第十一話 全裸で復活?


「リン!ミルになんてことをするの!僕は、リンと居られるのなら、姿なんてどうでも良かった!リン!聞いているの?」


 小さな小さな羽が生えている。不思議な形をした生き物だが・・・。マヤだ。マヤが、俺に話しかけている。


「マヤ」


「リン!僕のことは、いいの!なんで!ミルを犠牲にしたの!僕、本当に怒っているのだよ!」


 マヤが、名前を呼んでいる。

 手を伸ばす。


「・・・。マヤ。マヤ。マヤ。マヤ。マヤ。・・・」


「え?リン?何?」


 マヤを両手で包むようにして、抱き寄せる。

 温かい。小さな小さな妖精になってしまっているが、マヤの温かさだ。家族が帰ってきた。理不尽に奪われた命が・・・。


 涙が止まらない。


「え?え?リン?大丈夫。痛いの?」


「違う。マヤ。ありがとう」


「え?あっ。うん。僕も、いろいろ、学習した」


「え?学習?」


 妖精の姿になっているマヤが、俺の手の上に座って、説明してくれた。

 どうやら、マヤは神殿から知識を吸収したようだ。神殿の増改築は、マヤにまかせても大丈夫なようだ。


 そうして、ミルと話をして、日本に居た時の話をしていたようだ。


「そうだ!マヤ。ミルは?」


「大丈夫だよ。もうすぐ、起きると思う。でも、リン。そんなに、心配をするのなら、ミルを犠牲になんてしないで!」


「そうだな。儀式を初めて思い知った。ミルも大事だって・・・」


「だって。ミル!」


「え?」


 背中から抱きしめられる。

 回された腕は、女性特有の柔らかさがある。それだけではなく、すごくいい匂いがする。


「リン。僕・・・」


「ミル?」


 ミルも生き返った。

 後ろから抱きつかれて、背中に膨らみを感じる。


「うん。ただいま」


「・・・。うん。おかえり」


「ごめん。リン」


「どうして、ミルが謝るの?俺が、悪いのに・・・」


「違う。僕は、リンのためなら死んでもいいと思った。でも、マヤに説得された」


「ん?」


 説得?

 説得だけで、これだけの時間が必要だったのか?


「リン。僕・・・」


「ミル。これからも、よろしく。ミルの力が必要だ。それに、マヤの力も!」


「うん」「うん!」


 マヤは、俺の肩に乗りながら、ミルは後ろから抱きつきながら、返事をしてくれる。


 首に回されたミルの手を握る。肩に座っているマヤに手をのばす。望んだ形がわからなくなってしまっているが、二人が俺の近くに居てくれるのが嬉しい。ミルから伝わる温かさが、マヤから伝わる不思議な感覚が、俺が間違えていたのだと考えさせる。


「ミル。マヤ。二人の中では、どの位の時間が経過している?」


「え?」「時間?」


「俺とマヤが、マガラ渓谷に落とされて、ミルに頼んで儀式を始めてから・・・」「93日と21時間32分です」


 ロルフが正確な時間を提示するが、そこまで正確な時間は必要としていない。


「あぁ約3ヶ月が経過している」


「?」「うそ!僕がミルを見つけて、事情を聞いてから・・・10分くらいだよ?そうだよね?ミル?」


「リン。僕の感覚も、マヤと同じで、長くても30分くらいだと思う。でも・・・」


「でも?」


 ミルがなにかを思い出したようだ。でも、まだ後ろから抱きついた状態で、耳元で話をしている。後ろを振り向けない状況だ。


「リン。僕、ロルフと話をしてくる、ミルをお願い」


「あぁわかった?話なら、ここですればいいのに?」


「いいの!リン!わかった!動かないでね!」


「わかった。わかった。ロルフは、儀式で疲れていると思う。わからなければ、ブロッホ。黒竜を探してくれ」


「わかった!ミル。リンをお願い!」


「うん。逃さない」


 ミルは、マヤの言葉を受けて、後ろから抱きつく力を強くする。背中に当たる部分が余計にはっきりと解ってしまう。


 ミルの柔らかさを感じていると、空間がなにか遮断された感覚になる。いきなり、違う場所に来たような感覚だ。


『あぁあぁ聞こえる?』


「!!」「!?」


『神埼凛と鵜木和葉に話しかけている』


「アドラか!?」


『正解!凛君が、時間を気にしていたから、それだけ教えてあげる』


「!!」


『和葉ちゃんと、彼女が話していた場所は、白い部屋と同じような場所だよ。だから、時間の経過が違って感じた』


「・・・。そうか、それで納得した」


『うん!それから、その白い部屋は、僕の部屋と違って、肉体だけの状態になってしまうから注意が必要だよね』


「え?」


『バイバイ。君たちは本当に面白いね。またね!』


 遮断されていた感覚が戻る。

 アドラが戻したのだろう。


 それにしても、肉体だけの状態に鳴っていると言うのは、どういうことだろう?


