20.襲撃&無双(1)
それからは、順調に物事が進んだ。国王陛下達と合流は難なくでき、リターさん達を運ぶのも殲滅隊βに手伝ってもらった。生きている人は、治療室とやらで治療させている。俺は心強い戦力として優先的に治療させてもらった。回復魔法をかけてもらっただけなのだが、その回復魔法での回復の早さがエグかった。死者は、腐らせないために保管してある。この世界にも葬式はあるようで、この事件が終わりしだい、式が挙げられるそうだ。
それよりも、国王陛下達の移動理由が気になる。1度聞いてみたが、「極秘事項だ」と言われて突っ返された。明らかに裏がある。追求したいが、恐らく無理だな。
そして現在、俺と真雫はリターさんと面向かって話している。リターさんは最高戦力の1人なので、俺と同じように優先的に治療させてもらっており、怪我もおおよそ治っている。
「じゃあ、まず質問ですが、あの八岐大蛇はなんですか?」
「ヤマタノオロチ?」
「……あぁ、こっちにはその神話はないのか。あの首が7つある虹色の蛇のことですよ」
「……あいつは、元人間だ」
「……は?」
改造人間とかみたいなあれか?人間の面影なんてこれっぽっちもなかったけど。
「いただろう。パラディンぐらいの強さを持ったヤツが」
「あぁ、いましたけど……まさかその人?」
「あぁ、そうだ」
顔は見ていないから分からない。でも、俺が【感覚強化】で感知した時は、少なくとも人間だった。
「もとは根暗そうな男だったんだが、俺が攻撃を仕掛けた時に急に光だして、俺や隊員は吹き飛ばされ、そこにお前らが来たんだ」
なるほど、戦ってすらいなかったのか、この人。……ん?根暗そうな男?
「それってもしや、目の下にクマができた、少し痩せ気味で、目が細い人ですか?」
「あぁ、そうだ。知り合いだったか?」
知り合いではない。恐らく、一方的に知っている。精神魔法をかけられた時に、3人をつけていたあの男だ。意外と印象に残る顔だったので、覚えている。
「いえ、知り合いではありません。ですが──」
俺が精神魔法をかけられた時に見た映像を2人に話す。
「それは、現実で起きたことなのか?」
「いや、分かりません。俺が作られたものを見ただけなのかもしれませんし、実際に起きたことかもしれません」
「いや、多分実際に起きたこと」
「まぁ、そっちの方が可能性が高いな」
俺が会っていないはずの人の顔を知っていたのだからな。
「分かった。その件は国王陛下には俺から言っておこう」
「お願いします」
「それで、お前達、このあとどうする?」
「ケーニヒクライヒ王国王都に戻って、令嬢様達を連れてきます」
「分かった。その事も陛下に伝えておこう。俺はまだ仕事が残っているから、消える」
「分かりました。では、また後で」
「あぁ」
リターさんが離れるのを確認して、真雫に話しかける。
「真雫、リーベ達の居場所は?」
「ん……王都の私達の一室」
「じゃあ大丈夫だな。行くぞ」
「うん」
真雫の手を握り、転移する。
するとそこでは……ババ抜き大会が繰り広げられていた。
「……なんでやねん」
素でツッコんでしまった。
「あっ、ノア!」
タタタッ、と可愛らしい音を立ててリーベが近づいてくる。元凶はこの娘だな。
「リーベ様、もう少し緊張感を出してください。貴女達、さっきまで誘拐されていたんですよ?」
「なら、尚更この緊張を解さないと、と思ったんです。おかげで友達が増えました!」
友達?リーベの後ろにいる4人のご令嬢及びご息女が手を振っている。この人達か。悪い人ではなさそうだな。
「ノア様とリーベって好きあっているんですか?」
「脈絡もなく何言ってるんですか!?」
まさか、リーベと俺は友達ということを、リーベは既に話していたり……?
