第十話 リンの決断


 アウレイアが目覚める前に、俺が寝てしまったようだ。

 木により掛かるように寝ていた。


 起きて、立ち上がって周りを見ると、アウレイアが俺の前で頭を下げている。

 アウレイアは、体躯が3m程度まで大きくなり、種族がフェンリルに進化した。狼を率いるものだと言っている。アイルの体躯が余り変わらなかったことから、種族フェンリルは、この位の大きさなのだろう。


 ロルフが見当たらない。


「アウレイア。ロルフは?」


『ロルフ様は、アイルと一緒に、魔狼を支配下に収めるために出ています』


「支配下?」


『はい。アイルの配下を作るためです』


「ん?配下なら狼ではないのか?」


『ロルフ様が、森の奥に、魔狼の群れがあるとおっしゃいまして、アイルの配下にすれば、マスターの力になると・・・』


「そうか・・・」


 ロルフが一緒なら大丈夫だろう。あれでも、精霊型猫だ。違った、自称精霊の猫だ。

 ツッコミ役が居ないからつまらない。


『マスター』


「おっどうした?」


『我の配下を、村を囲うように配置しましたが、問題はありませんか?』


「あぁありがとう。村から誰も出すな」


『はっ逃げ出そうとする者は?』


「追い返せ、攻撃された、殺さないように攻撃しろ。ただし、殺されそうなら手加減の必要はない。殺せ」


『はっ』


 俺の命令を受けて、アウレイアは、遠吠えをした。配下に命令を出したのだろう。

 遠吠えの後で、配下の狼だろうか、遠吠えが村の周りから聞こえる。村民にとっては恐怖だろう。


 暫く、恐怖を感じてもらおう。ロルフが戻ってくるまで休んでいよう。俺たちの家を壊したことを後悔すればいい。


///真命:リン=フリークス・マノーラ

///ジョブ:動物使い

///体力:80(+40)

///魔力:80(+30)

///腕力:70(+30)

///敏捷性:50(+48)

///魅力:190(+250)


