22.襲撃&無双(3)
「はぁああああ!!」
持っている
近距離の敵には
後方では俺の取りこぼしたヤツをリターさん達パラディンが対処している。
俺は今、戦線に出ていた。それも最前線で。しかし、砦からの一定上の距離を保っている。
1時間前……。
「これで私達は陛下直々に命を受けたわけなのですが……」
「どうするか、だな」
「ファイグさん、何か作戦はありますか?」
「この6人だけでだと、今思いつく限りは勝つのは厳しいですね」
「勝つのではありませんわ。守るのですよ、応援がくるまで」
砦の上で、俺達は作戦会議を開いていた。月明かりが良くて、今からまた戦うとは思えない空気だ。
「防衛ですか……。なら先頭に2人、後方に3人置いて守護するのがいいと思われますが……」
王国随一の策士が言うのならそれがベストなのだろうが……。
「先頭を1人にすることは可能ですか?」
「可能ですが、おすすめしません」
「どうしてです?」
「1人で2人分の働きをしなくてはならなくなるからです」
「それぐらいなら大丈夫です。俺が1人で先頭を受け持ちましょう」
「よろしいのですか?」
勿論よろしい。先頭に複数人いると、誤って攻撃してしまう可能性があるからね。もしそうなったら申し訳が立たない。
「わかりました。では、カミジキ ノアさんが先頭で敵と交戦、そのお零れを残りの私、リター・ハイリグンさん、ホシミヤ マナさん、リン・シクサルさん、ウバ・ラッシェンドが拾う、というので宜しいでしょうか?」
「異議なし」
「私も」
「私も上に同じでよろしくするわ」
「俺も異議はない」
「……(コクッ)」
一人一人名前を読んだことに意味はあるのだろうか?まぁ、そんなことはどうでもいいや。
「それでは、後30分で敵が視認できます。それまで休養をとってください」
それぞれがどこかへ行ってしまった。俺たちは特に行くこともないので、その場に留まっていた。
「……ノア」
「どうした?」
「……これで、終わると思う?」
これ、は多分この襲撃のことを指しているのだろう。
「終わってほしいな、俺は。正直、もう戦いたくない」
「じゃあ、なんで戦いに参加したの?」
「多分、意図せずとも参加させられたんじゃないかな、これ」
少なくとも、リターさんよりも遥かに強い俺は、参加させられただろう。戦闘向きではない真雫はまた別として。
「……分からなかった、邪神封印の難しさが」
「今も分からないだろ?」
「うん、正確には分からない。でも、これよりも難しいと思う」
「まぁ、簡単ではないだろうな」
邪神の正確な強さは、良くは分からないからな。果てしなく強いのだろうか?いや、それだったら歴代転移者が勝てないな。
「だけど、それでも──」
そう口にしながらその場に立ち、真雫に手を差し出す。
「──封印しに行こう、邪神を。この世界を守るために」
「……うん」
俺の手を取ったのを確認して、手を上に引き上げる。
俺達は、この短時間で色々なことを経験しすぎた。生き物殺しから人殺し。軍への参加や、1人無双。そして情のない精神。それでも、俺は前向きにいよう。そうでなきゃ、真雫の笑顔をまともに見れない気がするから。
閑話休題。
「って言っても、まず目の前の問題から片付けなきゃな。真雫、敵はあとどれぐらい?」
「あと20分で見える」
「20分か……」
思ったよりも時間はあるな。どうしようか。
「偵察に行く?」
「いや、やめておこう。八岐大蛇みたいなやつが大勢いなければ、勝てる相手だし」
「油断は禁物」
「まぁ、少し油断しているのは否定しない」
油断と余裕は同義ではないからね。俺的に注視すべきは後の被害だと思うが。
「来たら全力で潰すさ」
「……楽しまないで?」
「楽しんでない。んな人を快楽殺人鬼みたいに……」
楽しむ余裕はあるだろうが、楽しみたい心がないからな。どんだけ精神が強くなろうと、俺は楽しむ気はない。これまでもこれからも。
「さて、とりあえず武器だけ出しておくとするか」
「なんで?」
「いや、それは……もし魔力を封じられた時でも戦えるようにだよ」
実はすることがなかったので剣を振っておこう、と思っていただけである。
「おぉ、流石
「その名で呼ぶな……」
