背負う人って、何かとカッコイイよね。
そのアニメに影響され、真雫は中二病となったわけだが……。
「でも、それだけではない。実は、現実にもヒーローがいた」
「本当ですか!?」
「正確には、私にとってのヒーロー。皆にとっては違うかもしれない」
そのヒーローとやらは、まだ幼少の頃に、いじめられかけていた時に、正面切って助けてくれたのだそうだ。その頃の記憶は、俺は曖昧なため詳しく覚えていないが、真雫は未だはっきりと覚えているみたいだ。
そして今も、真雫はそいつに憧れ続けている。
「それってまさか──」
「言っちゃダメ!」
リーベはムゴムゴ、と真雫に口を抑えられて上手く喋れなくされていた。。その部分聞きたかったのに。
「リーベ、その答えが誰であろうと、絶対に他言無用」
「……分かりました」
『他言無用の契』とか言って、指切りをしている。これでは、もう聞くことはできなさそうだな。
「でも、いいですよね、中二病って」
そんなことを突然リーベが言い出した。中二病なんて恥ずかしいだけだ。
「でも、いいじゃないですか。自分の好きなように生きられて」
公爵令嬢様にそんなこと言われますと、ねぇ?まぁ、実際あの頃は楽しかったといえば楽しかったな。
探索と言って色々な場所に行ったり、決闘だ!とか言って中二病バトルを繰り広げたり。人前でやっていなければ、確かにいい思い出になっていたのかもしれなくもない。
「私、こんな家柄ですから、そんなことできなかったんですよね」
人前でやる分には、確かに人間恐怖症の彼女には無理だろうし、それ以前に由緒ある公爵家の一人娘だからなぁ。無理もない。
「なら、ノア、リーベの二つ名考えてあげよう!」
「あ、それいいですね!お願いします!」
俺の発言無しに、勝手に話が進んでいた。
「早く考えてください!」
リーベがめっちゃwktkしていた。多分、友達と一緒になる、というのもあるのだろう。別に考えてやってもいいか。
でも、二つ名か……。中二病卒業してから、二つ名を考えたことなんて1度もないんだよな。
とりあえず、好きな物から割り出そう。
「じゃあリーベ、何か好きな物ある?」
「好きな物ですか?うーん──」
そうやって考える素振りを見せた。それからおよそ数分して、漸く答えが出たみたいだ。普通こんなに時間がかかるかね?
「絵が好きですよ。あと、トランプが好きです」
絵とトランプか……。思いつきそうにないな、その単語では。真雫も、それでは答えが出なさそうだと悟ったみたいだ。
「じゃあリーベ、憧れてるものは?」
「憧れてるものですか?お父様や……ノアやマナですかね……」
照れ臭そうに俯きながら答えた。俺と真雫は、リーベにとって憧憬の存在だったのか。……嬉しいものだな、こういうのって。
しかし俺達に憧れているとなると、どうも考えづらい。
「リーベにとって、私達はどんな風に見えてる?」
「ど、どんなって……友達です。……最高の友達です」
また俯いて答える。この休日中、嬉しいことが沢山あるものだな。
「じゃあ、お父さんは?」
「お父様は……先生です」
「先生?」
「はい。私に人との接し方について、優しく教えてくれた、最初の人です」
これまた照れ臭そうに言うリーベ。こんなにいい娘なのに、人間恐怖症は勿体無いな。学園とかに行ったら、確実にモテる娘だね。
人との接し方について教えた人か。つまり、接し方の後継人だな。
「じゃあ、『
「ん!それいい!」
「かっこいいですね!貰っておきます!」
即決定した。悪い気はしないが、こうもあっさり決めていいものか?
「大丈夫ですよ、かっこよければそれでよし、なので」
ならいいか。本人が喜んでいるしね。俺も異論はない。
「じゃあ、次は必殺技を決めよう」
「必殺技ですか?」
「そう、必殺技。ちなみに私の必殺技は『正義の光の裁きを受けよ!
「あーあー、それは言わないでいい」
流石に必殺技は、黒歴史の極みだから言いたくないんだよ。分かってくれ、俺の気持ち。
「えー、聞かせてくださいよー」
「ダメ」
「本当に、ダメ?」
「そんなうるうるした目で迫ってきてもダメ」
シュン、と萎れた。うぅ、そんな姿を見せないでくれよ。罪悪感が出てくるじゃないか……。でも、こればっかりは譲れない。
「……『我が魔神眼に恐れ慄け!
「うぉい!何言っちゃってくれてんの!?」
真雫が暴露してしまった……。いや、だって恥ずかしいだろ、恐れ慄け!とか。顔面から火を噴いてしまいそうだ……。
それを聞いたリーベが、なんか嬉しそうにしていた。この娘のこんな顔を見てしまうと、どうもやりきれない。
「そういうわけで、私の必殺技も作ってください!」
どういうわけかは一切分からないが、必殺技も作ることになった。別にそんなの作っても無意味なのに。作ること自体は楽しいのは、俺もよく知っているのだけれども。
でも、必殺技こそどうやって決めていいか分からない。俺の
「どんな必殺技がいい?」
「そうですね、マナの
「……そう」
何故か今度は真雫が俯いた。別に恥ずかしそうにはしていない。やはり、まだ役に立てなかったことに負い目を少し感じているのだろうか。
今はそんなシリアスな話はしなくていいので、とりあえず、必殺技作成に専念するとしよう。
「そうだなぁ『
「……ノア、天才かよ」
「褒めるな褒めるな」
褒めるなら俺じゃなく、俺の閃きを褒めてくれ。
「なら、リーベ。決闘を申し込む!」
「おっ、分かりました!受けて立ちます!」
始まったよ……。まぁ、何となく予想はしてたけど。
そして2人の中二病妄想バトルが繰り広げられたのだった。
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