本格ミステリはいかにして執筆されるか(実践編)
さて、私は以前、「本格ミステリはいかにして執筆されるか」というサブタイトルで、私自身がミステリをどんな流れで執筆しているのかを書いてみたことがありました。ですが、それは本当に大まかなものでしたので、今回(実践編)と題して、さらに踏み込んだ創作方法を書いていきたいと思います。
では、具体的に何を書くのかといいますと、やはり「トリック」について書くのが一番良いのではないかと考えました。トリックこそはミステリの華です。「ガンダム」におけるモビルスーツ、「ウルトラマン」における怪獣、「プロレス」における必殺技です。それと、作者によってミステリの書き方は様々あると思いますが、私はまずトリックがないと何も出来ません。私の中のミステリの神は、最初に「トリックあれ」と言ったのです。さらには、ミステリを書きたいけれど書けない、という方が何につまずいているのかというと、これももう「トリックの創案」がかなりの割合を占めるのではないでしょうか。そういった未来の(及び現在の)ミステリ作家たちのための(などと書くと、素人の分際で非情に口幅ったいですが)一助になればという想いもあって、トリックの萌芽から完成までの流れを追ってみることにします。
今回は、トリックの考案から、実際に小説内で使えるものにブラッシュアップするまでを、全部で四段階に分けて書いていこうと思うのですが、「実践編」ということで、実作を使って説明するのが一番よいと思い、拙作『コーヒー豆殺人事件』を例として取り上げることにしました。よって、『コーヒー豆殺人事件』の完全なネタバレを含みますので、そこのところだけご了承下さい。
第一段階:トリック萌芽
『コーヒー豆殺人事件』では「ダイイング・メッセージ」をトリックとして使っています。被害者が息を引き取る今際の際に、自分を殺した犯人を伝えるために残す、というあれですね。私がこの作品のトリックを思いついた一番最初のきっかけは、タイトルなどの詳細は伏せますが、「青山ブルーマウンテン」という名前のキャラクターが登場する某アニメを視聴していたときでした。そのアニメは喫茶店が舞台で、登場キャラクターに飲料をモチーフにした名前が付けられており、その一環というわけです。言うまでもなく「ブルーマウンテン」とは高級コーヒー豆の名称で、日本語に直訳してそのまま「青山」という一般的な名字になります。普段から隙あれば、「何かミステリのネタはないか」ということばかり探している私は、ここで、「被害者が『ブルーマウンテン』のコーヒーを指し示した状態で死んでいて、それが『犯人は青山』というダイイング・メッセージになる」などというネタを、タイトルは伏せますが、その某アニメを視聴して思いつきました。
とはいえ、こんなトリックをそのまま使えるわけがありません。もし、このトリックをまんま使ったミステリを書いたとしたら……。
「犯人は……青山さん、あなたですね」
「な、何を根拠に!」
「被害者が示していたコーヒーが何だったか、皆さん憶えておいでですか」
「もちろん憶えている。ブルーマウンテンだ」
「そう、ブルーマウンテン、すなわち日本語に直訳して……」
「あっ!『青山』!」
「そうです。あれは、被害者のダイイング・メッセージだったのです!」
こんなものを書いて公開してしまったら、私は読者の方に垂直落下式ブレーンバスターで脳天からリングに突き刺されても、何も文句は言えなくなってしまいます。
しかし、だからといって、「こんなトリック(とも呼べないネタ)、使いものにならないから」と、簡単に捨ててしまってはいけません。トリックというものは貴重です。「トリックの枯渇」は、もう何年、いえ、何十年も前から業界で叫ばれ続けていることです。「それを捨ててしまうなんて、とんでもない!」
ミステリのトリック創出に関しては、「使えぬなら 捨ててしまおう このトリック」でも、「使えぬなら 使えるようになるまで待とう このトリック」(字余りが酷すぎ)でもなく、「使えぬなら 使って見せよう このトリック」の秀吉イズムで行きましょう。ですので、せっかく思いついたこのトリック、とりあえずは胸の内にしまっておくことにします。「ポイってトリックを投げださない」約束しましょう。
第二段階:トリック生長
