生ける屍


おっさんがいた

おっさんはよく見るとゾンビだった

よく見なくてもゾンビだった

しかも万引きしていた

その最中だった

ゆっくりと

ゆっくりと

棚にある商品を懐に潜り込ませようとしていた

もう既に死んでいるからと言ってやって良いことと悪いことがある

わたしは叱った

「こらっ、その掴んでいる物を離しなさあい!」

ぴしっと引っ叩いたらゾンビの腕がもげた

どさり

落下した腕はまだ商品を掴んだままだった

………

わたしとゾンビは二人でその腕を見つめた

そんなつもりは無かったのに

ごめんよお

「痛い?」

ゾンビは何も言わなかった

だからそれほど痛くないのかもしれなかった

「許してくれる?」

やはり何も言わなかった

何かを言う機能が退化しているだけなのかもしれなかった

だがそれには目を瞑って自分の都合の良いように解釈することにした

大丈夫

そう勝手に結論づけてわたしは帰宅することにした

何か重要なことが抜け落ちている気もしたがまあ良いだろう

家に帰りホットミルクを飲むと気分が落ち着いた

今現在、視界に映っていないものなんてこの世に存在しないのと一緒だ

そのような感受性のおかげで罪悪感なんて感じることもなく生きていくことが可能だった


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