労働


朝、起きた

そして蛇口をひねった

蛇口の体液を抽出した

顔を洗った

これから仕事に出掛けなくてはならなかった

「はあ」

まるで別の人間が操作しているかのように溜息が出る

仕事があるだけまだましという考え方もある

(だが本当にそうだろうか?)

集団で催眠術にかけられた

ただそれだけの話しなのではないだろうか?

うんざりさせられる

それ以外にも何かあればいいのだけど

無い

隅から隅まで探してみたが何も無い

例えば今、職場から電話が掛かって来て

「大変だっ、うちの工場が巨大な蛸に襲われた!」

とか

慌てふためきながら上司が連絡してくればいいのに

そうしたらおれは急いで工場に駆け付けるのに

上司に

「大変なことになりましたね!」

って言いながらおれたちは分かり合えるかもしれないのに

だがそのようなことはけして起こらない

巨大な蛸はうちの工場を襲わない

おれはあの場所で行われていることの全てに興味が無い

工場

自分がそこで何を作っているのかもよくわかっていない

どうでもいい

唯一、気になるのは時計の針の動きだけ

そいつを早く動かすために精神の構造をいじくる必要がある

きっと何かが間違っている

人は生まれそして死ぬ

その最中に時間を早送りしようなどと思ってはいけないのだ

だが追い詰められた今、禁じ手を使う他無い


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る