さて、捨てずに取っておいた「ブルーマウンテン=青山」のダイイング・メッセージトリックですが、時折思い出しては私は、「何とか使いものにならないだろうか?」と、あれこれ考えていました。そうしているうちに、「このトリック、どうして使えないんだろう?」という根本的なことを考えるに至りました。といっても、何か気の利いた答えが出せたわけではありません。このトリックが使えない理由、それはもう、「単純すぎるから」この一語に尽きます。ブルーマウンテンだから青山って。そこで私は、嘉門達夫の歌ではありませんが、「ひねりなさい」と自分に言い聞かせ、あれこれとこねくり回していきました。
「ブルーマウンテン=青山」というのは、そもそもベタすぎる。某アニメの登場人物名にも使われているくらいだ。直球どころではなく、「ど真ん中に投げますよ」と宣言しておいて、本当にそこに投げるようなものだ。打ち返されないわけがない。……じゃあ、ブルーマウンテン以外のコーヒーだったら、どうだろう……。
「犯人は……
「な、何を根拠に!」
「被害者が示していたコーヒーが何だったか、皆さん憶えておいでですか」
「もちろん憶えている。モカだ」
「そう、モカ、それをひっくり返すと……」
「あっ!『加茂』!」
「そうです。あれは、被害者のダイイング・メッセージだったのです!」
駄目です。こんなのを書いては、読者の方にドラゴンスクリューからの4の字固めを
殺された場所に、たまたま複数のコーヒーがあって、被害者はその中から犯人の名前を示すものを選んで死んだ。どういう場所で殺されたんだ? 喫茶店か?
と、ここまで考えて私は、あろうことか、「ダイイング・メッセージ」についてよく言われている「突っ込み」を全然考慮していなかったことに思い至ったのです。その突っ込みとは、「犯人、気付けよ」というもの。そう、犯人が青山という名字の人物で、殺した被害者が今際の際にブルーマウンテンのコーヒーを示して死んだのだとしたら、必ずこうなるはずです。
「ふう……何だこいつ? 死ぬ間際にコーヒーを示したりして……これはブルーマウンテン……あ! やっべ! これ俺のことじゃん! あっぶね!」
そうです。「どうして犯人は、被害者がダイイング・メッセージを残すままに任せていたのか」という突っ込みです。ただ、突っ込みとはいっても、本当にこの突っ込みを入れられてしまうようなミステリというものは――相当昔に書かれたものにはあるかもしれませんが――現代においては、まずありません。この問題は当たり前にクリアしたうえで発表されているものばかりです。ですので、私も当然この突っ込みを回避する必要が出てきます。つまり、「犯人は見逃すが、のちに捜査する探偵だけが気付く」という非常に都合の良い「メッセージ」を考案しなければいけないわけです。考案するのは、メタ的には当然作者ですが、作中レベルではこれまた当然被害者です。しかも、死に際の
「被害者は分かる。しかし、犯人には分からない。でも、最終的には探偵には分かるメッセージ」。難問です。ダイイング・メッセージものの難しいところです。私は頭を捻り……そして、今さらのように気が付きました。「そもそも『コーヒー』って、何で区別をつけてるんだ?」。自慢じゃありませんが、私はコーヒーは中毒と言ってよいくらい大好きですが、「利きコーヒー」みたいな芸当をやれと言われたら出来る自信は全くありません。インスタントも喫茶店で飲むのも同じです。じゃあ、どうして私は「ブルーマウンテン」だとか「モカ」だとかのコーヒーの種類を知っているのかというと、それはもう、市販品のパッケージや喫茶店のメニューに書いてあるからです。特にコーヒー好きな人じゃなくとも、一般的知識として誰しもが知っていることでしょう。逆に言うと、それなしでは(余程のコーヒー通でもなければ)コーヒーの種類を区別することは出来ない……。光明が見えました。
第三段階:トリック発展
少し前に考えていた、犯行時の状況をもう一度思い浮かべてみます。――時を戻そう。
犯人が被害者を殺します。被害者は瀕死の状態で最後の力を振り絞り、今際の際にコーヒーを示す――「時よ止まれ! スタープラチナ・ザ・ワールド!」ここです、ここ。今まで私は、この状況をあまりにおぼろげにイメージしすぎていましたが、実際「コーヒーを示す」って、どういう状況なんですか? 「基本、
