第三十四話 移動


 皆が合流した。

 ミルとミアも訓練施設から会議室に移動してきた。レオはしっかりとミアの側に居る。護衛として、役割を守っているのだろう。


 ミルが右側に陣取って、ミアが左側にレオと一緒に居る。


 話は、ハーコムレイが主導する形で進んだ。

 この場には、最初だけカルーネとフレット・コンラートとアルマールが姿を見せたが、ハーコムレイが神殿に向かわないものは退出してくれというと、何か言ってから、会議室から出て行こうと立ち上がった。

 ハーコムレイが、彼女たちに追い打ちを掛ける。この建物は好きに使っていいが、辺境伯家からの支援はあてにしないようにと釘を刺していた。フレットが反論するように、教会からの支援を持ってくると宣言する。丁々発止とやり合うのなら、個別にやって欲しい。皆が居る前で、”やる”ことではないだろう。これでは、フレットたちが、ギルドとは別だと印象付けて・・・・。ハーコムレイの狙いは・・・。でも、辺境伯と考えれば、メリットがないのでは?

 もしかして・・・。いや、情報が少ない想像には意味がない。事情が解ってくれば、自ずと対処を考えなければならない。


 教会が、王家から離れようとしている場合だけを考えておけばいい。


 最後に、奴隷たちを引き連れたオイゲンが部屋に入ってきた。

 オイゲンと入れ違いになるように、会議室から出て行った。カルーネとアルマールが俺を睨んでから出て行ったが、俺はお願いしただけで、判断をしたのはギルド側だ。なぜ、俺が悪く思われているのか解らない。

 気にしてもしょうがないことだけど、理不尽に思えてしまう。


 移動するメンバーが揃った。

 あとは、タシアナの妹や弟たち。あと、兄や姉にも連絡をしているようだ。


「リン君。大丈夫?」


 タシアナが、縋るような目線を向けて来る。

 神殿に移住してきてくれる人が増えるのは、俺としても歓迎したい。それに、タシアナが誘ったのなら、まず問題はないだろう。


「ギルドが必要な人間なら大丈夫」


 ギルドは、ギルドの業務と神殿の管理を行う。

 そのためにも、人は必要だろう。ギルドの中の人間として迎えるというよりも、ギルド員として登録させる予定のようだ。元々、問題だと考えていないが、ギルドの支配下なら俺が口をだす問題でもない。


「ありがとう。あと、リン君の眷属は、何体くらいいるの?」


 眷属の数?

 ロルフに聞けばわかるかもしれないけど、ここで答えられるのか?


 ミルなら、マヤと繋がっているから解るのか?


「うーん。ミル。解る?」


 ミルに話を振るが、やはり知らないようだ。

 もちろん、レオも知らないようだ。


「眷属の数は、解らない。そもそも、相性が悪ければダメだからな」


 実際には、俺が命令すれば、従ってくれるとは思う。

 しかし、眷属になるにも、守るにしても、相性は必要になる。命令をして、従わせるのは短期間にしたい。一生とは言わないが、長い期間が想定される契約になるために、しっかりと相性は確認しておきたい。


「解っている!でも、母数が多ければ、相性がいい子に巡り合える可能性も上がるわよね!」


 タシアナの意見も解る。

 それほどの眷属がいるとは思えないけど・・・。


「わかった。わかった。その前に、移動の打ち合わせをしよう。ハーコムレイ殿?」


「あぁリン=フリークス。既に、当家の者が、屋敷に向かって居る。簡単な掃除を行う手はずになっている」


 掃除?

 受け渡す屋敷のか?


 俺の後ろに控えるように、セバスチャンがいる。


「え?それなら、セブも一緒に行った方が?」


「いえ、私は、旦那様とご一緒に移動いたします。ミヤナック家の皆さまとは、既に屋敷で働いてもらう者たちの一部が一緒に移動しております」


 セバスチャンは、俺と一緒に移動すると宣言した。

 既に、屋敷には人を派遣しているようだ。


「わかった。それで、ハーコムレイ殿。移動はどうする?」


「リン君!移動は、私の・・・。じゃないけど、家に任せて!」


 横から、サリーカが”家”という表現をした。

 そうか、商隊を持っているのだったな。


「サリーカ。セトラス商隊か?」


「うん。まだ、隊長には話をしていないけど、商隊も神殿に招いていいよね?」


 商隊が?


「商隊が?店舗を経営してくれるのなら、嬉しいけど、神殿を使うのは、認めるよ。どうする?店舗を持つのか?」


「うーん。隊長たちと相談していい?常設店を持つのは、家の商隊の目標だけど・・・。その・・・」


 神殿がどこまで飛躍するのか解らないか。

 そんな所か?


