正義の遂行


痴漢が多い電車の中で

おれは目を光らせていた

実際に光るわけではない

わかるよな?

つまりそういうことだ

わざわざ説明するまでもない

卑劣な犯罪をこれ以上のさばらせない

そういうことだ

おれの立っている目の前の人間が何か喋っていた

そいつは女だった

際立った乳と尻を所有していた

(うるせーなあ………)

おれは思った

痴漢

と言っておれの方を指差した

(何、言っていやがる)

思いっきり眉間に皺を寄せてやった

何か途轍もない陰謀がおれを巻き込もうとしているのか?

おれはさっきからずっと両手を胸元で組んでいた

そりゃあ電車が揺れた時にちょっと陰茎がぶつかったりもしたかもしれない

けれどそれは何て言うか事故みたいなものだろう

電車が揺れるから悪いのだ

そのようなことをおれは女に説明しようと思った

だが女は自らの誤った先入観をけして否定しようとは思わなかった

やけに様々な意思を感じさせる静けさの中で冷たい視線だけが無造作に飛び交っていた

おい、いい加減、黙れよ

おれは女に鉄拳制裁をした

こういう話し合いの通じない馬鹿がおれは大嫌いなんだよ

ふふん

悪党を

この地球上から一人、片付けたことに満足していた

良い気分だった

そして捕まった

罪状は

痴漢に、暴行で、警官にあるまじき行為だそうだ


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