「被害者は分かる。しかし、犯人には分からないダイイング・メッセージ」
第一の関門を突破しました。被害者の前に様々な種類のコーヒーが並んでいる状況というのは、被害者が喫茶店のマスターで、開店前に店に出すコーヒーを吟味している最中だった、という設定にでもしておけばクリア可能でしょう。
ですが、今度は犯行後の様子を想像してみると、このまま終わらないであろうことは明白になります。
犯人が被害者を殺します。被害者は瀕死の状態で最後の力を振り絞り、今際の際に香りで嗅ぎ分けた、犯人の名前を示唆するコーヒー(ブルーマウンテン)を指さしました。
さて、これを見た犯人は、どう思うでしょうか。「何だこいつ?」と訝しがること間違いありません。そして、いくらコーヒーに明るくない人物を犯人に設定したとしても、コーヒーの種類に「ブルーマウンテン」という名称のものがあるということは、先に考えたように一般的知識として知っているでしょう。であれば、犯人の思考はこうなるはずです。
「このコーヒー、もしかしたら『
犯人は「ダイイング・メッセージ」の隠蔽に走るはずです。コーヒーを全て調理場の流しに捨てて、カップも綺麗に洗い、そこにコーヒーがあったという事実自体をなくしてしまうでしょう。殺害直後であれば死後硬直もまだ始まっていないので、指さし状態の被害者の手を自然な形に戻しておくことも可能です。
光明が見えたと思ったのも刹那、私は深い川の底に沈んでいくこととなってしまいました。新しく、「犯人に気づかれないメッセージの残し方」を考えなくてはいけません。
と、ここで「うっかりで犯人が気づかなかったことにする」というふうに逃げてしまうのは楽ですが、それは悪手です。読者は、ミステリの犯人に狡猾さを求めるからです。自分が殺した被害者が、今際の際に最後の力を振り絞って、ひとつのコーヒーを指さす。それを目撃していながら、「ふーん」で済ませて現場を立ち去ってしまうような人物は、ミステリの犯人たり得ません。犯人とはミステリの主役です。主役には強くあってもらわねば。
もっとも、ここで「犯人がダイイング・メッセージを見逃してしまったこと」に、「そうなっても仕方がないね」と読者を十分に納得させる理由付けが出来れば、話はまた別です(例えば、犯行時部屋の明かりが消えた暗闇で、犯人が被害者の行動に気づかなかった。では、どうして被害者はメッセージを残せたのかというと、コーヒー通で嗅覚が利いたため、香りを頼りに目当てのコーヒーを指し示せた、とか。まあ、これはこれで「被害者は暗闇の中でいくつもコーヒーを並べて、何をしてたんだ」みたいな新たな問題が出てくるのですが。かようにミステリを書くということは、不自然さを消していく作業との戦いです)。
第四段階:トリック完成
どうにかして、ダイイング・メッセージを犯人に気付かれずに残す方法を考えなければならないッ!
「比類なく神々しい瞬間」を求めて、水中でもがき苦しんでいた私は、かつて、ジョージ・ジョースター卿から言われた、ある言葉を思い出しました。
なにジョジョ? 犯人をダイイング・メッセージに気付かせずに現場から立ち去らせたい? ジョジョ、それは登場人物を作者にとって都合よく動かそうとしすぎだよ。逆に考えるんだ。「気付かれちゃってもいいさ」と考えるんだ。
気付かれちゃってもいい! そうなんです。そのほうが自然、というか、そうなるべきです。犯人の立場になって考えてみれば、首尾良くターゲットを始末したあとでも、「何か自分の不利になる証拠が残っていないか?」と現場を隈なく観察しまくるはずです(「火急の用事があって、現場に居られる時間が限られていた」みたいな理由があればまた話は別ですが、その上手い理由を考える必要がやはり出てきます)。犯人にとっては人生が賭かった大勝負です。被害者が今際の際にとった不自然な行動はおろか、どんなに頑張って「ダイイング・メッセージ」を覆い隠そうとしたとて、そんなものでは犯人の目を欺けはしないでしょう。読者がミステリの犯人像に求めるような、強く狡猾な犯人であれば、なおさら――。と、私はここで、「狡猾な犯人」という言葉に気を留めました。
〈狡猾〉(こうかつ)自分だけ得をしようと、さりげなくずるいことをする様子。
――『新明解国語辞典』三省堂 より
