21.襲撃&無双(2)

 俺は中二病のころ、人を殺せると思っていた。それを実行するだけの精神力があると、信じていた。でも、その精神力を確実に手に入れた今、それが悲しい。人死を見ても何も感じなかった。多分、人を殺しても大したことは感じないだろう。


 でも、俺が最も恐れていることは、そんな事じゃない。俺が恐れているのは……。俺が本当に恐れているのは──大切な人の死で、何も感じないことだ。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「さて、さっさとやろうか」


 火焔剣フランベルジェを召喚。炎を出せるこの剣は、俺の持つ範囲攻撃できる武器の中で、最も範囲が広い。


 まず、敵を炙り出す。


 人間が軽く火傷を負うぐらいの炎を、俺の周りに同心円状に火焔剣フランベルジェから放射する。真雫は防御壁マウアーを張っているからダメージはない。


『──今のを宣戦布告と見た!これより蹂躙を開始する!』


 地面が次々と盛り上がって、人が姿を現していく。チッ、地面に隠れていたか。


 現時刻は11時45分。15分早い。恐らくさっきの俺の牽制がトリガーとなったのだろう。もし、南側も早まったのだとしたら、リターさん達には申し訳ない事をした。


 ここでグダグダしていても意味が無い、と思い、砦から飛び降りる。改めて見ると、本当に立派な砦だ。進〇の巨人のあれみたいだ。サイズは違うみたいだが。


 壁につかまり、足の裏をつける。さて、やるか!


 手を離すと同時に壁を蹴り、そして片手に不壊剣デュランダル、片手に火焔剣フランベルジェの体勢をとる。砦にヒビが入った。……ごめんなさい、建築者の方々。


 着地と同時に近くにいた6人の首を狩る。ヤツらは悲鳴を上げる間もなく絶命した。


 全速力で駆けながら、一人一人確実に首を狩る。俺が見えずにそっぽをむいたまま殺されたヤツ、辛うじて俺の姿を捉えたがそのまま首が飛んだヤツ、後ろをむいていて知らずに命を絶たれたヤツ。色々なヤツを殺したが、本当に何も感じない。転がる死体が目の隅に映るも、向ける視線は哀れみのみ。罪悪感なんてまるでない。


 一人一人相手するのも面倒くさいと、今更ながらに気づく。まず、数を減らそう。転移剣ウヴァーガンを遥か上空に投げ、それを伝い転移する。


「”巨大コウセ複数ミーラレ武器ヴァッフェ召喚フォーアラードゥング : 大棍棒ダグダ”」


 複数の棍棒を、彼らの上に召喚。その数、100本。そしてサイズも、八岐大蛇を相手した時の比ではない。前回は一軒家程だったが、今回の棍棒ひとつの大きさは、高層ビル1つ分だ。


 それら全てが彼らの頭上に降り注ぐ。


「ひ、ひいいいいいい!!」

「に、逃げろ、逃げろぉぉおお!!」


 逃がさないよ……?


 そう言いたいところだったが、1度真雫の近くに転移する。真雫は青い顔になりながらも、ヤツらの姿を見ていた。


「真雫、王都全域に防御壁マウアーを張れるか?」

「できる」


 即答だった。本当に頼もしい。


「何するの?」

「まぁ、表向きは大棍棒ダグダの風圧から王都を守るため」

「……本当は?」

「俺が間違えて王都へ攻撃しても、王都に被害を出さないため」


 まぁ、それはないだろうけど、一応念の為にな。


「よし、じゃあな」


 上空に先ほどと同じやり方で転移し、地上にいるヤツらを見下ろす。逃げ惑うヤツらは想像よりも走るのが遅く、まだまだ対応圏内に入っていた。軽く後ろを見れば、防御壁マウアーが砦を除いた王都全域に展開されていた。よし、ナイスタイミング。


 片手に先ほど消した火焔剣フランベルジェを召喚し、一振する。


 ゴオオォォォォォォォォォウウッッ!!!!