「もう、そんなんじゃないですよ。友達です、友達」
言っていたか……。しかし、何故リーベは嬉しそうに答えているんだ?
「そう、ノアとリーベは好きあっていない」
真雫がばっさりと入ってきた。……その言い回しだと……。
「じゃあマナ様とノア様が好きあっているんですか?」
「ふぁ!?そん…な……こと、なぃ」
おい、なんで語尾が小さくなっていく。リーベは今度はムスッとした。ご令嬢&ご息女からの猛烈な口撃。真雫は狼狽えた!
場がカオスとなってきたので、気づかれないように後ろに下がる。しかし、そこには他のご令嬢がいた。
「おモテになるんですね」
「やめてください……」
メガネをかけた、図書委員の感じを醸し出した人だ。髪の毛も肩ら辺で切りそろえていて、ちょうど着ている緑のドレスも似合っている。
「はじめまして、グースト公爵家長女、ジェニ・グースト……です」
「神喰 希空です。よろしくお願いします」
「はい、よろしくです!」
うは、この人のこの笑顔は破壊力がすごい。絶対隠れファンとかいるだろ。
「それじゃとりあえず……はぁ」
突進してきた1人のご令嬢を、軽く避ける。
「あん、もう」
変な声出さないでくれ。
「男なら受け止めてくださいよー」
「すみません、突然のことだったので避けてしまいました」
パンパン、とドレスについた汚れを払う動作をする彼女。リーベとはまた違った艶やかな金髪で、見た目はギャル女子高生だ。さっきから聞いた会話の中でも少し言動がチャラい。顔つきは反抗的だが、充分美人の部類に入る。
「はじめまして、ハスリッチ公爵家次女、メイダン・ハスリッチでーす」
「神喰 希空です」
にこやかに返す。印象は最初が肝心だ。
「では、私も自己紹介しておきましょう。フィー公国第一王女、モーガン・フィーです」
「ゲレヒティヒカイ公爵家長女、ライデン・ゲレヒティヒカイですわ」
「神喰 希空です」
モーガンさんは、いわば気品漂う人で、王女と呼ぶのに相応しい人だ。ただ、その……胸が非常に大きい。目測でどれくらいか測るほど俺も変態じゃないが、どうも目を吸い寄せられる。ここでは、思わず2度見してしまうほど大きい、とだけ言っておこう。
ライデンさんは、なんだろう、リターさんと同じバトルジャンキーの雰囲気が出ている。話したわけではないが、目の奥の闘志?みたいなものが凄い。目は口ほどに物を言うというしね。外れててほしいが。2人とも目を見張るほどの美人だ。
「おっと、早く向こうに戻りましょう。国王陛下の方々が心配なさっています」
「この1戦までお待ちください」
そう言ってまたババ抜きに戻っていく皆様方。あの、人が待ってるんですが?それも国王陛下が。
「次、リーベの番」
「はーい」
「真雫も参加してんじゃねーよ!!」
ちゃっかり真雫も参加していた。ダメだ、これは完全に彼女等のペースだ。諦めよう。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
それから数十分。彼女等は1戦とか言っておきながら、10戦していた(ちなみにリーベが全勝。リーベとモーガンさんの駆け引きがカ〇ジ並に凄かった。まる)。
「はい、行きますよ。ほら、さっさと手を繋ぐ」
この娘達の相手していると、保育士になった気分になる。
「”
国王陛下達のところに転移する。今さっき
転移した場所は、臨時で建てられた大きなテントの中だった。
「おぉ、ノアさん方」
思案顔だったオンケル国王陛下が俺らに気づき、声をかけてくる。他にもネイヒステン王国国王陛下やプリンゼシン公爵家もいる。各国の重鎮が揃っているな。耳を傾ければ、外が少し騒がしい。
「おぉ、リーベ!!」
「お父様!!」
ひしっと抱き合う2人。親子の感動の再会だな。メイダンさん達も、自分の親と再開に喜んでいる。
「あなたがたが、ノア様とマナ様ですか?」
「ん?はい、そうですが……」
「ありがとうございます、娘を助けてくださって」
「いえ、当然のことをしたまでです」
中々にベタなことを言って、受け流す。感謝されるのは嬉しいが、お礼はまた後日してほしい。
結局助けた人達の親全員に感謝された。悪い気はしない。真雫も嬉しそうに頬を染めている。
「それで、何かあったんですか?」
「……これを見てくれ」
オンケル国王陛下が謎の手紙を渡してくる。これは……?