「狡猾」と称されるような犯人であれば、発見したダイイング・メッセージを、「なかったこと」にするだけで果たして済ませるでしょうか? と同時に、まだ「コーヒーの種類で犯人を名指しするダイイング・メッセージ」に拘泥していた頃に考えた駄洒落ネームのことも思い出しました。そして、この二つが組み合わさり、結果、「関係者の中に犯人以外にもコーヒーを想起させる名前を持つ人がいて、ダイイング・メッセージを操作して、その人に罪をなすりつけようとする」という展開を思いつくに至りました。犯人が余計な事をしたばっかりに、それが決め手となって結局自分が捕まる、という「策士策に溺れる」ギミックも作品の味付けになります。
作品の具体的な形が見えてきました。さあ、ここまで来たら、次は、事件が無理なく成立するような状況、人物像を設定して当てはめて、PDCAサイクルを回していくという作業の開始です。「PDCAサイクル」とは、商品の品質管理を目的とした継続的改善手法のことで、商品の開発はもちろん、商品が市場に出た以降も含めての品質改善を目的として行われるものです。
余談ですが、小説というものは本来、発表したあとで「あ、ちょいミスがあった」とか「ここ、こうしたほうが完成度が高くなるから」というふうに改善することなど許されません(発表から年月が経過したあとで出る「改訂版」や、雑誌掲載時のものを単行本、文庫化するときに改訂するのはありですが)。よって、このPDCAサイクルは発表前に入念に回しておく必要がありますが、素人が書くウェブ小説となるとまた話は別で、作者は発表後にいくらでも作品を修正できますから、発表後も積極的にこのサイクルを取り入れて、作品の改善を行っても良いのではないかと思います。
ミステリ小説において私が考える「PDCAサイクル」の流れは以下のとおりです。
①状況、設定を考える(PLAN)
②それを当てはめて話を実行(想像)してみる(DO)
③話に無理や矛盾は生じないか評価する(CHECK)
④改善すべき点があればそれを洗い出して、再び①へ(ACT)
この繰り返しで話を考えていきます。短編として書くと決めていたので(そもそも中~長編を支え切れるトリックではありませんから)、探偵の推理がなるべく円滑に進むような設定も加えていきます。
ミステリを構想していて、この段階になると毎度思いますが、この作業はパズルのピースを当てはめていくようで、私、嫌いじゃないです。
1.探偵が最初からダイイング・メッセージに疑問を持つようにするため、発見時の(犯人によって偽装された)メッセージが指し示す容疑者には、死亡推定時刻に鉄壁のアリバイを持たせる。
2.犯人によって上書きされた本来のダイイング・メッセージが、容疑者全員を指し示していた可能性を作るため、容疑者全員に何かしらコーヒーに関連する名前を与える(ここで、「加茂」「桐間」「ブレッド」という、前に考えていた駄洒落ネームが、まさかの正式採用されることに)。
3.「ブレンド=ブレッド」というダイイング・メッセージもあり得るというの可能性を簡潔に伝えるため、ダイイング・メッセージに使うのはドリップされた液体のコーヒーではなく、鷲掴みにして容易に「ブレンド」が可能なコーヒー豆に変更する。
4.死亡直前に被害者が豆を握りしめたことが意図的なものである(同時に犯人の偽装工作である)ことに信憑性を持たせるため、豆はひと粒だけを握らせて、死体の前にはコーヒー豆の山を置く(苦し紛れに手が伸びて意図せずに掴んだのであれば、ひと粒だけ握りしめるというのはおかしい)。
5.発見時のダイイング・メッセージが犯人の偽装であるためには、「4」のとおり、犯人は、被害者がコーヒー豆を握り込んだ行為が意図的なものである、すなわち、被害者オリジナルのダイイング・メッセージが「自分を名指しするもの」であると気づいたことになる。
6.「5」が成立するためには、「犯人にも被害者が握り込んだ豆の種類が分かる」という条件を満たす必要がある。
7.「6」を成立させるため、犯人を「被害者と同じくらいのコーヒー通」に設定する。
8.「被害者がダイイング・メッセージを残す行動」それ自体を犯人が目撃したとしたら、先に考察したとおり、(仮の犯人が)コーヒー通でなくとも、コーヒーに対しての一般知識からダイイング・メッセージの意味を察する可能性が出てくる。すなわち、コーヒー通でなくとも、ダイイング・メッセージを偽造しようという思考に達する可能性が出てきてしまい、犯人の特定が出来なくなる。
