助手
老博士が言った
「わたしがもしも狂ってしまったらその日のために作っておいたこの特効薬を飲ませてはくれないか………」
助手であるわたしは答えた
「わかりました」
そしてそのようなやりとりも忘れ日々を過ごした
博士の予言通り、博士は少しずつ狂っていった
最初はわからなかった
だがやがてその誤差ははっきりと主張をし始めた
ついにはわたしの顔を見てもそこにいるのが誰かわからなくなってしまったようだった
あんなにわたしのことを信頼してくれていたのに
今ではわたしのことを電柱か何かと勘違いしているようだった
どうして電柱が家の中にあるのだろうと不思議がっているのだ
わたしは博士が予め作っておいた特効薬を飲ませることにした
「いやだあようっ」
博士は激しく抵抗した
「お願いしますこれを飲んでくださいっ」
無理やり口の中にカプセルをねじ込んだ
ぺっぺっとすぐさま吐き出した
「殺される-うよ」
叫んだ
あのいつだって冷静だった博士のそのあまりの変貌ぶりにわたしは戸惑うばかりだ
しかし戸惑ってばかりもいられない
博士がまだ正常だった頃に作ったこの薬を飲ませさえすればまだ希望は残っているのだ
ロールパンの中にカプセルを埋め込み一緒に食べさせることにした
口に含みスープで流し込むのを確認した
血の泡を吹いて死んだ
わたしは博士の死後、博士の日記を見て全てを理解した
そこに書かれていたのは幼児の落書きのような稚拙な絵だけだった
博士はもうずっと前から狂っていて
本当は作れもしなかった架空の特効薬を助手である自分に飲ませようとしていたのだった
恐ろしい疑問がよぎる
もしかしたら博士は博士ですらなかったのかもしれない
わたしは本当に博士とやらの助手だったのだろうか?
そもそも一体、わたしたちは何を研究していたのだ?
思い出せない
記憶が無い
あそこでわたしを見ている女は一体、誰なんですか?
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