思い出させなきゃよかったよ……。過ぎたことはどうしようもないからな……。
「じゃあ、私も」
「やめとけ、魔力はいざっていう時に使え。今は温存したほうがいい」
「……(シュン)」
「んな露骨な……。ああもう、ほら」
そう言って、
「この剣でも振っておけ」
「……うぅ、重いぃ」
「あぁ危ない危ない!刃先を俺に向けるな!……お、おい、何考えている?何故俺に向けて剣が振り上げられているんだ!?」
「あっ」
「あっ、じゃねえよ!って危なっ!」
咄嗟に
「お前もう剣振るな……。俺が死ぬ」
「じゃあ、
「……嫌な予感しかしないんだが?」
真雫に短剣を渡すか渡すまいか、悩んでいる時、俺達に近づく人物がいた。
「お前ら、今から絶望的な守護戦だっていうのに呑気だな」
「あっ、リターさん」
どうやら帰ってきたようだ。少し顔が赤い。これが恋愛事情だったらまだよかった気もするが……いや、それでもなんか嫌だが、この顔の紅潮具合は多分……。
「酒、飲んでました?」
「…………」
あからさまに目を逸らされた。そこは普通は「いや、飲んでない」とか言ってごまかすところだろ!?飲んだって言っているようなもんじゃないか!
「あら、まだ全員は揃ってないのね」
次にはリンさんがやってきた。何故か肌がツヤツヤしている。
「何していたんですか?」
「うふふっ、知りたい?」
途端、背筋に悪寒がした。今までとは比にならない悪寒だ。……聞くのを後悔した。
「貴方にはまだ早いわよ、ぼ・う・や」
「ぼ・う・や」と言うと同時に、彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、俺の鼻をツン、と軽くつつく。悪寒が増した。そして真雫からも謎の視線。悪寒はさらに勢いを増した。……何このカオス。
「ん、なんだ全員揃ってんじゃねぇか」
「あら、本当ですねぇ」
ウバさんとファイグさんも来た。どうやら全員揃ったようだ。時間にしてあと10分で敵が見える。
「揃っているわけですし、詳しい作戦の説明をしましょう」
それから5分間、俺達は詳しい作戦内容を聞いた。
まず、先制で俺が創造武器で、リンさんが魔法でが広範囲攻撃。できるだけここで相手の数を減らす。
次に、全員砦から降りて、俺一人を前衛、残りの5人を後衛の陣形をとる。その後、迫る敵を基本俺が殲滅、他は零れを拾う形だ。
無論、後ろは攻め込まれてはいけないため、真雫に砦も含めて王都に
防衛期限は、ケーニヒクライヒ王国軍が応援に来るまで。それまでに、防衛するか、殲滅するか。二つに一つだ。
別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?と言いたいところだったが、空気を読んで言わなかった。それほどに、国にとっては一大事である。
「皆さん、戦闘態勢を」
どうやら見えるところまで来たようだ。俺も面をあげて、敵が来るだろう方向を向く。既に1000人を超えた敵兵が目に映った。
「流石に多いですね」
「あぁ、ここが俺らの死地となるかもしれないな」
死地とか言うのヤメテ。まだ死にたくない。
「──!?真雫!
「え?うん、分かった。──”
砦を囲うように
「先制取られましたね」
「呑気に言っている場合ですか……?」
「二軍、来るぞ!」
ゴロゴロドッカーン!ボーン!
と多種多様な擬音が聞こえてくるが、その程度の攻撃では真雫の
「三軍は?」
「……今のところは見えないな」
リンさんと目を合わせ、互いに頷き合う。今度は俺達のターンだ。
「”地に落ちし悪なる罪人よ。汝、煉獄の炎に抱かれて朽ちろ……
敵の先頭に、リンさんの魔法がヒットする。襲撃された時に西側の防衛で見た魔法だが、威力がケタ違いだ。
「ダメだわ、少し削っただけで、大して減らせてない」
「じゃあ次、俺がやります」
少し削っただけで、とか言っているが、一気に2000人は殺したろ、あれ。恐ろしいな、煉獄の炎。
「”
長剣というには少し長い剣を召喚する。
その名の通り、英雄フェルグスが使ったとされるカラドボルグがイメージだ。ひと振りで山の頂きを3つ吹き飛ばすことの出来る切れ味を誇る。ただ、思うのだが、それ切れ味関係あるのか?
