第十二話 マヤとミル
「ふっふん!いいよ!ミル。リンに確認してもらおう!」「わかった」
マヤがミルの肩に移動している。
二人で一緒に詠唱を始める。
ん?魔法やスキルの呪文ではないな。はぁ・・・。フュ○ジョン?誰の仕込みだ?7つの珠を集めて、ギャルの(以下、自粛)。
光が二人を覆った。眩しいほどではないが、直視していると目が痛くなりそうだ。光は、それほど長い間は光っていなかった。
「え?」
間抜けな声が出てしまったが、しょうがないだろう。
光が収まったところに立っていたのは・・・。
「マヤ!」
それも、全裸の状態に戻っている。
「ただいま!リン!」
「リン。僕も居るよ?」
マヤが、俺に抱きついてくる。抱きつかれて、確信した。柔らかさだけではなく、雰囲気も匂いも感触もマヤだ。俺の大切な家族だ。
そして、マヤの肩には、妖精の姿になっているミルが居る。先程までとは逆に、マヤが人の姿になって、ミルが妖精の姿になっている。
シャツは、マヤが居た場所に落ちている。ミルが拾い上げて、マヤに上から着せている。
「フュ○ジョンとは違うけど、マヤ!ミル!」
二人を抱きしめる。
「リン。痛いよ」
「ごめん。マヤ。説明をしてくれるのだよね?」
「うん。ミル。任せた」
マヤに聞いたのだが、ミルが答えてくれるようだ。マヤは、胸に顔を埋めてスリスリしている。
「わかった。でも、最初は僕に譲ってくれるのだよね?」
「うー。約束だし・・・。いいよ」
「ん!」
ミルが、マヤの肩に乗りながら説明してくれた話は、事象から予想できる範囲だった。
「マヤであり、ミルであるってことなのか?」
「うん。今は、僕が身体の外に出ているけど、僕も身体の中に入られる」
「ん?妖精は、意識だけなのか?」
「うーん。僕たちにもよくわかっていない。でも、僕もマヤも、一つの身体に居る。主人格で、姿が変わる。そして、妖精に意識を移動できる」
「そうなると、妖精になる必要はなくて、今はマヤだけど、ミルの意識が同居することも可能なのか?」
「うん」
「意識の入れ替えは、さっきの詠唱が必要なのか?」
「必要ないよ。雰囲気?リン。好きでしょ」
「・・・。ミトナルさん?」
「ごめん。少しだけ悪ふざけした。でも、詠唱が必要ないのは本当。詠唱すると、光が出る仕組みになっている。らしい」
「そうか、”神”の悪ふざけだな」
「うん。そう、説明された」
「なぁミル。一つの身体に、二人の意識がある時に、スキルの発動はどうなる?」
「どうだろう?マヤ。解る?」
ミルが、マヤに話題を振り分けるが、マヤは俺の腕の中で眠たそうにしている。
「ん?なに?僕、眠いよ。疲れちゃった。リン。抱っこ!一緒に寝よう」
昔から、こうなるとマヤは何を言ってもダメだ。起きてから話を聞けばいいか・・・。
「はい。はい。お姫様。ミルはどうする?」
抱きついているマヤを抱きしめて、所謂お姫様抱っこ状態にする。シャツが大きかったから良かったが、小さかったらまずかったかもしれない。
「僕も、疲れたから、リンと一緒に寝る」
「そのまま?」
「うーん。その時の気分かな」
そういうと、ミルは俺の肩に腰を降ろした。
マヤを抱っこしながら、扉の前まで来ると、自然と扉が開いた。
ロルフを先頭にして、ヒューマ/アウレイア/アイル/リデル/ヴェルデ/ビアンコ/ラトギが左側に並んで、右側には種族別に眷属が並んでいる。
「ブロッホは?」
「リン様。ブロッホは、ヴェルデの眷属と一緒に、リン様とマヤ様とミトナル様の寝所を整えに行っております」
「そうか、待っていればいいのか?」
「いえ、ご案内いたします」
ロルフではなく、ジャッロが答えてくれた。ロルフは、マヤから目線が外せないでいる。よほど嬉しいのか、顔を上げてマヤを見つめながら涙を流している。待ち望んだ”マヤ”の復活だ。感極まっているのだろう。
ジャッロが、指示を出すとアイルの眷属が数体前に出てくる。どうやら案内役のようだ。
ミルが、俺の肩から
