第3話 死んじゃうよ?!

これは、姉と父のお話。


姉は学生の頃から恋愛をよくする人だったように思う。それは社会人になってからも変わらずだった。


うちの家系はお菓子造りなどとは無縁の家で、子供の頃からクッキーとかも家で作ったことがなかった。なのでオーブンレンジの使い方すら知らないまま育ってきた。レンジと言えば、「冷えたものをチンッして温める物」としてしか認識していなかった。


だが、恋人が出来ると手作りのお菓子などを作ってあげたくなるもの。特にバレンタインなどには。


姉にもその思いが有ったのか、恋人に手作りが欲しいと言われたのかは分からないが、バレンタインを目前に控えたある休日、姉がお菓子を作り始めた。


携帯などでレシピを検索して、何かお菓子を作ろうとしていたようだ。


材料を混ぜ合わせ、試行錯誤しながらオーブンレンジの中に入れ、焼き時間をセットしてスタートボタンを押す。

焼き上がるまでは2階の自室で何か別の事をしようと思ったようで、スタートボタンを押したあとは自室へと戻っていった。


1階のリビングにはTVを見ていた父だけが残されていた。


◇◆◇◆


それからどのくらいたったのだろうか。

父が2階にいる姉に向かって、


「おぉ~い。レンジの、このままでいいのかぁ?」


と呼び掛けてきた。姉は、


「時間になったら止まるから大丈夫!」


と2階の自室から答えたため、父は姉の言葉を信じて、そのまま放置することにした。だが放置したのも束の間、またすぐに


「お~い、本当に、このままでいいのかぁ?」


と聞いてきた。

あまりに何度も父が呼び掛けてきたので「大丈夫だって…」と呆れながら1階まで降りてきた姉は、1階のリビングに入るなり絶句した。


…目の前が真っ黒…


立ち眩みが起きたとか、そういうのではない。

真っ黒な黒煙が充満していたのだ。

それも部屋中に…

黒煙の出所はオーブンレンジ。

ちょっとしたボヤ騒ぎである。


そしてその黒煙が充満する部屋の中では父が呑気にTVを見ていた…



…って、いやいや!!

呑気にTV見てる場合じゃないよ!?部屋中見て!!黒煙だよ!?ボヤ騒ぎが起きてるんだよ!?窓を開けて換気しないと死ぬよ!?



そう思わずにはいられない状態の部屋だったが、黒煙を吐き出すオーブンレンジは依然と動き続けている。そしてそれを止めようともしない父。


絶句していた姉は我にかえると急いで部屋中の窓を開けて換気をし、動き続けていたオーブンレンジを止めた。


部屋が換気出来るまでの間、別の部屋や外に出て避難をしていたが、黒煙が消えてきた頃に二人とも部屋に戻ってきた。


戻ってきた姉がレンジの扉を開けて中を確認すると、案の定というか予想通り、中のものは真っ黒……炭と成り果てていた。


姉と父、二人でその炭と化した物を取り囲み眺め、お互いに一言。



「……要る?」

「要らん!」


         終      

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