19.ゴット・ストゥール(2)
「グワァァ!!」
八岐大蛇の赤い首が叫ぶ。赤い魔法陣が現れ、同時に炎が吹き出た。魔法か……!
「
走ったまま盾を召喚し、さらにそれを炎に向けて翳す。盾に吸い込まれるように炎は消えていった。
「キュァ」
別の首、紫色の首が、先程とは違う様に叫んだ。同じように紫の魔法陣が現れ、今度は紫色の玉が飛んでくる。液体状だったので、盾では防ぎきれない可能性を考慮し、避ける選択をする。
被弾した場所が、シュゥゥゥゥウ、という音をたてて溶けた。小さなクレーターとなっている。まさか、溶解液か……!?強すぎだろ!?
八岐大蛇は、ひとつの首が俺を攻撃し、それを俺が防いだ瞬間に、ほかの首が攻撃を仕掛けてくる、という絶妙なコンビネーションを見せてくれた。ちなみに、今わかっている首の攻撃は、赤は炎、オレンジは土(?)、黄色は光、水色は水、紫は溶解液、と言ったところだ。残りの緑と青はまだ何もしてこない。
「──”
が、意外と脆く、
紫の首へ直撃。首は肉片と化し、爆散した。
しかし、ここでまた咆哮。今度は緑の首だ。緑の魔法陣が八岐大蛇の足元に現れ、輝きを放つ。瞬く間に首が再生した。再生魔法もあるのかよ……!?
これは、マンガとかでよくある、再生より早く叩くゴリ押しで相手を殺すか、再生する間を与えず殺すか、のやつか。でも、ゴリ押しは面倒なので、後者の一発KOでいこう。
壁に埋まった
それを実行した瞬間、足元に違和感が。八つの首が飛んでいく中、見れば、目があった。大きな目。瞳が白く、結膜が黒い目。その目が俺を捉えている。
俺はその目にたじろいでしまった。その瞬間、視界に映るすべてが消え去り、暗闇に包まれた。……!?何が起きた!?
流石に状況が読めず、混乱してしまう。
待て、冷静になれ、俺。混乱しても得はない。数回深呼吸をする。
体にダメージはない。十中八九、八岐大蛇についていたあの目の仕業だろう。転移魔法か、精神魔法か。
転移魔法なら、魔法は使えるはず。そう思い、
突然、一条の光が降り注ぐ。腕で影を作り、光から目を守る。
光が弱まり、周りを見渡せるぐらいになった。俺は、教会の前に立っていた。ゴット・ストゥールのアジトのひとつの教会だ。まさか、転移か……?いや、おかしい。日が昇っている。作戦実行時は夜だったはず。日などあるわけがない。
とりあえず、道行く人に声をかける。
「あの、すいません」
「この前さ、あいつらが──」
「あのー?すいませーん」
ダメだ。俺の方を向いてすらいない。他の人にも声をかけたが、同じような感じだ。まるで、俺は存在しないかのような感じ。
地面や壁には触れられるが、人や椅子などには触れられない。これは精神魔法をかけられたと見ていいのだろうか。でも、これは俺の記憶じゃないんだよなぁ。確実に他人の記憶だ。
ふと見れば、フードを深くかぶった怪しい3人が、教会の中へ入っていった。俺もフードの人達が気になったので、教会の中に入った。
フードの人達は、まだ入口にいた。そのうちの1人が、壁に手を向けている。
「──”開けゴマ”」
ヲイ。隠し扉を開ける時のコマンドワードによく使われるあの言葉じゃないか。まさか、異世界でそれを実際に聞くとは思わなかった。
ゴゴゴッ、という音をたてて、壁に扉ができた。その扉を開けて、3人が入っていく。俺もそれに続いた。
中には『玉座の間』という響きが合いそうな部屋が広がっていた。中央には、3人に背を向ける形で玉座がある。
「ただいま参上つかまつりました、熾天使序列一位様」
熾天使?セラフィムとかのあの天使の中で最も階級の高い熾天使?悪魔がいれば天使がいてもおかしくないとは思うけども……。
「うむ、ご苦労」
玉座から声が聞こえた。無機質な男の声だ。
「御方に捧げし結社の勢力は?」
「はい、総勢5万人の勢力を備えております」
「素晴らしい。それで、名は?」
「命名権は、結社を作り上げし貴方様の手にあります」
「ふむ、ならば──」
男は少し考える素振りを見せる。数秒後、彼はおもむろに口を開き、
「そうだな、神の椅子──
「素晴らしき名前。感服しました」
「世辞はいい。私は御方のためにしばし──誰だ?」
男の鋭い眼光が、俺を射抜く。え、俺のこと見えてんの!?
「お前ら、連れてこい」
「はっ」
刹那、3人の中の1人がは走り出して、俺のいる方向に向かってくる。まずい、遅れた。ヤツが手を伸ばす。その手は俺を──すり抜けた。え?
