第15話
「オルガ」
エヴァは平原のど真ん中でくつろぐ黒い竜の元に駆けて行った。
『ああ、エヴァ。ずいぶん元気なようじゃないか』
「オリゼのおかげだよ。オリゼが獣を狩ってくれるから」
落とし穴を掘っている間も、オリゼは新しい獣を狩ってきてくれた。おかげで落とし穴作りに集中できたし、こうして完成させることができた。本当にオリゼに頭が上がらない。
『彼女も世話焼きなものだな。控えるように言っておこうか』
エヴァは首を横に振った。
「助かっているから大丈夫よ。それに、オリゼは私が狩りができないから世話を焼いてくれているのでしょう? だから私が狩りができるって分かれば、やめるでしょう?」
『確かにそうだろうが、エヴァは最近地面を掘っているだろう。それと何か関係あるのかね』
「大有りよ。うまく行くか分からないけど、私なりの狩りをしてみようと思って」
『なるほど、それなら邪魔をしないでおこう』
「ありがとう。私がオルガにできることって何かあるかな」
『いや、特に思いつかないな。こうして時々話しに来てくれることが退屈紛れになって嬉しいな』
「そうなのね。そうだ、ここから西の方に、古い大きな人間の巣があるはずなのだけれど、それって誰のなわばりなの?」
先日オリゼのなわばりの中、サイマールの町で見つけた地図を思い出した。
小さな集落の廃墟でもそれなりに使える物が残っていた。だからこの地で最も栄えていたところなら使える物がたくさんある可能性が高い。
でもそこはオルガのなわばりじゃないだろうし、そこをなわばりとする竜に許可を得てから踏み込もうと考えていた。エヴァの中に渦巻くという不死の呪いはとても気配が強いという。竜ならすぐに気付けるようだから、なわばりにエヴァが踏み込んだらすぐに分かるはずだ。
『確かあの辺りはマクスのなわばりだ。彼に話を通しておこう。そのうちに私に会いに来るだろうから』
「そのマクスという竜は、人間を嫌っているの?」
『いや、そんなことはない。彼は気のいい奴だしね。言葉が通じる人間だと聞いてとても興味を持っていたよ』
竜にもいろんな個性のものがいるようだった。
オリゼのように世話を焼きたがるのも、人間を嫌うのも、そして人間を拾ってきちゃうのも。
そのマクスが、いつかおぼろげな意識の中で聞いた人間嫌いの竜ではないようでホッとする。
竜たちははじめ、エヴァの不死の呪いに興味を引かれたようだったが、オルガ伝いに様々な情報が流れ、言葉が通じる人間というものに興味が沸いてきたようだった。
また竜たちの長に等しいオルガがエヴァを受け入れたことで、竜たちもエヴァを認めたようだった。
竜たちにとって人間は小さく、恐れるに足らない存在。人間にとってのネズミが、竜にとっての人間なのだった。
だからこそ、そんな人間と話ができるというのは、逆に面白いと感じるのかもしれない。
「私もマクスと話してみたいわ。名前からして雄、よね?」
『そうだ。彼は氷の扱いに長けた竜でね、暑いときはよく涼しくしにやってきてくれるんだ』
「竜は氷も扱えるの?」
『もちろんだ。火を吹くだけじゃない。風を操ったり、雨を降らせたり、雷を打ったり。大地を守るのが竜本来の役目だ。竜が大地を守るために様々な力を持っている』
「すごい、竜って何でもできるのね!」
もちろん、全ての竜が何でもできるというわけじゃない。
竜はその竜なりに自分の個性を生かした力を身に付け、なわばりを、大地を守っているのだという。
『人間だって我らとは違うが、いろいろできるだろう?』
「そうね。でも竜と比べたら全然だわ」
『なぜ比べる必要がある? 竜と人間は違うものじゃないか』
「そうだけど。竜は、ちゃんと生きる目的っていうのかな、使命があっていいなって思うわ」
竜は大地を守るために生まれたとオルガは語った。そのために自分のなわばりを持ち、そのなわばりをこまめに見回り、大事にする。そうやって大地を守っているのだという。
人間にはそういうものがなかった。
なぜ生まれて、なぜ生きるのか。
そんな疑問をずっと抱え続けていた。
竜のようにちゃんとした理由があると、生きるのに悩まなくていいかもしれない。
『そうだろうか。人間は自分で使命を見つけることができるじゃないか。自分で自分の道を定められる。人間はそういう風に創造されたと聞いている』
「誰がそんなこと言ったの?」
少なくともエヴァはそんな話を聞いたことはない。
こっちの世界では、人間は楽園の神に許しをこいねがうために祈らなければならないとは言われていた。
『竜たちの中ではそう言い伝えられているのだ。人間の神は人間にとても甘いとも言われているな』
確かに何をしでかしたか分からないが、楽園を追放しておいて、長い間祈ったからって新しい大地を与えてくれたり、甘いといえば、甘いかもしれない。
でも竜が人間の神に対してそう思っていたとは意外だ。
オルガと長話をした後、エヴァは掘った落とし穴の元に戻ってみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます