ミルク○ーイ風 ミステリ漫才

A「あー、ありがとうございますー」

B(客席から何か受け取る振りをして)

「今、『ABC鉄道案内』をいただきました」

A「こんなん、なんぼあってもいいですからね」

B「死体のそばに置いておきましょう」

(懐に入れる)

 「あのな、うちのオカンがな、この前ミステリ小説読んでな、そこに出てきた名探偵のことを、ごっつ好きになったんねんて」

A「ほう」

B「けどな、その名探偵の名前をド忘れしてしもうたらしいねん」

A「一緒に考えてあげますよ。何かヒントないですか?」

B「何でもな、ヨレヨレの着物に袴姿で、足下は足袋たびに下駄を履いて、形の崩れた帽子を被ってるらしいねん」

A「金田一きんだいち耕助こうすけよ」

B「金田一耕助?」

A「はい。そのファッションは金田一耕助で間違いありません。完全な『金田一コーデ』です。すぐ分かったよ」

B「あとな、ライバルに変装の名人の怪人がおるらしいねん」

A「じゃあ、金田一ちゃうか」

B「違います?」

A「違うよ。金田一にそんなライバルいてませんよ。それは違う探偵のことよ。他に何かない?」

B「若いころにアメリカに渡ってな、麻薬中毒になってた過去があるらしいねん」

A「やっぱ金田一よ。金田一耕助は、その渡米先のサンフランシスコで起きた殺人事件を解決して、それがきっかけで日本に帰ってくるんよ。金田一耕助です。間違いありません」

B「あとな、日本の名探偵の先駆けになった人らしいねん」

A「じゃあ、やっぱり金田一と違うか。金田一耕助は、たぶん日本で一番有名な名探偵ですけれど、先駆けという存在ではないんですよね」

B「あとな、『防御率』が低いことで有名らしいねん」

A「また、マニアックな用語が出てきましたね。君の言った『防御率』言うんはね、探偵が事件に介入してから解決するまで、何人被害者を出してしまったかを計る数値なんよ。確かに金田一耕助の防御率の低さは有名ですからね。探偵が遅すぎるんよ、あの人はいつも。逆千曲川ちくまがわひかるよ。きみのお母さんが言うてるのは、間違いなく金田一のことよ」

B「それと、有能な少年助手がいるらしいねん」

A「やっぱ金田一ちゃうな。それも違う探偵のやつです」

B「成城せいじょうに住んどる“Y先生”いう作家が、その名探偵の活躍を書いとるらしいねん」

A「金田一耕助です。“Y先生”いうんは、作者の横溝正史のことやね。金田一を実在する人物という扱いにして、彼から聞いた話を横溝正史が小説化したっていう設定になってるんよ、金田一シリーズは」

B「事件で知り合った女性と結婚したらしいねん」

A「金田一と違うな。彼が結婚したという事実は、作品を読む限り確認できませんからね」

B「あ、思い出した」

A「何を?」

B「オカンが読んでた小説な、芦辺あしべたくが書いた『明智あけち小五郎こごろうVS金田一耕助』やった」

A「もうええわ」

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