「まぁいいや。──フッ」
横薙に長剣を振るう。ザンッ、と独特な音を出して、湾曲状の衝撃波が飛んでいく。
ズドオォォン!!と物凄い音と砂埃を巻き上げた。どれくらい殲滅したかは、砂埃のおかげで全く分からん。
「すごいなぁ、君は」
「だが、殆ど当たっていないだろうな」
なぜ分かる。この人達、強すぎるだろ。経験豊富なんだろうなぁ。
この
「ん、三軍くるよ」
またボーン!ドカーン!と色々降ってくるが、真雫の
「もう一回やりますか?」
「いえ、様子を見ましょう」
ファイグさんの言うことに従って、少しの間ヤツらの動きを静観する。ヤツらはあと10数分もすれば眼下に来る速さで向かってくる。
「ん、何人か周囲を迂回して来るヤツもいるな」
【感覚強化】の範囲に入っていないため、詳しいことは俺には分からない。ただ、分かることはある。それは、リターさんの危険察知能力は化け物級ということだ。流石に強すぎ。
「なら、ここは私が?」
「俺がやってもいいですけど、どうします?」
「じゃあ、お願いするわ」
「承りました」
「さて、もう降りるとしましょう」
「了解です」
パラディン達は、戸惑うことなく砦を飛び降りていくが、真雫は砦の高さに慣れていないようで、呆然としていた。
「もう、しょうがねぇなぁ。よいしょ」
「?──ふぇあ!?」
奇声を無視し、真雫を姫様抱っこをして砦の下へ飛び降りる。ズドン、と軽い音を出して着地した。【身体強化】のおかげで、痛みはこれっぽっちも感じない。
「あら、やるじゃない」
「君も隅に置けないな」
「ちょっと何言ってるか分からないです」
言いたいことは分からんでもないが、その初めて自分の彼女を紹介した時のお母さんみたいな顔はやめてくれ。無性に殴りたくなる。
微妙に赤面中の真雫を下ろして、前衛へと向かう。真雫によれば、ここに応援が来るのもあと2時間半をきっている。そう考えると、微妙に長く感じるな。3時間もないって言った方が少なく聞こえるから、そういうことにしておこう。至極どうでも良いが。
「よし、行くぞ!」
リターさんの掛け声で、俺は剣を召喚し、真雫は
それから数分して、ヤツらが目前に迫ってきた。全員フルプレートで、手には大きな盾とランスを持っている。先程戦った相手とはまた格が違いそうだ。
1人が軽く身を屈め、ランスを俺に向けて突進してくる。その姿はモ〇ハンのランス使いそのものだ。
「”
俺と同程度の高さの盾を出し、ランスを弾き、ヤツを吹っ飛ばす。後続するヤツらに突っ込んでいった。
そいつはまた立ち上がると、次は複数人で襲ってきた。今度は
真雫がいるからあまり人を殺したくないが、状況が状況なため、首を狩る。ヤツらはあえなく絶命。
それからおおよそ数分、対処していて、大体中衛が見えるところまで来たのだが、どうやら中衛からは武器がランスから長剣に変わるようだ。
人数が増えてきたため、
そして、現在に戻る──。
「流石に多いですね」
「それ、さっきも言ったよ」
知ってるよ。大勢を相手にするのが少しキツくて、軽く愚痴っただけだよ。愚痴かどうかは別として。
10人の集団で来たヤツらを、俺の全速力で首を狩る。相手が重武装なのが功を奏したのか、相手の動きが鈍い。
「大丈夫ですか?」
「私は魔力が少し無いわ。貴方は大丈夫なの?そんなに魔法を使って」
「えぇ、まぁ」
魔力量は馬鹿みたいに高いからね。あまりそういう感覚はないが。
「なら、少し大幅に殲滅します」
手に
「やはり凄いよ、君」
「褒め言葉として受け取っておきます」
少しばかり休憩時間ができた。次軍が来るまでは分単位だが、それでも充分だろう。
しかしながら、不思議である。これがゴット・ストゥールの軍勢だとしたら、あの時に聞いた軍勢が5万だ、というのは聞き間違いだったのだろうか?ゴット・ストゥールの名前自体、国王陛下は知らないみたいだったし、ここ数年の発足だったとしても、その数年で4倍以上の軍を用意できるだろうか?国絡みの犯罪組織じゃないといいな、と願うばかりだ。
そろそろ敵が見えてきた。
「……おかしくないか?」
「あぁ、おかしいな」
「何がです?」
「敵がブレていない」
……つまり?