「ミル?」


 ミルが、抱きつく腕にさらに力を入れる。

 首には巻き付かれていないので、息が詰まることはないが、少しだけ痛い。


「ミル?どうしたの?」


「な、なんでもない」


「ミル。ミトナルさん。少しだけ痛いのですが?それに、背中に当たっているのですが?」


「え?あっ当てている。リンなら大丈夫!」


「そういう問題?」


「そういう問題!」


 ミルが、抱きしめている力を少しだけ弱めてくれた。


「リン!おまたせ!ロルフと・・・。あ!駄目!」


 マヤがロルフを連れて帰ってきた。

 入り口の方向は、背中の方向だ。


 ミルが腕の力を弱めてくれたから、振り返ることが出来た。


「え?」


「あっ」


 ミルと目が合う。

 そして、ミルが背中から抱きついていた理由が解った。そして柔らかい物がすごく柔らかかった理由や、背中にピッタリとくっついていた理由が理解できた。理解できて、すぐに振り向いた身体を元に戻した。


「ごめん」


「ううん。リンならいい。リン。見て!」


「ミル!」「ミル?」


 マヤも、目隠しをするように、俺の所まで飛んできた。


「リン?ミルの裸を見たよね?」


「・・・」


「リン?」


「はい。見えました」


「素直でよろしい」


 妖精の姿で偉そうにしているマヤを見るとほっこりしてしまう。


「マヤ。僕は、リンになら見られてもいいし、見て欲しい。マヤも同じ気持ちだよね?」


「うぅぅ。そうだけど・・・。でも、やっぱり駄目!ミルも、見られてもいいとは言っていたけど、それは初めての時の話で、いつでも見ていいとは違う!それに・・・」


「うん。だから、ここでリンに抱いてもらえればいい。僕の身体も心もリンの物。だから、リンが求めてくれるのなら、僕は嬉しい」


「そうだけど!駄目!なの!まだ、いろいろ説明が終わっていない!それに、約束したよね?ミル?」


「うん。約束は覚えている。だから、マヤ。一緒になろう?」


「え?」


 ミルとマヤのやり取りは不思議な感じになっている。

 ミルはミルだし、マヤはマヤだ。変わっていない。変わっては居ないけど、なにか距離感がすごく近くなっている。


 よく見ると、マヤの衣装は、アニメに出てくるような”魔法少女”の格好だ。

 可愛い格好のマヤが、ミルの肩に乗って、何やら話し込んでいる。


「ミル?ミルさん?俺が着ていた物で悪いけど、シャツを着てくれないか?」


「ん。わかった」


 ミルが、俺が差し出した。シャツを着てくれる。身長は、俺の方が5センチほど高い。シャツも、俺が着るのにも大きく作ってあったために、ミルの全身を隠すには十分な長さがある。少しだけ”ほっ”としたのだが、シャツだけを着たミルは余計に扇情的に見えてしまう。


「リン!」


 マヤが、俺の頭の上から声を荒らげる。


「マヤ。なんだよ?」


「リン!マヤと僕の話は終わってないよ?」


「あ・・・。マヤ、話って何?」


 マヤが、俺の頭の上から、ミルの肩に移動する。


「ねぇマヤ。見てもらったほうが早くない?それに、私たちも、実際にどうなるのか、わからない」


「え・・・。あっ・・・。そうだけど・・・」


 マヤが、ミルが着ている俺のシャツを摘んでいる。


「大丈夫。あの話が本当だとしても、マヤの方が、僕よりも小さい!」


 ん?何を言っている?

 二人の会話の趣旨がわからない。


「そんなに違わない!」「違う。僕の方が大きい!」


「二人とも?そろそろ、教えてほしいのだけど?」


 マヤは、ミルの肩に乗りながら腕組みをして、俺を見つめる。

 ミルは、なにかを期待している雰囲気を出しているのだが、意味がわからない。


「ふっふん!いいよ!ミル。リンに確認してもらおう!」「わかった」

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