第九話 懐かしの村


 懐かしの村に戻ってきた。

 ポルタは、俺がパシリカに向かった時と何も変わっていない。当然と言えば当然だ。時間が経過したわけではない。俺の感情の部分が大きい。村は何も変わっていない。多分、俺とマヤが居た時と何も変わっていない。


『ロルフ。夜の方がいいよな?』


『そうですね』


 俺は、ロルフと短い打ち合わせを行って、夜まで待つことにした。

 世界の全てだった村が、小さく狭く汚れて見える。確かに、村長おじさんには世話になった。


 サラナとウーレンの両親にもしっかりと教えなければならない。


 認識阻害のマントを使って村に近づいてみたが、本当に誰にも気が付かれない。

 夜になるまで村の周辺を探索してみた。


 考えていた以上だな。


『マスター。ここは?』


『俺とマヤが住んでいた家だ』


 村長おじさんが俺とマヤを殺そうとしたことから、家は家探しされているのだろうとは思ったが、破壊され尽くしているとは思わなかった。


『マスター・・・』


『いいよ。それよりも、周りを見ていてくれ、俺は持ち出せる物がないか探してみる』


 マジックポーチに入れられそうな物は入れておこう。マヤの服も必要だろう。それに、思い出の品が残されているだろう。


『わかりました』


 家の中に入ってみる。

 家具は破壊されている。ニノサたちが使っていた部屋も破壊されている。マヤが大事にしていた木彫りの人形も割られている。俺が、5-6歳の時に、作ってマヤにあげたものだ。”怒り”を通り越すと”笑えて”くるようだ。


 何のために・・・。決まっている、資料を探すためか?

 破壊したのは・・・。八つ当たりか?

 誰がやった・・・。村の連中か?

 マヤが悪い・・・のか?違う。

 俺が悪い・・・のか?違う。

 ニノサか?サビニか?違う。違う。違う。違う。


 奴らだ!俺から理不尽に奪っていく、奴らが居る。

 奪われた者は戻ってこない。当たり前だ。

 奴らを殺すか?生ぬるい。奴らを殺すだけでは足りない。

 村の連中を殺すか?必要ない。苦しめばいい。死んで楽になんてしてやらない。

 復讐するか?誰に?決まっている。ニノサを殺して、サビニを殺して、マヤと俺を殺せと命令した奴が居る。

 殺して満足か?満足できるか!

 自分から死にたいというまで殺さない!生かし続けてやる!殺す。殺す。殺さない。殺す。殺さない。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。


『マスター!』


 俺は、今・・・。何を?


『ロルフ。どうした?』


『はい。マスター。何かが迫ってきます』


『人か?』


『獣・・。いえ、魔物です』


『魔物?』


『はい。種はわかりませんが、ウルフ種の群れです』


『わかった。そっちに行く』


 ロルフが居る場所は解る。繋がりを辿ればいい。

 森に入って少し歩いた場所にある開けた場所だ。よく、マヤと来ていた。小鳥や栗鼠が遊びに来る場所だ。


 確か、サビニが言っていた記憶がある。

 この家は、結界の要になっている・・・と、その要が壊れたら、森から魔物や獣が表れても不思議ではない。

 村には、簡素な柵はつくられているが、森側には何も作られていない。俺たちの家が有るから必要ではなかった。それがなくなったらどうなるのか考えなかったのか?考えなかったから、家を破壊したのだろう。それとも、知らなかったのか?