「いいぞ」


「え?」


「だから、”いいぞ”。サリーカが、商隊を説得して、神殿に連れて来るというのなら、問題はない。その上で、商隊が店を持ちたいというのなら、サポートをしよう」


 宿屋は、オイゲンにやらせるとして・・・。

 そうなると、まとめ役が欲しい。神殿に入ってから、ギルドに任せればいいのか?


「ハーコムレイ殿」


「なんだ。リン=フリークス」


「神殿の持ち主の変更はできないが、対外的な所有者?管理者は、ギルドにできるのか?」


「そうだな。ルナが、神殿の代表は・・・。辞めておいた方がいいな。確かに、ギルドが代表におさまるのがいいだろう」


 ハーコムレイが、皆を見回してから答えた。

 これで、神殿の対外的な窓口は、ギルドが務める。実際には、ナッセが代表になっているが、ギルドの窓口としてイリメリやタシアナやフェムが交渉に出ることができる。


「詳細は、神殿に戻ってからでいいよな?」


 皆が俺を見てから、頷いている。


「サリーカ。移動を頼めるか?」


「うん。商隊は、荷物をまとめて、王都の外で待機しているよ」


「ありがとう。ハーコムレイ殿はどうする?」


「リン=フリークス!当然、一緒に移動する」


 なにが当然なのか解らないけど、偽装の意味がないのでは?

 でも、殿下として、商隊に紛れ込ませるのは大丈夫なのか?

 大丈夫だから、ハーコムレイが何も言い出さなかったのだよな?


「わかった。それじゃ、出発できる者から、商隊に合流するか?」


 皆が頷いて、動き出す。


 最初に動いたのは、サリーカだ。商隊に連絡をするのだろう。そもそも、王都の外で待機させている辺り、俺が断るとは考えていなかったのだろう。


 俺も、ミルとミアを連れて、サリーカに着いて行く、他の者は、それぞれに移動を開始した。打ち合わせが終わっているのだろう。

 そうか・・・。それで、俺が商隊を神殿に連れて行くのに、承諾した時に”ほっと”した表情を浮かべたのだな。


 王都の出口は、あっさりと通過できた。さすが、ミヤナック家だ。


「リン?」


 服の袖を引っ張られた。

 ミトナルだ。声を聞けば解る。


「ん?」


「僕、ミアと先に、神殿に戻る」


 先に?

 そうか、ミアたち猫人族への説明も必要だな。


「頼めるか?」


「うん!」


「それから、バックヤードが欲しい」


「バックヤード?」


「裏側・・・。うーん。説明が難しい。神殿の通路にある場所は、基本はギルドに任せる。でも、猫人族や眷属たちが住む場所は別にした方がいい」


「うん。わかった」


「完全に分離は無理だと思うから、通路に、俺の家を作って、その裏口を裏側に繋がるようにすればいいだろう。裏口は、認めた者だけが開けられるようにすれば、問題はないだろう?」


「うん。リン。リンの家は、僕が考えていい?」


「え?うん。任せる。でも、ギルドの本部とは離しておいてほしい」


「わかった。不自然にならないような位置を考える」


「任せる。それから、マヤにも説明して欲しい。あと・・・」


「うん。ブロッホを向かわせればいい?」


「そうだな。飛べる者の方がいいだろう。ブロッホにロルフを連れてきてもらってくれ」


「わかった。リンが、近づいたら向かわせる」


「頼む」


 ミルは、ギルドのメンバーに一言だけ伝えて、ミアを連れて走り出した。

 王都を出るまで我慢していたようだ。


 走り去るレオを羨ましそうに目で追っているタシアナがいたが無視して、商隊に合流した。


 二日、ここで待機してから、メルナに向けて出発する。

 待機するのは、雨を避けるためだと説明された。移動は、商隊に任せる。商隊の護衛もいる。野営も問題にならない。殿下も、合流する時間が稼ぎ出せる。殿下の偽装の為にも、待機は必要な状況だ。

 ハーコムレイに説明を求めたら、簡単に教えてくれた。

 殿下を乗せた馬車が、王都から出て、王都の外で野営している商隊で物資を補充する。その時に、殿下はこっそりと馬車を降りて、商隊に紛れ込む。商隊からは、先に着ていた影武者が殿下の代わりに馬車に乗り込んで、ミヤナック領まで移動する。王宮から出る時にも工夫をしているので、2重の偽装が施されているらしい。


 二日後。

 殿下が合流した。しかし、殿下から伝えられた情報で、ハーコムレイは王都に残ることになった。


 俺たちは、殿下を伴って、神殿に向けて出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る