 ヤツらの逃げ場をなくすように炎の壁をつくる。一瞬で消えると思っていたが、壁は俺が消さない限り消えないようだ。それはそれで使えるな。


 何人かは壁の餌食になったが、殆どはギリギリで止まっており、唖然としている。恐らく、絶望しているのだろう。


 茫然自失としているヤツらに、大棍棒ダグダの追撃が降る。炎の壁出現時に聞こえた轟音に負けず劣らずの轟音を響かせながら、ヤツらに被弾した。同時に俺にも風圧が飛んでくる。空中にいたので吹き飛ばされた。うはぁ、強え。


 風が入ってこない真雫の防御壁マウアー内に転移する。真雫はまだ青い顔をしていた。


「……ノア、これは、酷いと思う」

「手加減がしにくくてな。大勢相手は初めてだから」


 再度、防御壁マウアーの外に転移する。転移先は大棍棒ダグダのひとつだ。改めて見ると、本当にこれデカイな。少し無駄だ。


 【身体強化】で強化された視力で、地上を見渡す。地面が至る所で盛大に抉れていた。もはや隠れる場所などない。ヤツらの数はそれなりに減らしたが、まだ1/4ぐらい残っているな。


「”武器ヴァッフェ召喚フォーアラードゥング : 雷破槌ミョルニル”」


 もう片手に雷破槌ミョルニルを召喚。ゴーレムや八岐大蛇の時には使わなかった機能を使うとしよう。


 雷破槌ミョルニルを天に掲げる。空に次第に黒い雲が集まっていき、月明かりが消えていく。


 閃光。視界が白に包まれ、消え去っていくヤツら。一人一人、ピンポイントで雷が落ちる。雷破槌ミョルニルは狙って雷を落とせる。大棍棒ダグダは今俺が立っているもの以外取り除いたため、それはもうとても見晴らしがいい。狙い放題だ。


 時々飛んでくる魔法も、当たっても自動盾モルガナが勝手に守ってくれるし、そもそもここが高すぎて当たらない。


 残り10人をきった。後は久しぶりに自動剣フラガラッハに任せよう。


 ザシュッ、という不快音とともに、残りの10人はあえなく絶命した。呆気なかったな。


 転がる1万人の死体を眺めながら、胸に手を当てる。本当に、何も感じない。その事へのショックも、もう消えた。割り切った、と言えば聞こえはいい。でも、そんな言葉で済ませたくない。本当に難儀な性格だな、俺は。


 踵を返し、真雫の所へ転移する。


「終わったよ、真雫」

「……うん」

「次、東の方行くけど……」

「……うん。私も行く」


 手を握り、東側の分隊長の近くに転移する。分隊長それぞれには転移剣ウヴァーガンを渡してあるため、いつでもどこでも彼らの所へ転移できる。


 彼はウバ・ラッシェンド。このネイヒステン王国のパラディンの1人だ。パラディンが3人いるこの国の中で、槍の扱いに最も長けている。


「うおう!……なんだ君か……」

「なんですかその反応は……。応援に来たつもりでしたけど、帰りますよ?」

「いや、待ってくれ。人手が足りない」


 ここは、まだ戦闘が始まっていないようで、ものすごく静かだ。どこからも喧騒の音が聞こえないから、戦闘が終了どころか始まったのですら俺だけか。


「もしかして、片付けたのか?」

「はい、もう跡形もありません。ただ、地面が変形してしまいましたが」


 ハハ、と乾いた笑いをあげるウバさん。まぁ、1万の軍勢を1人でフルボッコなんて、笑うしかないよな。


「それじゃあ、この大きな半透明の壁も君が?」

「いえ、それはこの娘、真雫のお陰です」


 先程は真雫のことはあまり紹介してなかったから、いい機会だ。


「あと、悲報です。ここにいる相手の戦力は約1万です」

「へぇ……はぁ!?」

「……急に大声出さないでください」

「い、いや、すまない。じゃなくて、1万!?聞いていたのよりも多いんだが!?」

「まぁ、その情報は敵のスパイのものなんですけどね……」


 2つの方角にいた敵の戦力が1万だとしたら、他の西と南も相手の戦力は1万と考えるのが妥当だな。


「作戦とかありますか?」

「あぁ、私などのある程度戦線を保っていられるやつを数十人中央に置いて、私らが戦っている間に、周囲に潜ませた残りの奴らで奇襲をかける、という作戦だが……­­1万もいるのだったら、相手の全殲滅はキツいな」

