ナ○ツ風 江戸川乱歩漫才

A「この間、ヤホーを検索していたら」

B「ヤフーね」

A「凄い日本人ミステリ作家を発見してしまいまして」

B「誰ですか?」

A「皆さん、江戸川えどがわ乱歩らんぽってご存じですか?」

B「その人以上に凄いミステリ作家は日本にいないよ! 日本ミステリの父だぞ!」

A「江戸川乱歩は、大正12年に『二千円銅貨』でデビューしまして」

B「『二銭銅貨にせんどうか』だ! 何だよ『二千円銅貨』って! 当時の二千円っていったら凄い大金だよ! そんな額面の硬貨があるわけないでしょ! 今でもないのに」

A「以降、数多くの名作を世に送り出していくわけです。『赤いヘア』とかね」

B「『赤い部屋』だろ! 声優の野沢雅子のことかよ」

A「おめえらがそんなふうに、たいくつがどんなもんだがをよく知ってると思ってっからよ、オラは今夜この席に列して、オラのへんてこな身のうえ話を話そうと決心したんだぞ」

B「悟空を『赤い部屋』に連れてくるな! その人の身のうえ話っていったら、とんでもない事件ばっかりだぞ!」

A「この作品は『シンギュラリティーの犯罪』を扱った傑作と言われているんですよね」

B「『プロバビリティーの犯罪』だ! 時代を先取りしすぎでしょ」

A「あとは、『路地裏の散歩者』」

B「『屋根裏の散歩者』だ! 路地裏を散歩したって全然まともだよ。郷田ごうださん、どうぞ好きなだけ散歩してくれって話ですから」

A「他には、『押尾と旅する男』」

B「『押絵と旅する男』だ! 押尾コータローの全国ツアーに帯同するスタッフの話か」

A「それと、『空気椅子』」

B「『人間椅子』だよ!」

A「人間が椅子になるっていう、恐ろしい話でね」

B「人間が椅子になるって、そういうことじゃないから! 空気椅子は、膝を曲げてあたかも椅子に座っている体勢を維持するっていう、きついやつでしょ」

A「(空気椅子の体勢をしながら)『奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様な無躾な御手紙を、差上げます罪を、幾重にもお許し下さいませ……』」

B「空気椅子をしたまま、あの手記を全部読み上げるのは無理でしょ」

A「『ちょっと法師』も好きですね」

B「……『一寸法師いっすんぼうし』のことね!『一寸』を『ちょっと』って読んじゃったのね! ていうか、『一寸』を『ちょっと』と読むほうが難しいよ!」

A「あと、忘れちゃいけないのは、『少年探偵団シリーズ』ですよ」

B「そうですね。現在でもオマージュ作品が作られ続ける、日本文学史に残る名シリーズです」

A「小林少年率いる少年探偵団と、小五郎こごろうのおっちゃんが活躍する――」

B「明智あけち探偵の呼び方! それだと別の少年探偵団のことになるだろ!」

A「戦う相手が、怪人二十面相ですよ」

B「こちらも文学史に残る名悪役ですね」

A「企てる犯罪が、また恐ろしくて、『どくいり きけん』というラベルを貼り付けた青酸入りチョコレートをばらまいたり――」

B「それは、グリコ・森永事件の『かい人21面相』だ! 若い人は知らないよ!」

A「多重解決ミステリの嚆矢こうしとも言われていて――」

B「それは、アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』だ! 二十面相は毒入りチョコと関係ないの!」

A「二十面相が、毎回色々な怪人に扮するのも魅力的でしたね」

B「子供心をくすぐられますね。少年探偵団ものに限らず、乱歩作品には大勢の怪人が出てきます」

A「ええ、僕が好きな怪人はですね、『青銅の魔人』『妖人ゴング』『暗黒星』『黄金仮面』『影男』『蜘蛛男』『死神カメレオン』『テレビバエ』『カブト虫ルパン』――」

B「待て待て! 最後のほう、仮面ライダーに出てくるほうの怪人になってるから。それと、『テレビバエ』とか『カブト虫ルパン』が好きって。マニアックすぎでしょ」

A「『テレビバエ』って、いいですよね。今の時代に復活するなら、『インスタバエ』ですか?」

B「『テレビバエ』の『バエ』って、その『映え』じゃねえよ。テレビと昆虫のハエの合成怪人なんだよ」

A「『カブト虫ルパン』もいいですよね」

B「あらためて考えると、凄い取り合わせですね」

A「乱歩作品に、少年探偵団もので『赤いカブトムシ』っていうのがありますし、『黄金仮面』にルパンも出てきますから、乱歩作品にインスパイアされて石ノ森いしのもり先生が生みだした怪人なんでしょうね」