 魔法やスキルは増えなかった。

 ステータスは伸びているから、眷属にした意味は有るのだろう。


 それに、今もアウレイアは、村を包囲してくれている。


「アウレイア。村の様子は?」


『はい。マスターがお休みの間に、何人かが森に来ました』


「何しに来た?」


『わかりません。マスターの生家を見て、何かを探してから帰りました』


「結界を見に来たのかもしれないな」


『わかりませんが、何かを持ち去った様子はありません』


「そうか、アウレイアは、”動物使い”の話は聞いたことが有るのか?」


『はい。先代の魔狼王が、眷属でした』


「そうなのか?」


『はい。リザードマンと、ゴブリンと、コボルトと、魔狼が、神殿の祠を守っていました』


「え?そうなの?」


『はい。我たちの群れではありませんでしたので、詳しい話はわかりませんが、魔狼がワーウルフ種となり、祠の一つを守っていました』


「祠は、どこに有るのか知っているのか?」


『はい。しかし、祠はすでに人族に破壊されています』


「そうか・・・。どの辺りにあった?」


『海沿いの森にありました。今は、人族の村が出来ています』


「そうか・・・。渓谷は越えないのだな」


『はい。四箇所は、全て、渓谷を越えない場所にありました』


 狼の遠吠えが聞こえた。


『マスター。村から逃げ出そうとした者が居たようです』


「どうなった」


『逃げ帰ったようです』


「場所は?」


『街道に向かう場所です』


「村の出入り口だな。今、遠吠えをした場所に配下を増やせるか?」


『可能です』


「頼む」


 アウレイアは、俺から少しだけ離れてから、遠吠えをする。合図になっているのだろう。

 動物使いの権能で、動物や魔物の言葉がわかるのだが、俺に向けての言葉や、俺を意識しての言葉でなければ、意味がわからないようだ。


『マスター。ロルフ様とアイルが帰ってきました』


「わかった。待っていればいいのか?」


『はい』


 5分くらいして、ロルフを上に乗せたアイルが走り寄ってきた。


『マスター。帰還いたしました。先代の配下だった、魔狼の群れを支配してきました』


 尻尾がすごい勢いで揺れている。

 褒めてほしいのだろう。


「よくやった。頑張ったな」


 アイルの頭をなでてあげると、尻尾がさらに加速した。砂埃が立つくらいに揺れている。


「ロルフも、ありがとう」


『マスター。精霊型猫ではありません。猫型精霊です』


「ん?なぜ?」


『マスターが誤解しているようなので、何度も訂正します。マスターの勘違いが鳴るまで、何度でも言います』


「わかった。わかった。それで?」


『はい。先代の”動物使い”に名を貰った魔狼が率いていた群れでした』


「それで。先代に名を貰った魔狼は?」


『人族との戦いで祠ごと焼死しました』


「そうか・・・」


『アゾレムとかいう貴族が率いた集団だったようです』


「アイル。その魔狼たちは?」


『はっ。近隣の群れを支配下に置くために動いています』


「ん?」


『マスター。今、この森は、いくつかの群れが存在します』


 アウレイアが説明してくれたのだが、魔狼は森を支配している中でも上位種なのだが、今までは森の支配には興味を示していなかった。

 アウレイアとしても、自分の群れとアイルの群れは、俺で繋がっているから、同等だと考えていて、分割で支配しようとしている。二つの群れではない。俺を頭に置いた一つの群れだと考えている。


「食料は大丈夫なのか?」


『魔狼の支配している場所に、魔物が湧き出す場所があります。知恵なき魔物なので、害にしかならない存在なので、狩って食料にしています』


「狼たちの支配する森になるのだな?」


『はい。知恵なき魔物は餌とします。我とアウレイアが居れば問題にはなりません』


『アイル。ヌシは、マスターと共に行け。マスターをお守りしろ』


『アイルはマスターと一緒に居た方がいいと思う。アウレイアが森を支配していれば問題はないだろう』


 黒い狼であるアイルが俺を見上げる。

 体躯は大きくなっていないが、存在感が増しているのは間違いない。

 ロルフとアウレイアは、アイルを護衛にしたいのだろう。スコル種となっているが、ミルたちにやったように、偽装を施せばいいだろう。


///真命:アイル(1)

///種族:スコル

///ジョブ:魔狼王

///加護:カンザキリンの加護

///体力:90

///魔力:180

///腕力:60

///敏捷性:280

///魅力:100

///魔法:青(1)・灰(1)

///スキル:俊足,威嚇


 確かに、アイルを護衛として、側に置いておく、街中では”従魔”登録をしておけば大丈夫だろう。

 加護とジョブは偽装しなければ駄目だな。


「アイル。俺と一緒に来てくれるか?」


『はい!マスターのお供を致します』


 今後の話をしていたら、夕暮れになっていた。

 アイルの配下となった魔狼が狩ってきた、オークを解体して焼いて食べた。


 村の中心部に火が灯る。

 狼の襲来を忌避するためだろう。


「アウレイア。アイル。村の中央の火を消せるか?」


『配下にやらせます』


「危険ではないよな?」


『問題はありません。黒の魔法が使える者が居ます』


「わかった。闇の帳が降りたら、火を消して、村の境界線まで狼を前進させて、遠吠えをさせろ。アイル。手が空いている魔狼や、協力してくれる狼を集めてくれ」


『はい』

『はい』


 アイルとアウレイアは、俺に頭を下げて、森の中に消えていった。


『マスターは?』


「家に行く。村長辺りが見に来てくれたら、それで終わりだが、村の若い衆が来たら捕らえる」


『殺さないのですか?』


「殺したら、それで終わりだからな。村長と、サラナとウーレンの親には、死んだほうがましだと思ってもらう」


『わかりました。マスターの御心のままに・・・』


 ロルフにお願いして、俺は木によりかかりながら目を閉じた。アイルとアウレイアが戻ってきたら起こしてもらう。


 村長おじさんが守ろうとしたものが何なのかわからない。

 サラナとウーレンが守りたかったのは?

 サラナとウーレンの両親が守りたかったものは?

 村の人たちが、ニノサとサビニとマヤを排除してまで守りたかったものは?

 結界を破壊してまで守りたかったものは?


 考えても答えが出ない。

 俺が今からやろうとしているのは、八つ当たりでしか無いのかもしれない。復讐でもなんでもない。

 復讐は、アゾレムやその後ろに居る奴らに・・・。

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