「なら、俺がその中央の役を引き受けましょう」

「君一人でか?」

「はい──」


 肩をガシッと掴まれた。振り向けば、真剣な眼差しをした真雫がいた。自分も行きたいと言いたげな目をしている。……はぁ。


「いえ、この娘も連れていきます。ただ、そうすると俺は殺すことが出来なくなりますが……」


 真雫の目の前で人を殺しても、真雫がナイーブになっても、構っている暇はない。なら、ナイーブにさせないように殺さなければいい。少々骨が折れるが。


「いや、引き付けてくれるだけマシだ。君に中央の役を頼もう」

「はい、承りました」


 時刻は11時50分。え、俺5分で1万人倒したのか……。この体、本当にチートな。


「分隊長。潜伏兵配備完了しました」

「あぁ、中央兵も潜伏兵として配備してくれ。強力な助っ人が入った」

「助っ人……?分かりました、すぐに配備させます」


 駆け足で去っていくのを見ながら、ウバさんはまた俺を見る。


「本当にいいのか?俺がついて行っても──」

「いえ、結構です」


 思ったけど、俺って意外と言葉が辛辣だよね。治す気は微塵もないが。


「ハハ、そうかい。くれぐれも死なないでくれよ?」

「当然ですよ」


 時刻は11時55分。未だ相手に動きはない。予定通り0時に動くと考えてよさそうだ。


「分隊長!今度こそ配備完了しました!」

「うし、よくやった。君、頼めるか?」

「了解です」


 砦から飛び降りる。そして、自動剣フラガラッハを1本召喚し、それに乗る。おぉ、サーフィンみたいだな。やったことないけど、サーフィン。【身体強化】のおかげでバランスはしっかり取れている。


 中央付近につくと同時に自動剣フラガラッハから降りる。


『──全軍、突撃ぃ!!』


 降りた瞬間にそんな声がどこそこから聞こえる。おいおい、仕事早すぎだろう。まだ時刻は11時56分だ。4分早いのか。やはり情報通りとはいかないようだ。敵からの情報だから当然っちゃ当然か。


 ついでに、真雫は俺のすぐ後ろで防御壁マウアーを張ってとどまっている。


 俺達の周囲の土が盛り上がり、人が現れる。まるで


 全員真剣を持っていて、身なりも剣士としか言えない装備だ。


「うぉぉおおお!!」


 1人の雄叫びを合図に、周囲5人が飛びかかってくる。


「”武器ヴァッフェ召喚フォーアラードゥング : 不壊剣デュランダル”」


 一人一人の剣を受け流し、遠くに蹴り飛ばす。ある程度力はセーブしたので、大したダメージはないはずだ。


 真雫の方にも何人か行ったみたいだが、真雫の防御壁マウアー衝波ショックウェルで飛ばされていた。その衝撃波、俺にも軽く飛んでくるからもう少し控えてな?


 筋骨隆々とした男が俺へと剣を振るう。持つ剣は紅く濁った剣だ。魔法とかが使えそうな剣だな。


 不壊剣デュランダルで受ける。途端、ヤツの剣が莫大な熱を発した。あっつ。マジで魔法を使える剣かよ。


 剣を弾いてヤツの手の甲を蹴り、手から魔法の剣を離させる。蹴った勢いで回転がかかった俺は、更に一回転してヤツを蹴る。回し蹴りの要領だ。地球でみた映画の見様見真似だから、上手くできたかどうかはわからない。


 剣を弾いては飛ばし、弾いては飛ばし。その繰り返し。もう何人やっただろうな。半分はやった気がする。集団で一気に襲いかかるヤツらもいたが、俺の魔眼共鳴状態の速さには勝てなかったようだ。まぁ、しょうがないよな。


 それから約数分、その繰り返しを行ったところで、合図があがった。サッと真雫の所へ行き、後方の砦へ転移する。


『”地に堕ちし悪なる罪人よ。汝、煉獄の炎に抱かれて朽ちろ──”』


 中々に中二な台詞があちこちから聞こえてくる。いや、台詞ではない、呪文か。


『──”煉獄炎フィーギーフォウヤ・フラメ”!』


 周りから炎が吹き出されると同時に、数百人の兵士たちが姿を見せる。あれって確か上位基礎魔法だよな?あれをほとんどの人が使えるのは、流石精鋭部隊と言わざるを得ない。


 今ので大抵の敵が消し飛んだ。残りは1/4をきっている。後はもう、俺の助力なしでもいけるだろう。


 まだ戦線に出るギリギリのところのウバさんに一言伝える。


「では、俺たちは違うところの応援に行きます」

「あぁ、ありがとう。助かった」

「いえ、それでは、また」

「あぁ、また後でな」


 生きて会おう、の暗示をこめて別れの言葉をいう。彼はその言葉を受け取ると、戦線へと走っていった。


「よし、次は南に行くぞ。大丈夫か?」

「……うん」


 この短時間で色々経験しすぎてしまったんだ。精神が疲れていても無理はない。これが終わったら、真雫のために1週間休みをとろう。


 南側の担当は、この国のもう1人のパラディン、リン・シクサル。女騎士、というよりも女魔法騎士という感じの人で、魔法に関しては長けている。魔力量は世界でも随一らしい。俺にかなうかどうかは微妙なところだが。


「あら、ノアさん」

「はい、希空です」


 転移後に着いたのは砦の上だった。リンさんは特に驚かれる様子もなく、俺に話しかけてきた。この人、美麗な容姿に反して、ものすごく強かなんだよな。いや、美麗故かもしれない。


 砦のしたでは戦いが繰り広げられており、相手に囲まれる形で兵士たちが頑張っている。


「戦線に出ないのですか?」

「えぇ、作戦があるから」


 流石、この国のパラディンは皆、作戦を考えているみたいだ。どこかの考えなしに火焔剣フランベルジェで牽制して戦いを早く始めてしまうバカとは違う。


 1人、また1人と兵士たちが倒れていく。1万と約200では勝敗は既に決しているように見える。


「”地に堕ちし悪なる罪人よ、煉獄の炎の壁に呑まれ、灰燼と化せ──”」


 先程の煉獄炎フィーギーフォウヤ・フラメとはまた違った詠唱だ。似てはいるが違う。


「──”煉獄炎壁フィーギーフォウヤ・フラメ・バレリーラ”」


 黒い火柱が、中央に集中するヤツらを囲うように現れる。うおう、これ確か上位魔法の中でも、特に難しい魔法じゃなかったか?


「中央にいる仲間の兵士はどうするのですか?」

「彼らには私の魔法による加護を受けているわ。私の魔法を受けても、すべて無効化される、ね」


 見捨てるのかと思ったが、そうでもないようだ。こういう人って結構残忍そうだからさ。


 みるみるヤツらがやられていき、対して仲間の兵士はダメージを受けている様子は見当たらない。この人、確かに魔法に関しては凄いな。


 ここは俺が助けなくても良さそうだ。


「では、俺は去りますね」

「えぇ、ありがとう、応援に来てくれて」


 何もしていないけどな。そう思いながら転移する。転移する瞬間に、リンさんが投げキッスを俺たちに向けてしたのが見えたが、見なかったことにしよう。


 次に転移するのは西だ。西は北の次な防御が薄いところである。担当は、リターさんとこの国の3人目のパラディン、ファイグ・リンゲさん。狡猾とした戦法が得意らしく、この国1番の策士と言われている。見た目が骨みたいな人だ。


 リターさんは戦線に出ているが、ファイグさんは砦の上で待っていた。


「ヒヒ、やぁ、ノア君」

「さっきぶりです、ファイグさん」


 怖ぇ。その笑い方怖いからやめてほしい。


「それで、戦況は?」

「えぇ、私の予想通りに進んでくれて、順調です。しかし、相手の行動が雑すぎる。恐らく裏があるでしょう」


 裏、か。まぁ、確かにありそうだな。


「助太刀しましょうか?」

「いえ、結構です」


 即効で拒否られた。薄々は気づいていたので、別に気にしてはいない。しょうがない、後学のために観戦するとしよう。


 リターさんが、雄叫びをあげながら敵を斬りまくっている。その表情は、バトルジャンキーのそれと同じである。中々に怖い。精鋭部隊の人達がバンバン人を殺していっているが、どちらかというとおされている。このままでは負け確定だろう。


 中央に精鋭部隊、その周囲を敵が囲む、という形になってしまっている。途端、敵の地面のみが。何が起こった?