9.「8」を回避するため、被害者が豆を握り込む動きは、犯人が視認できないような小さな動作だったことにする。だが真犯人は「7」に設定したようにコーヒー通だったからこそ、コーヒー豆の香りに敏感で、目視だけでは知り得ないはずの、「被害者の掌中に豆があるという事実」――すなわち、ダイング・メッセージの存在と、その意味に気付けたことになる。
(ただし、これ(被害者の動き)は、あとからは絶対に証明不可能で、犯人の自白でしか知りえない事象であるので、あまり上手い状況設定とは言えません)
10.最終的な容疑者を二人に絞り、無実のほうの容疑者を「コーヒーに疎い人物」とすれば、「7」から「9」までの条件により、ダイイング・メッセージに気付くこと、すなわち偽装することは「コーヒー通の人物」にしか不可能であるため、消去法で犯人を絞り込む展開に持っていける。
(これについては反省点で、この「もうひとりの容疑者がコーヒーに疎い」ということは、作中においては彼自身の自己申告によってしか確認されていない情報です。よって、嘘をついている可能性が排除できないため、本来は事件が起きる前に、第三者の証言などの客観的な信頼に足る情報として出すべきでした)
11.探偵がトリックを見破る手がかりとして、「被害者がインスタントを自分のブレンドだと偽って関係者たちに飲ませていた」エピソードを挿入する。つまり「余程のコーヒー通でもなければ、コーヒーの香りや味を区別できない(発見時のダイイング・メッセージが示す人物には鉄壁のアリバイがある。ということは、それは偽装されたものである可能性が極めて高く、そんなことが出来るのはコーヒー通だけだ)」この推理が謎解きの突破口となる。
(これも反省点です。ちょっと迂遠すぎて、あまり上手くない手がかりの出し方でした)
以上、事件を構成する状況を、ほぼ設定し終えました。建築物ならば、建物自体が出来上がったような状態です。ここから先は、被害者の職業、犯人や容疑者たちとの関係性、犯行動機など、実際に執筆するうえで必要な詳細な設定を決めていく作業になります。建築物であれば内装を組み入れていくようなイメージですね。
さぁ、あとは執筆あるのみです。ミステリワット(別項「本格ミステリはいかにして執筆されるか」参照)との闘いが始まります。
余談ですが、本作は「容疑者全員が、たまたまコーヒーに関する名前を持っている」という虚構性の高い設定のため、いちおう「リアル系」を標榜している私のシリーズ探偵「
おわりに
さて、記憶を辿りながら、『コーヒー豆殺人事件』のトリック及びそれを使用する設定が完成するまでを振り返ってみました。素人の悲しさ、状況設定に甘い部分があったりもしますが、そういった部分は反面教師として見ていただけたらと思います。
改めて大事だなと思ったのは、一番最初に書いたように、「何でもいいから、とりあえずトリックを思いつく」ことです。それがどんなにくだらない(「ブルーマウンテン=青山」みたいな!)ものだっていいんです。
トリックを作る作業というのは、それそのものを創出すること以上に、「どうしたら、そのトリックが実作で使用に耐えうるものになるか」を研鑽していく作業のほうがはるかに難しく、時間もかかるものだと私は思います。
当然、最初は上手くいかないかもしれません。私もそうでしたから。それでも、普段生活していく中で、何か変わったことがあるたびに「これ、トリックにならないかな?」と貪欲な目で物事を見ていく。こんなことを繰り返すうちに、コツみたいなものが掴めてくると思います。
最初に書いたように、本項が「ミステリを書きたい」と思っている方への創作の一助に少しでもなれば、書いた甲斐がありますし、とても嬉しく思います。
それでは、これを読んで下さった読者の方の中に眠る「トリック」が研鑽されて、面白いミステリ小説として花開くことを切に願い、本項の締めとさせていただきます。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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