音楽と隣り合わせ
遠くから懐かしい音が聞こえる。いつの日かこの音は聞かなくなった。いや、違う。
───聞けなくなった。
「……っ!!」
ガバッと体を起こす。見慣れない天井と布団。ここは…?
そういえば、白本さんと話してたら意識がとん……。はっ!?やってしまった……!!初対面の人相手を前に倒れるなんて……!!しかも布団に入ってるということは、運んでくれたってこと!?早く謝りに行かな……
「あ、起きた?どう、気分は。ぐっすり寝れた?」
「あ、はい、おかげさまで。……あああ、あの!」
「ん?」
「あ、ありがとうございました」
本当に色んな意味で、だ。白本さんはよく分かってないようだけど、それでいいの!私がそうしたいから。
あれ──?
「……?あの、その楽器は何ですか?」
それは琴に似ているけど、琴柱が無いから琴の仲間なのだろう。
「え、これかい?琴の琴っていうんだ。そうそう、君が持っていた楽器に似た横笛を持ってくるよ。きっと君ならすぐ吹けそうだからね」
そう言って私達がいた部屋から出ていってしまった。琴の琴を置いて。
ぼーっ、としていたら今朝の夢を思い出した。そういえば、聞いたことがあるようなあの音は何だったんだろう。うーん、何処かで聞いたことがあると思ったんだけど、中々思い出せない。もしかして琴の琴の音だったのかな?
少ししたら白本さんが戻ってきた。手に持っていたのは例の横笛だった。
「はい」
はい?吹いてみろと?いや、ちょっと指分からないよ。
「えぇ…と」
困っている私を見て何故か白本さんはクスッ、と笑った。なんで!?
「構えてみて」
構えてと言われて構えない奏者はいないだろう。自然と唇にエッジを合わせ、分からない指を適当にのせた。
「うん。やっぱり君に似合うね。あと指はこうね」
白本さんの指が私の指に触れる。顔が近いというのもあって緊張してしまう。白本さんからみたらそれが普通なのだろうけど、経験値が低い私にはレベルが高かった。
横笛の指を教わったのにほとんど頭に入ってない。
「どう?吹けそう?」
「た、多分……」
「正直でいいね」
ポンッ、と頭の上に手を置かれて何故か撫でられた。本当に猫と思われてるんじゃ……。
「その横笛、君にあげるよ。遠慮しなくていいよ、僕はもう使わないから」
少し寂しそうに言った彼の言葉に引っ掛かりを覚えたが、あえて触れないことにする。人は誰しも隠し事の一つは持っているからね。
「……ありがとうございます。大切に使います。その前に吹けるようにならないと」
「そうだね。君が持っていたふるーと…だっけ?僕もう一回聞きたいな。どうかな?」
「す、少しだけなら」
とか何とか言ってフルートを出して吹きはじめる。
少し瞼を閉じただけなのに目の前の景色が変わっていた。
──え?
幻かのように私がいた世界に戻っていた。
でも私の横にはあの横笛が落ちていた。
音楽は異世界でも強い味方とかナントカ 紫桜 黄花 @usamahura-flute
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