「人間ってのは、多かれ少なかれ恐怖という感情を持っているの」
それは聞いたことがある。確か、未知に対して起こるはずだ。
「貴方のさっきのあの攻撃を見ていれば、逃げたくなるでしょ?でも、彼らにはその素振りが見えない」
「腹を括ったんじゃないんですか?」
「それはありえないでしょう。相手は20万、対して私たちはたったの6人。逃げ切ろうと思えば逃げ切れると予想できる」
それはまぁ、確かに。俺ならいつでも殲滅できるけどな。ただ、不安要素があるだけで、今は殲滅がしにくいだけだ。
「今はそんなことはどうでもいい!来るぞ!」
火の槍が目前までに迫る。数はおよそ20本。狙いは俺だ。
まず俺に当たる槍だけを瞬時に選別。まず右に反れるように避けて、そこに来た槍を、右に倒れ込むように避ける。さらに来た槍を、バク転で全て避ける。足で着地する瞬間にジャンプ。後は避けなくてもよし。よし、ヒット数ゼロ!
真雫にも飛んでいっていたが、
「ねぇぼうや。さっきの広範囲殲滅はまた出来る?」
「すみません、あれ、回数制限があるので」
嘘である。回数制限なんてあるわけない。だが、相手は邪神教の犯罪組織。もし、また戦う時があった時に回数制限があると思い込ませることが出来たら、戦いが楽になりそうなので、こんな嘘をついた。逆につかなかったら、その対策をされて戦いづらくなる。
故にこれからは人前で高威力広範囲の武器のお披露目は、できるだけ控えよう。今更そんなことを決意するとは。もう少し頭が良くなりたい。
それはともかく、眼前に迫った敵の剣を、
しかし、剣からは何も起きなかったため、敵を斬り捨てる。この剣はどんな能力を持っている?
それから何人かは剣を交えてみたが、剣の能力は分からなかった。
「あら不味い、これ魔剣ね」
後ろのリンさんが、俺の切り伏せたヤツの持っていた剣を手に取りそんなことを呟いていた。魔剣……?
「魔剣ってなんですか?」
「あら、貴方の持っているその剣も魔剣でしょ?魔法を扱える剣のことよ」
なるほど、それらの総称か。てっきり呪いの剣か何かかと思った。
「どんな魔剣か分かるか?」
「ちょっとまってて、これは……」
リターさんに聞かれ、天に翳して、魔剣の能力を調べている。俺もどんなのか詳しく見たいが、ちょっと今は敵が多いから手を離せない。というか、あんたら余裕だな。
「これ、形状記憶の魔法ね」
「形状記憶……?」
「えぇ、当てたものの形状を記憶する魔法がかけられている。でもなんでこんなものを……?」
敵は何をする気か分からないが、俺の召喚した武器でその魔剣にはあまり触れないようにしよう。もし、変なことをやられたら困る。
そこらに落ちていた魔剣を使って、再度防衛に入る。この剣、意外と重いな。いや、
魔剣で一人一人の首と胴体を切り離していく。切れ味はある程度はあるみたいだ。よし、このままこれを使おう。
無我夢中、とは言いたくなかったが、何も気にせずに進んでいたため、作戦で決まった範囲を出てしまった。
それを好機と見たのか、敵の魔法軍らしき部隊が、下位魔法を使った。数にしておよそ100。数の暴力だ。
「──しまっ」
一瞬の動揺に、体が動か長くなってしまった。目だけが光の槍を追った。
ズダダダダダダダダァン!!