B「それはないから。というか、カブト虫ルパンの誕生に、石ノ森章太郎しょうたろう先生、多分関わってないよ」

A「ちなみに、『黄金仮面』は『秘密戦隊ゴレンジャー』に同じ名前の怪人が出てきます」

B「特撮の話は、もういいって。乱歩の話題は!」

A「少年探偵団は基本、子供向けのシリーズにしか出て来ないんですけれど、団長の小林くんだけは、大人向けの作品にも登場するんですよね」

B「そうです。小林少年こと小林芳雄よしおは、明智小五郎の助手として、大人向けの作品に登場したのが先なんですよね。で、乱歩が子供向けの作品を書くことになって、そこで結成された少年探偵団の団長に抜擢されたんです」

A「大人顔負けの大活躍でしたよね……『そうか! 地獄の道化師の正体が分かったぞ! ようし、この腕時計型麻酔銃で小五郎のおっちゃんを眠らせて――』」

B「そんなシーンないから! それはもう、小林くんのほうが主役じゃねえか!」

A「目羅めら博士の作った蝶ネクタイ型変声機を使ってね」

B「目羅博士、そんなキャラじゃねえよ。人殺しだから」

A「こんなに凄い乱歩なんですけれど、実は、やらかしたことがありまして」

B「ああ、あの話ですね」

A「昭和8年に書き始めた『悪霊』という作品は、三回目を最後に連載が途絶してしまったんですね」

B「乱歩自身も無念だったでしょうね。乱歩は休載にあたって、『いつか稿を改めて発表したい』とお詫びの文章を掲載しましたが、結局続きが書かれることはなかったんですよね」

A「それに比べたらね」

B「何ですか?」

A「『次がシリーズ最終作』と宣言しておいて、最後のシリーズ作品刊行から七年以上(2019年現在)経った今でも、まだその『最終作』を発表していないことくらい、全然大したことじゃないですからね」

B「いきなり、誰を引き合いに出してるんだよ!」

A「せめてタイトルだけでも公表しておかないと、『〇〇館の殺人』ていう、めぼしい名前を誰かに先に使われてしまいますよ!(カメラに向かって)」

B「呼びかけるな! 失礼だろ!」

A「あと、乱歩といえばですね。『怪奇と幻想』というイメージが強いと思うんですけれど」

B「ええ、そうですね。有名な、乱歩のキャッチフレーズともいえる言葉もありますしね」

A「『うつし世はゆめ、夜のゆめみてねごと』」

B「『夜のゆめこそまこと』だ! それだと、現実逃避して夢を見てねごと言ってるだけでしょ! 駄目すぎるよ」

A「あまりにはっきりとしたねごとなので、そばにいる人が返事をすると、それにまた答えを返すというね」

B「それは『夢遊病者の死』に出てきた彦太郎ひこたろうだ」

A「とにかくですね、僕は乱歩は『怪奇と幻想』だけじゃないと言いたいんですよ」

B「そうですね。乱歩本人としても、ロジカルな本格ミステリ作品のほうも、もっと評価してほしいと思っていたでしょうね。乱歩はデビュー作の『二銭銅貨』の他にも『何者』とか、『恐ろしき錯誤』とか、優れた本格をたくさん書いているんですけれどね」

A「現代でも、凄い本格ミステリをたくさん書いてるのに、学園ホラーが代表作の作家とかいますからね」

B「誰のことを言ってるんだよ」

A「こんなに凄い乱歩、その影響力は国内に留まらないんです」

B「ええ、海外にもファンは大勢いるでしょう」

A「僕ですね、お前、乱歩のこと好きすぎだろ、って海外作家も見つけてしまいまして」

B「誰ですか」

A「エドガー・アラン・ポーっていう――」

B「おい!」

A「お前、そのペンネーム、絶対江戸川乱歩から取っただろって――」

B「逆だ! 逆! もういいよ」

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