第14話

 いよいよ実行するときがきた。

 エヴァはスコップを片手にいつか猪を仕留め損ねた木の下にやってきた。


 オリゼのなわばりにしばらくいたから、獣ももう警戒はしていないだろう。

 念のために屋敷の井戸で体を洗ってきたから、においもしないはず。でもこれから汗をかくだろうから、意味はなかったかもしれない。

 ともかく、獣が通りそうなところに穴を掘らなければ。


 この地の獣は大きい。

 大きな竜が満足するほど肉を蓄えているが、それを罠で捕らえようとすると、やはりそれなりの大きな穴を用意せねばならなかった。

 でもやる気があるうちにやってしまわなければ、後々面倒になってしまう。

 エヴァはスコップを逆手で持ち、地面に突き刺した。


 これから掘る落とし穴が、果たしてうまくいくだろうか。


 穴を掘りながら何度もそんな疑問が浮かんでは振り払う。とにかくやってみるしかないのだ。

 王国に戻りたくない、戻れない。西の国に行くのも怖い。他の地に行って、不死の呪いを受けた自分が受け入れられるのか分からない。拒まれるのは何よりも怖い。

 だからここで生きていくと決めたのだ。

 だとしたら、ここで自分だけの力で生きていく力を身につけなければならない。

 オリゼは狩りのできないエヴァの世話を焼いてくれるが、いつまでも甘えるわけにはいかない。甘えてばかりじゃ、巣で鳴くひな鳥と変わらない。

 ここに留まるとき、オルガに言った。

 竜たちには迷惑をかけない、と。

 だからちゃんと狩りができるようにならないと。


 半日かけて、エヴァの腰ほどの深さの穴を彫り上げた。

 ここの獣の大きさを考えたら、もっと大きな穴にする必要がある。この大きさなら、穴に落ちても逃げられてしまう。

 だとしても、これ以上穴を深くするならロープが必要だ。エヴァが地上に出られなくなってしまうし、掘った土を外に出す方法も考えなければ。

 今日はここまでにして、明日ロープと土を入れておく入れ物も持ってこよう。

 それと、落とし穴の底に仕掛ける刃物も見繕っておかなければ。


 やることを決めると、考えなければいけないことややらなければいけないことがどっと出てきて忙しくなった。

 とにかく結果を得るためには、何かをやるしかない。

 エヴァは自分にそう言い聞かせてひたすらスコップを突き立て、土を穴からかき出した。


 穴を掘り始めて四日目、ようやくエヴァは自分が納得できる大きさの穴を作り出すことができた。

 深さはエヴァの全身がすっぽり納まるほど。広さは両手を広げて振り回しても穴の側面に手がつかないぐらい。穴の底に、刃先や鋭いものが上に向くように折れた剣や削って尖らせた木の棒を並べた。

 これで運よく仕留められればいいのだけれど、戦った経験の全くないエヴァでも倒せるようにできるだけダメージを与える仕組みだ。

 落とし穴の上にボロボロのシーツを被せて、四隅を石で止めて張らせる。シーツで蓋をした上に掘り出した土と草や木の葉を被せ、できる限りの偽装をする。


 あとはここを離れて待とう。

 エヴァが近くにいたら人間の匂いで気付かれてしまうかもしれない。早く離れて、残り香も早く消してしまわなければ。

 エヴァは、久しぶりにオルガの元に向かうことにした。

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