「私専属の魔導師部隊がよく働いたようですね」


 そう独りごちている彼を尻目に、もう一度戦線を見る。リターさん達を囲う敵を、更に囲う魔導師らしき人達がいた。あの人達の仕業か。ていうか、そういう部隊があるなら、最初から使ってほしい。


 敵の地面は、約10m陥没している。そこに、また魔導師部隊が魔法を放った。どうやら水を流し込んだようだ。


 更に追い打ちで魔導師部隊が魔法を唱える。頑張るなぁ、魔導師部隊。だが、ここからではどんな魔法をかけたか分からない。


「何の魔法をかけたのですか?」

「知りたいですか?」


 何か嫌味ったらしい言い方だな。この人、やはり苦手だ。


「教えてください」

「いいでしょう──」


 どうやら、重力魔法を使ったようだ。重力魔法は、地の基礎魔法の上位魔法に値する魔法で、地の魔法を使える人がなんとしても使いたくなるような魔法らしい。なるほど、重力魔法でヤツらを沈めて、溺死させるのか。


 そう思っていたが、実際そうでもなく、また魔導師部隊が雷魔法を使って敵を感電させていた。あぁ、これで別に感電死しなくても、重力魔法で浮き上がることができないから溺死で結局死ぬのか。


 他の場所から狼煙が上がる。戦闘終了の合図だ。どうやら他も終わったらしい。所々から、勝利の雄叫びが聞こえてくる。それは、終わりの宣言ともとれる言葉だった。


 一応、この場にいる敵は消えたようだ。全方位の場所を【感覚強化】で感知してみたが、いないみたい。


 流石、というべきか。全ての敵を殲滅した。パラディンとは、名ばかりではないな。


 俺達はパラディンの方々と一緒に、国王陛下達の場所に戻る。


「よくやった。君らの勇気と努力に感謝しよう」

「「「「はっ」」」」


 息を合わせて返事をするパラディンの方々。確かパラディンは、王家に絶対忠誠を誓っているんだっけな。


「褒美については後日考えよう。今は──」

「失礼します!!」


 声を荒げた様子で一兵卒がテント内に入ってきた。この場は緊急時以外は、パラディンより下の階級の者は入れない。つまり、緊急時ってわけで。


「何があった?」

「王都より北に1km、敵軍がこちらに向かってきております!」

「数は?」

「数は……20万に及ぶかと思われます!」

『なっ!?』


 先程の戦いが敵の総勢4万ぐらいだったから、その5倍ぐらいか。これは結構まずいよな。


「残存兵は?」

「先程の戦闘で精鋭部隊の殆どが疲弊で動けません」

「まずいな、これは」


 この国の軍の殆どは遠征からは帰ってこれないだろうし、ケーニヒクライヒ王国からの応援が頼りになりそうだが、問題はそれがいつ着くかだ。


「応援は、いつ着くかわかるか?」

「先兵によれば、あと、3時間ほどで着くようです」

「それでは、敵がこの国に来てしまうではないか……」


 真雫の防御壁マウアーで耐え切る、という案が思いついたが、流石に20万人の攻撃を耐えられるかどうかは分からないな。


 ふと、横を見れば真雫が思案顔でいた。多分、俺と考えたことは同じなのではないだろうか。


「真雫、やめとけ」

「え?」

防御壁マウアーじゃ耐えきれない可能性がある。もし、守りきれなかったらどうする?」

「……それは……」

「今は無理だ、やめておいた方がいい」

「……うん」


 真雫は俯いた。不甲斐なさとかを感じているのだろうか。


 ガシャ、と金属の擦れ合う音が、近くで複数聞こえた。見れば、パラディン4人が立って、陛下達に顔を向けている。


「陛下……」


 その双眸は、輝いていた。自分達を使え、と言いたげだ。両陛下は顔を見合わせた。


「……やれやれ、私達はいい部下を持ったな」

「そうだな、これ以上の部下はいない」


 彼らは一息つくと、


「お前達はいい部下だ。失いたくない。だが、これが人のためとなるなら、──」


 キッ、とパラディン達に両者の視線が向けられる。覚悟を決めたようだ。


「「パラディンに命ずる!応援が来るまでの間、命を賭して王都を守れ!」」

「「「「はっ!!」」」」


 これはドラマかなにかか?彼等が戦うなら、俺も戦うとしよう。連戦はキツいけど。


「なら、陛下。俺も行きましょう。力になるはずです」

「分かった。君達にも頼もう」


 真雫は入れるつもりはなかったが、真雫も行く気みたいだし、いいか。さて、連戦を終わらせに行くか……!

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