「また、人質を取られた」
「……は?」
手紙の内容はこう。
《よくぞ、我等から娘達を救い出した。心からの賞賛を送ろう。しかし、次はどうだろうか。今、王都周辺に我らが戦力1万を配備した。今夜の0時に王都全域において襲撃予定だ。これは防げるかな?》
これは、完全ナメてんな。王都全域を人質に取ったわけか。王都周辺に街が繋がらないよう国が設計されていたのが不幸中の幸いだな。おかげでどこも襲撃されたという情報は入っていない。そして今の時刻は23時だ。猶予は1時間。
「この娘達を攫ったのも、そして救出されるのも計画のうちなんだろうな。そちらに時間を削いでいるあいだに、この計画を進めていたというところか……」
「この1万っていうのは本当ですか?」
「あぁ、斥候によればあっているらしい」
「今すぐ襲いかかってくる可能性は?」
「今すぐ襲いかかってくる可能性はないだろう。何せ臨時の大型砦を出している。高さ60mの壁を超えるのは容易ではない」
そんなものがあったのか。確かこの国に来た時はそんなもの見当たらなかったから、魔法かなにかで隠していたのだろう。
「陛下はこれに対してどう対応するのです?」
「リター達精鋭を向かわせる」
「それは何人ぐらいで?」
「……600人ぐらいだ」
「それだけですか?」
「あぁ、実は今、この国の軍の殆どが遠征に出ていて、残りの兵が少ないんだ。うちの国にも応援は要請したが、ここにつくのはおそらく遅いかもしれない」
うーん、まぁ、戦力的にいうと絶望的だな。1万って言われても、それが本当かは分からないし。しょうがない、切り札として使いたかったが、今使おう。
「陛下、貴方の斥候はこの国に何人いますか?」
「今は1人だけだよ」
じゃあ、確定でそいつだな。俺が探している斥候は。
「じゃあ、その斥候はどこにいます?」
「南区画にいる」
「呼んでくれますか?」
「なぜ?」
「聞きたいことがあるんです」
あくまで内容は伝えない。勘づかれるかもしれないからな。
「……分かった。今すぐ呼ぼう」
そう言いながら、貝殻みたいな何かを出す陛下。何かの魔法道具だろうか。
数分後、斥候らしき人が来た。斥候っていうもんだから、細身の男性かと思ったが、筋骨隆々としたおっさんだった。
俺は彼に気づかれないように
「”
神速と言える速度でヤツを拘束する。
「くっ、何をする!?」
「黙ってください、裏切り者」
「裏切り者?」
「はい、リーベ様達の居場所を割り出したのは彼ですよね」
「ああそうだけど、まさかそれだけで……」
「いや、違います。それだけではありません」
もうひとつは、彼の情報であるリーベ達に保護する魔法をかけてあるという情報だ。もし、それが本当なら、そもそも最初に誘拐されないはずだし、王女も鞭によって怪我を負わないはずだ。
「まぁ、まだ色々ありますが、面倒くさいので省きます」
俺はヤツに、絶対零度の視線を向ける。
「さて、洗いざらい吐いてもらいたいところですけど、もう時間がありませんね」
残り時間は30分。詳しい話はこの後にしよう。
「敵は何人ですか?」
「…………」
「…………」
見つめてみたが反応なし。これでは敵の人数1万が嘘か本当か分からない。周りはまだこの斥候が裏切り者だということに疑問を持っているが、俺の中では裏切り者と確定している。このまま時間があれば、色々聞き出せたろうに。正体をばらす場所を間違えた。
「1番防御が薄い場所はどこですか?」