後方に轟音が轟く。同時に砂埃が巻上がり、真雫達の姿が見えなくなる。
また、失敗した。どうしようもない自分に怒りが湧いてくるが、【精神強化】のおかげで冷静さは失っていない。
巻き上げられた煙が薄まってきて、視界が開けた時、俺の目に映ったのは、瀕死のパラディンたちと、
まずい、俺は5人も背負って戦えない。援軍も多分あと30分はかかる。ここは一回ひくか。
「真雫、
「…………」
「真雫!」
「……ハッ、できる」
「よしじゃあ、俺を含めて拡大展開してくれ!」
「分かった──”
俺の目の前に、半透明の壁が出てくる。これが割れるのも時間の問題だろう。
「──”
テントの中にいた国王陛下その他諸々は、とても驚いていた。無理もないが。
「な、何かあったのか?」
「すみません、俺のミスで全滅しました。今は真雫が、
「リター達は……?」
「息はありますが、重傷です。治療をお願いします」
「わ、分かった。君はどうする?」
「時間を稼ぎます」
そう言って真雫の近くに転移する。リーベが何か言おうとしていたが、有無を言わさず転移した。
「真雫、大丈夫か?」
「うん、でも、少しキツい」
「そうか、でも、もう少し頑張ってくれ」
ザッザッ、と
「ノア、やるの?」
「他にやりようがないからな」
手に
「開けて」
「……分かった」
渋々、といった感じで、俺一人分の穴が
ガキイィィィン!と、耳が痛くなるような金属音が響く。横からも数人、斬りかかってきた。
俺はそれを全て
「すまないが、今からお前らに、ただの八つ当たりをさせてもらう」
沢山生き物を、人を殺したからだろうか。気づけば、俺は絶大な殺気を放っていた。周りにいたであろう小動物が、泡を吹いて転がっている。
ヤツらはそんな俺にビクともせずに襲ってきた。リンさんの言っていた通り、確かにおかしいな。
ヤツの攻撃を見切り、首を剣で切る。
右、左、斜め右上に切り上げ、後ろに剣を回して襲い来る敵の剣を防いでから、軽く蹴って斬り伏せる。
「──フッ」
掌で押し出す感じで、相手数人を吹き飛ばす。一番前にいたヤツの鎧の腹部にはくっきりと手形がついた。
「──”
回数制限があると嘯いたが、更に重ねて嘘をつこう。回数制限はまだ残っている。
横の長剣を振って、敵を一掃する。当たらなかったヤツらも、俺の
見た目、冷静さを気取っていながらも、内心は自分への怒りが溢れ出ていた。
リーベの安全も守れず、パラディン達までも危険に晒して。何がこの体がチートだ。チートなくせに、何も出来ていないじゃないか。馬鹿みたいに人を殺して。これじゃあ邪神の1人や2人、封印どころか殺すことすらできないじゃないか。あんなに真雫に見栄を張ったのに、結局自分じゃ何も出来ない。
散々自分を罵った後、湧き上がってきたのは後悔の念と、罪悪感。
後悔はリーベの護衛を引き受けたことへ。罪悪感は、何も守れない自分へ。
いっそ、死んでしまおうかな。
そんなことを考えてしまう。しかし、その考えは叶わなかった。
『──二番小隊、右翼へ展開!敵を殲滅するぞ!!』
朝日が照ると同時に、そんな声が聞こえてきた。朝日は今までも少し出ていたが、戦いに集中していたのか気づかなかった。遂に応援が来た。遂に応援が来た。数十分前の俺なら喜べただろう。だが、俺は素直に喜べなかった。
「ノアさん!」
「……サイスさん?」
お腹をタポンタポン言わせながら、サイスさんが走ってくる。
「良かった、無事だったか」
「どうして、ここに?」
「こう見えて私も元軍人でね。鎌の扱いなら今でも現役に引けを取らないよ」
そう言いながらザシュッ、と自前の大鎌を持って敵を斬っていた。
「さぁ、ここはもう大丈夫です。貴方は陛下達のところでおやすみなさい」
そうか、もう大丈夫か……。イマイチしっくりこない俺の前の
「ノア!」
「真雫……」
真雫がタタタッ、と駆けてくる。すると、俺の前で立ち止まって、
「怪我はない?大丈夫?」
「大丈夫、何もない。平気だ」
怒りが消え、罪悪感と後悔が頭の中をグルグル回る。そんな中、真雫にはあまり心配をかけたくないから、作り笑いで誤魔化す。
「そろそろ戻ろう。リターさん達が心配だ」
「……うん」
何か真雫が怪訝な顔をしている。まさか、俺の今の心境に気づいてはいるまい。
1歩踏み出そうとしたところで、俺は足から崩れ落ちた。
「──ノア!?」
その声を最後に、俺は意識を手放した。
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