「ロルフ」


「マスター。まだ到着はしていません。群れの規模は、10頭ほどの小集団です」


「わかった」


 村を襲うのなら無視するのだが、俺とロルフを標的にしているのなら戦うしか無い。

 確かに、何かが来るのは解る。


 森の木々の間から、白い毛並みの狼に率いられる群れだ。先頭で出てきた白い狼以外は、黒い毛並みの狼だ。

 凄まじく、綺麗な狼だ。


「綺麗な狼だな」「マスター!」


 ロルフが何か言っているが、綺麗なのは間違いではない。

 敵意も感じられない。


『今、綺麗と言ったのは貴殿か?』


「え?ロルフ?」「違います。そこの白い狼です」


『そうだ。我のことを綺麗と言ったのか?』


「あぁ言葉が解るのか?」


『我は、アウレリア。この森を根城にしている』


「名持ち」


『そうだ。その村に住む人族に敗れて、”村への侵入を防いでくれ”という盟約を結んだ』


「え?それは、ニノサ?」


『そうだ。結界が破られ、その者の家に人の気配があり来てみた』


「・・・。アウレイア殿。ニノサは殺された」


『そうか・・・。お前は何者だ?肩に乗っているのは、精霊様か?』


「俺は、リン。ニノサの子供だ。肩に居るのは、ロルフ。精霊型の猫だ」「違う。猫型精霊!」


『クックク。リンか、覚えた。なぜ、ここに居る?精霊様まで連れて、我らの討伐か?』


 俺は、少しだけ変わっている狼のアウレイアに事情を説明する。理解できるのか、わからないが自分の事情を聞いて欲しいと思ってしまった。ロルフがマガラ神殿からの話には訂正や補助を入れてくれる。肩に乗っている状態を考えると、”精霊だと言い張っている猫”なのだが、アウレイアや後ろに控える狼からは”精霊”なのだ。ロルフが断言すれば素直に受け入れてくれる。説明が楽でいい。


『そうなると、リン様は、伝説のジョブにお就きになって、ロルフ様のマスターだと・・・。そして、ご家族の無念を晴らすために、村に戻ってきた・・・と』


「概ね間違っていない」


 なにやら、アウレイアが考えている。

 そして、後ろを振り向いてから、俺に話しかけてきた。


『我の配下の者が、幼少の頃のリン様とマヤ様に怪我を治して貰ったと言っています』


「うーん。子供の頃、子犬を助けて、足の怪我を治した記憶はあるけど、それかな?」


 なにやら、アウレイアが群れの者たちに通訳をしている言葉。聞き取れるが、俺の言葉は通じていなかったのだろう。


『リン様。その子犬がこの者です』


 一匹の黒い狼が前に出てくる。


『リン様。この者をお連れください』


「どういうことだ?」


『リン様とマヤ様に力を貸したいと言っています』


「いいのか?」


『この者は、群れから離れて独立する予定の者です』


「独立?」


『はい。我の群れは、30頭ほどの群れです。その中から数頭が群れから離れて自分の群れを作ります』


「そうなのか・・・」


 黒い狼を見る。

 明らかに何かを期待している。


「アウレイア。この者には名は?」


『ありません。リン様。お願いが』「解っている」


 アウレイアが言い切る前に、黒い狼の額にふれる。自然と、狼は頭を垂れる体制になる。


「我、カンザキリンが名を与える。汝は、アイル」


『我は、アイル。カンザキリン様に絶対の忠誠を捧げます』


 つっ・・・。ヒューマのときよりも魔力が抜けていく感じがする。

 アイルを見ると、ヒューマの時のように動かなくなり、黒っぽい繭のような物に覆われている。進化するのだろう。


『リン様』


「大丈夫だ。進化するのだろう。さっき説明した、リザードマンでも同じことが発生した」


『・・・。リン様。我も』「アウレイアは、ニノサから”名”を貰っている。俺の眷属になって、ニノサの敵討ちに協力してくれないか?」


 アウレイアが何を言いたいのか解っている。

 だから、俺から誘う。ニノサの敵討ちに付き合ってもらう。


『喜んで、我らは、リン様に従います』


「ありがとう。魔力が回復したら、アウレイアにも”名付け”をおこなう」


『わかりました』


 夜になったら、村長との話し合いに行こうと思っていたのだが、アウレイアとの出会いで予定が変わってしまった。

 村長や村の住民なんかよりも、アイルとアウレイアの方が大事だ。


 ロルフも俺が眷属を増やすのには賛成してくれている。

 前に住んでいた家では寝られないので、アウレイアたちが周辺を警戒して貰って、身体を休めることにした。


 夕方になり、魔力が十分に溜まってきたので、アウレイアにも”名付け”を行った。”名”は変えない。アウレイアは、白い繭に包まれた。


『マスター。周りには、適性生物はいません』


 進化を終えて、”スコル”という種族になったアイルだ。アウレイアが進化に入ったので、辺りの警戒をしてもらった。アイルは、ついでに近くに居る狼種を配下にすると言っていた。この時期は、独立して群れから出る狼が多い。そのために、群れの長を倒さなくても、独立をした狼たちを束ねることで、群れを形成出来る。群れが形成できたら、他の群れの”シマ”を奪い取ればいいだけなのだ。アイルは進化したことで、独立したばかりの狼では相手にならない。小集団で、この辺りをまとめていた、アウレイアの群れに拮抗していた群れの長を倒して、”シマ”を奪っていた。


 そして、朝方になって、アウレイアが進化を終えて目覚めた。


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