第6話

『狩りがうまく行っていないようだな』


 オルガの元を訪れると、なぜかオルガはエヴァの行動を知っていた。


「どうして知ってるの!?」


 オルガは朗らかに笑う。


『我は我の根が張ったところのことはこの目で見たように分かるのだ。君が巣を張ったところや普段狩りをしているところはとっくの昔に根が広がっている』

「そうなんだ。根はどこまで広がるの?」

『さてな、それは広がる限り広がるだろう。我は早く幹を伸ばして葉を広げたいのだ。そのためにはより多くの大地の活力を得なければならない。根を広げて損はないだろう』

「それもそうね」

『それに我を守る竜たちの中には君に興味を持っている者たちもいる。彼らが君の事を教えてくれる』

「そうなの!?」


 それはエヴァが全く知らないことだった。

 ここに居ついて数日だが、最初の日以降、オルガ以外の竜を見かけていない。一体どこからエヴァのことを見ているのだろう。

 あれだけ大きな体をしているのにエヴァに見つからないとは、逆にすごい。

 人間の能力が竜と比べてはるかに劣っているだけかもしれないけれど。


『何、気にすることはないさ。竜たちは君の中に渦巻く力が気になるだけのようだから。

 さて狩りがうまくいっていないのだが、食べる物に困っていないかね』

「果物を見つけたから何とかなっているわ。でも、やっぱり肉が食べたいわね。竜ってどうやって狩りを覚えるの?」


 何か参考になれば、と思って聞いてみた。


『竜は親の狩りを見て学ぶ。そして初めて獲った獣の首を親に捧げるのだ』

「何で? 自分で食べないの?」

『何でだろうな。古来より我らはそうしてきた。頭は特に美味しいから、だから譲るのかもしれない』

「そうなんだ」


 エヴァにしてみれば、肉のしっかりついた足とか腹のほうが美味しいと思うのだが、その辺は竜の好みなのだろう。

 そして竜のやり方はエヴァには適していなかった。

 竜とエヴァでは体の大きさ、造りが全く違うし、まず空を飛ぶことができない。分厚い爪も持っていないし、固い鱗も、鋭い牙もない。

 エヴァはエヴァのやり方を見つけないといけないようだ。


「竜って卵から孵ってしばらくは親が面倒を見るの?」

『そうだ。父親と母親で交互に見る。子どもの傍を離れている間に獲物を狩り、腹を満たして、子どもが食べる獲物も狩って戻るんだ』

「へぇー、それなら安心して育てられるわね。竜ってどれくらいで巣立ちをするの?」


 竜の生態はこれまで誰にも知られていない。

 これを機にいろいろ聞いてみることにした。

 オルガも嫌な顔せず、それどころか興味津々なエヴァに嬉しそうに教えてくれる。


『竜によって差はあるが、三年ほどで巣立っていくな』

「そんなにかかるの!?」

『何を言う。人間はもっとかかるのだろう?』

「あ……」


 確かにその通りだ。人間はその三倍以上はかかる。

 竜は大きい生き物だったが、成長は早いようだ。

 今すぐではないけれど、いつかオルガから教わった竜の生態を書き留めておきたいと思った。それは竜と言葉を交わせるエヴァにしかできないことだと思うから。


 オルガと話すのは楽しかった。

 元々エヴァは離宮においても雑談というものをあまりしていなかったし、この地での話し相手というのは今のところオルガしかいなかった。

 そのうち他の竜たちと話せるようになるといいな、と漠然と思った。


 オルガと話した後、再び赤い果実の成る木に向かい、数日分の食糧を確保する。

 まだ日が沈むまで時間があったので、ついでに周辺を見て回る。前回はこの木を見つけたことで周囲をちゃんと見て回らなかったので、何かまだ残っているかもしれない。

 すると少し離れたところに黒い実をつけた草が群生しているのを見つけた。

 草いちごのようなものだろう。

 エヴァは早速一つ摘み取り、口に運ぶ。

 甘酸っぱい香りが口の中に広がった。肩をすぼめつつも新鮮な味に頬が緩む。

 黒い草いちごは一つ一つが指先ほどの大きさ。摘み取るのが大変だったが、大事な食糧だ。丁寧に摘み取り、麻袋に詰めた。

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