「ひっ」
「お前、なぜここにいる?」
1人が俺の
「こちらへ持ってこい」
「はっ」
1人が男の襟を掴み、引きずって玉座に未だ座る男の前に引きずっていく。
「すみません、失態でした。まさか、つけられていたなんて」
「よい。ここで殺せば許そう」
「ありがとうございます」
1人が短剣を取り出し、男の首を掻っ切ろうとした瞬間──
「いや、待て。実験に使おう」
「実験、ですか?」
「内容はおいおい説明する。その男は後に独房へ入れておけ」
そして玉座の男はやおら立ち上がり、3人の方を向く。その顔は、3人と同じようにフードで覆われていて、よく見えない。
「私は御方のためにしばしここにいる。お前らは隠密且つ迅速に立ち去れ。邪神様に栄光あれ!」
『はっ、栄光あれ!』
プツンと。そこで視界はまた闇に覆われた。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「──ア。──オア。──ノア!」
「んあ?」
目が覚めた。ここは、教会か。
「真雫?……痛っ」
俺は壁に埋まっていた。どうやら吹き飛ばされたようで、その時に腕をにダメージを負ったようだ。打撲だろうな、これは。目の前には、首が再生している八岐大蛇がいる。周りには、まだ生きている人やリターさんが、
「真雫、
「やだ」
速攻で拒否られた。俺的に意外な行動だったために、一瞬かたまってしまう。
「……何故?」
「いやだから」
「真剣に答えてくれ」
「私はいつも真剣」
真っ直ぐな黒と赤のオッドアイが俺を射抜く。
「なら、なんで嫌なんだ?」
「……もう、ノアが傷つくのは見たくない」
真雫は俺から目を逸らし、伏せた。でも、俺は見逃さなかった。見逃せなかった。真雫が伏せる瞬間、真雫の目尻には、雫が溜まっていたのを。
「真雫」
「……?」
俺はひと呼吸おいて、
「ごめんな──”
「──!」
こんな手は正直使いたくなかったが、止むを得まい。八岐大蛇の首を取るための
「よし、決着をつけるぞ、八岐大蛇」
『グアアァァァァァア!』
全速力でダッシュする。一瞬で懐に潜り込んだところで、跳躍する。八岐大蛇を通過する間際に
そのまま天井に着地し、そして天井を蹴る。今度は紫の首を斬った。そして地面に着地し、蹴って首を切り落とし、着地して蹴り、斬る。その調子で、首をすべて切り落とすことに成功した。
しかし、状況は一変した。中央の目がカッと開いたと思うと、ヤツの足元に緑の魔法陣が現れ、首がすべて再生したのだ。やはり、さっきもすべての首を潰したのに再生していたのは目の仕業だったみたいだ。
ダメだな、もっと手っ取り早く殺そう。
「”
刃が波打ったような奇形の剣を召喚する。
実際に存在するフランベルジェに、炎の噴出能力を加えた剣だ。摂氏3000度までの熱と炎を放射できる。魔力を込めれば自由自在に炎を出せる仕組みだ。
「はああぁぁぁぁ!!」
摂氏1000度程度の炎を八岐大蛇へ放射する。持ち主のいる方向には飛び火どころか熱すら感じさせないため、真雫たちは影響を受けていない。
一瞬で黒く染まった八岐大蛇。まだ再生は出来そうだ。追い打ちをかけよう。
「”
手に持つ部分が小さく、殴るところが一軒家ぐらいの大きさを持つ棍棒を召喚する。教会の屋根が天井とともに破壊される。やばっ、召喚する場所を間違えた。
壊してしまった屋根はもうしょうがないので、戦い続行だ。
「真雫、終わったぞ」
「……?──ッ」
腹部に痛みが走る。蹲るほどではないが、それなりに痛い。
「……バカ」
右で左で。俺の腹部は真雫に、両手で交互に殴られる。
「……バカ、バカ、バカ」
威力は次第に弱まっていき、最終的にはポスッポスッ、というほどに弱くなっていた。
「……ノア、お願い」
「……何?」
「……お願いだから、もう、傷つかないで」
真雫は目に涙を溜めながら、真っ直ぐな瞳で俺を見た。冗談で言っているようには見えない。
「……ごめんな、真雫」
「……お願い、お願いだから、」
「邪神はきっと今の八岐大蛇よりも強い。ひどい怪我も負うだろう。でも、もう無理なんだよ、傷つかないのは」
本心を、優しい声音で真雫に話す。
「確かに、戦わなければ傷つかないかもしれない。でも、後戻りはもう出来ないんだ。オンケル国王陛下と約束してしまったからね」
真雫は最初は俺を見つめていたが、徐々に俯いていった。俯いたまま、真雫はおもむろに口を開く。
「……それは、私がつけた約束。ノアは関係な──うにゃっ」
額にデコピンを食らわす。俺のデコピンは尋常じゃなく痛いと自負している。
「関係大ありだ。それに俺だって救いたいんだよ、この世界を。義理とかじゃないけど、このまま世界が滅びたら寝覚めが悪くなるから、そうしないためにっていうただのエゴなんだよ。後は──」
これを言うのは照れくさいが、今言わずにいつ言う?と自分に鞭打ち、話す。
「──真雫、お前のためだ。幼馴染に
……これって、真雫にとっては友をとるか、世界をとるかの究極の二択みたいなあれじゃないんだろうか。
「それでも嫌なら、真雫、俺を守ってよ」
「……守る?」
「そう、守る。人を守るための
「……ノアは私より強い。だから、守る意味がなくなる」
うーん、それを言われると否定出来ない。そもそものスペックみたいなやつが違うからな。
「なら、一緒に強くなろう。そうすれば、きっと俺ぐらいに強くなるさ」
「…………」
……しょうがない、今日だけ出血大サービスだ。
「光なるもの、
「その名前は……」
左目を右手で隠し、中二病の時に練習しまくったキレッキレの中二病ポーズを決める。誰も見てないよな、よな?