「北側が1番薄い。だから、そこに精鋭部隊を少し多めに──」
「陛下、精鋭部隊は南、東、西側をお願いするよう言ってください」
「──まさか、北側は──」
「俺がやります」
周りが一気にどよっ、とする。
「君一人でか?」
この場を代表して、陛下が問いかけてくる。その質問に対し、俺は真雫を向いた。視線で真雫に問う。お前も来るか?と。
「……だめ、いかないで。ノア」
「これは俺が出なきゃ負ける。お前もわかっているだろう?」
「──ッ!それは……」
相手の戦力は1万。対するこちらの戦力は1000にすら満たない。いくら王国最強が揃っていようと、勝つのは相当厳しい。
「それにこれは練習でもある」
「練習?」
「あぁ、人を殺す練習だ」
「──!?」
「邪神を倒す時に邪魔するものが現れて、それを殺すことが出来ず、挙句本来の目的も達成出来なければ目も当てられない」
「……そんなの、間違っ」
「大丈夫、快楽殺人鬼になんてならないさ。これでも生き物自体、この手であまり殺したくないんだ」
「……なら、私も行く」
「……悪い、ごめんな」
「……ううん、私こそ」
これでも心を鬼にしている。俺は人殺しを好まない。
「というわけでお願いします」
「だが、2人だけなど……!」
「リターさん達だとかえって足でまといです」
この場に居合わせている人達には悪いか、俺が共鳴状態になると、彼等は正直邪魔になる。
「ほう、言うじゃないか。今ここで試してみるか?」
「いいですよ」
「おい、そんな時間は……」
「大丈夫です」
止めようとするオンケル国王陛下を手で静止する。ついでに俺は今日、リーベを助ける作戦を決行した時から魔眼共鳴を解いていない。今も継続中だ。
「──ハッ」
恐らく全速力であろう速度で俺に襲いかかるリターさん。合図は無しだ。これの手には真剣が握られている。
「──遅いですよ」
彼の全速力を上回る速度で背後をとり、
「……はぁ、負けだ」
「あのリター・ハイリグンが、手も足も出ないだと!?」
彼が有名でよかった。このように力を見せつけやすくなる。
今ので陛下2人は納得し、俺と真雫は北側、リターさん達精鋭部隊は南、東、西側を担当することになった。あちらは殲滅を終えるとこちらに援護に来る。逆もまた然りで、俺達も先に殲滅終了したら向こうを援護しに行く。また、援軍が着き次第、雑兵や一兵卒も戦闘に加わる。この規模だと、もう最早戦争だな。
砦の中を登っていく。所々に松明があって、秘密通路みたいだ。屋上に出ると、眩しいくらいの月明かりが、俺と真雫を照らす。綺麗の一言に尽きる。これだけ明るければ、ある程度は見えるだろう。
「……まあ、何となく分かってはいたが、やっぱり嘘だったか」
【感覚強化】が教えてくれる敵の人数、北側だけで1万人。相当な数だ。この数を相手にするのはリターさん達では骨が折れるだろう。
うじゃうじゃいると思っていたが、1万人全て身を隠しており、俺からは視認できない。魔法で隠れている可能性も考慮しよう。
「……ノア」
「あぁ、真雫は
「分かった。ノアも無理しないで」
「あぁ」
深呼吸をひとつ。これから俺のすることは人の道から外れる。しょうがないと言えばしょうがないかもしれない。今でも他にやりようはなかったのか、と後悔している。でも、ここまで来てしまった。過去には戻れない。未来に進もう。
さぁ、蹂躙の開始だ。
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