「ヒューマがご一緒します」
護衛のつもりなのか、ヒューマが眷属の列から一歩前に出て、俺に頭を下げる。
「頼む」
「はっ!」
ヒューマは嬉しそうにした。荷物は無いが、ヒューマはどこから持ってきたのかわからないが、ミルが使っていた剣や防具を持っている。
「ミル?」
スコルの上に居るミルが振り返る。
「なぁヒューマが、防具を持っているけど、ミトナルさんが使っていた防具を身につければ、裸になることはないよな?」
「え・・・。あっ・・・。そうそう、サイズが違って」
「嘘だよな?」
「う・・・。だって・・・」
「ミトナルさん?」
「走ったし、汗臭い・・・。かも、しれない・・・。それに・・・」
「わかった。わかった。ごめん。ヒューマ。ミルの防具だけど、ビアンコに洗ってもらってくれ、あと剣だけではなく杖の用意も頼む」
「はい」
ヒューマに従っていた、リザードマンがヒューマから防具一式を受け取って、眷属たちが居る場所の戻っていく、剣は別のリザードマンが持って別の場所にむかった。
「リン!ありがとう」
「ミル。もう一つ、教えて欲しいけど、いいか?」
「うん。何?」
「入れ替わる時に、裸になるのは、わざとやったよな?」
「え?なっなんで?ちっちがうよ!」
「多分だけど、スキルかなにかで、服を着替えられるよな?」
「え?」
「そうしないと、ミルとマヤが入れ替わる時に不具合が生じるよな?」
「むぅ・・・」
「どこまでできるのかわからないけど、ある程度は可能なのだろう?」
「・・・。うん。入れ替わる時に、装備品を含めて変更できる。でも、でも、妖精の袋に入れていないとダメで・・・」
「ん?妖精の袋?」
「うん。リンに、わかりやすく言うと、アイテムボックス」
「俺が持っている。
「そう、僕とマヤで共通になっている。あっそうだ!リン。あとで・・・。マヤが起きてから、妖精の僕かミルを眷属にしてよ!」
「え?」
「そうしたら、僕たちが使える、アイテムボックスをリンが使えるようになる」
「わかった。でも、俺もいろいろあって、眠いから・・・。起きてからでいいよな?」
「うん。僕も、眠いから寝る」
ミルは、宣言してからスコルから飛びだって、俺が抱えているマヤの上に乗った。
俺にウィンクをしてから、マヤの中に吸い込まれるように入っていった。
そうか、寝るのなら、マヤの中に入ったほうがいいのか?
「旦那様」
ブロッホが扉の前で待っていた。
「ありがとう」
「はい。どうぞ、お休みください」
扉を開けると、中には大きめのベッドが一つだけ置かれていた。
マヤをベッドの中央に寝かせる。
マヤなのか、ミルなのか、わからないけど、俺の腕にしがみついてくる。
護衛でついてきたヒューマを探すが、すでに部屋の外に出ている。ブロッホは、扉を閉めようとしている。声を出そうとするが、マヤが起きてしまうかもしれない。
いいか、マヤは眠っている。ミルも中に入っているし、外に出てくるにしても妖精の姿だろう。
二人の話は、まだなにかを隠している様子はあるが、俺に害があるような感じはしない。
寝ているマヤは、俺の左腕に抱きついている。
片手で、掛け布団をかける。かけた布団の上に横になる。左腕だけは、マヤと一緒の布団に入っている。
マヤが帰ってきた。ミルが一緒に居る。
これだけで、俺は安心できる。起きたら、眷属にするという話をしてから、今後の対応を考える必要があるだろう。
眷属が調べてくれている話も聞かないとダメかもしれないし、この神殿の使い方を確認して、状況を整理しないと・・・。
敵は、アゾレムだ。これはわかっている。
そう言えば、ギルドの設立は終わっているだろう・・・。王都に顔を出しに行く必要があるかも・・・。重久や瞳たちが、どんな情報を握ったのか・・・。
だめだ、抱きつかれている腕からマヤの体温が伝わって、眠くなってくる。
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