「我、
「相守の……契約?」
「そうだ。俺はお前を守り、お前は俺を守る。さすれば、我等は互いに守られる。互いを守れる。そして互いに強くなれば、我等は傷つくこともない……」
言っていることは今さっき思いついたものだが……やっぱり今では恥ずいなぁ、この中二病的言い回し。
「だから、ね。一緒に邪神を倒して、生きて、そして勝って、地球に戻ろう」
「……後悔してる。邪神を倒すことを約束してしまったこと」
「後悔のない人なんて、人間じゃないさ」
「……うん」
「じゃあ、2個目の約束──いや、契約だ。真雫は俺のストッパー、人としてのお手本、そして俺の守護者。俺はお前の守護者。名は……うん、つけなくても──」
「ダメ、つける」
まぁ、そう言うとは思ったよ。
「『相思相愛契約』」
「その『相思相愛』って言葉はどこから出てきた!?」
俺もネーミングセンスはないのだが、流石にそれはどうだろう。
「じゃあ、『フレイヤ契約』」
「愛から離れてくれ!」
またうーむ、と唸る真雫。うん、このやりとりで、暗い気持ちも多少は晴れたようだ。
「しょうがない、『魔眼契約』」
「色々ツッコみたいが、まぁそれでいいや」
こうして、『魔眼契約』がここに誕生した。
✟ ✟ ✟ ✟ ✟
「さて、とりあえずこの人たちどうしよう?」
寝こけている人が40数人。お亡くなりになった人が数人。色々大ダメージを食らっているだろうから起こせないし、死んだ人は真雫には触らせたくないし、どうやって運ぼうか。
「八岐大蛇の出現経緯とかが聞きたいけど、無理だな。応援呼ぼう」
「応援?……はっ、まさか
「……その二つ名で俺の黒歴史を抉らないでくれ」
うーん、失敗したのか、成功したのか……。真雫の笑顔が戻ったからどっちでもいいか。笑顔が戻ったって言っても、周りに転がる死体の所為で、少し顔が青いが。
「殲滅隊βの人達だ」
「なるほど、でもどうやって?」
「それは転移して……って、あ」
あちら側に知り合いは誰ひとりとしていない。だから向こうには転移できない。しかも、
「走っていくか」
「ノアは大丈夫?」
「……正直少しばかりキツい」
連戦だったからな。体力的には大丈夫だろうけど、少し精神的にね。【精神強化】は何故かこういう精神的なやつは防いでくれないらしい。
「1回国王陛下のところに戻るか」
「ここの人達は?」
「真雫、
「んー、多分、数十kmは大丈夫」
「じゃあ、ここから国王陛下達までの距離は?」
「……ここから北に約10km」
真雫が【場所特定】を使って国王陛下達の居場所を確認してくれた。確かさっきまでは北西に7kmぐらいだったはず。移動しているな。何か非常事態があったのだろう。
「じゃあ殲滅隊βの人達との距離は?」
「……東に約15km」
遠っ。5kmも差があるのかよ。いや、言うほど遠くない、か?この体になってからそういう感覚狂ってきたな。
「じゃあ、国王陛下達のところに行こう。
「何で持たせてないの?」
いやぁ、何となく嫌な予感がしたからだよ。勘もたまには頼りにした方がいいからね。
それに、まだあの人には謎が多い。
今回みたいに、自身の護衛を出撃させて、自身に
「よし、捕まってろよ」
「……(コクッ)」
いつぞやの時みたいに、真雫をお姫様抱っこして、
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