Episode04 鎧騎士(2)
両者が突進する。
重装備のはずなのに鎧騎士の動きには一切の乱れがない。
鍛錬された剣士の動きだった。
無駄のない動きは滑らかで、敵であるにもかかわらず冬夜たちは目を奪われていた。
対する真白の動きは躍動的で、檻から放たれた猛獣のように生き生きと戦いを楽しんでいるようだった。
戦士と剣士の戦いは
互いに最後の一手に欠ける。
そう思っていた。
鎧騎士は片手剣。
打突の構えからの直線的な突き。
それに加えて魔法を放つ。
「まさか!?」
「あれだけの剣技に加えて魔法まで」
周囲が驚きの声を上げる中、
「面白い!」
劣勢に追いやられているはずの真白は笑う。
何が楽しいのだろうか。
冬夜には、真白の気持ちが分からなかった。
ヴァンパイアとしての本能が、真白を駆り立てるのだろうか。
爛々と目を輝かせる真白は、目の前の鎧騎士しか見えていないようだ。
鎧騎士も真白の相手だけで手一杯だろう。
その隙に上層へ向かおうとしても鎧騎士の愛馬――ユニコーンが行く手を阻む。
もしかするとここまで考えて……はいなかっただろうけど、結果としてきちんと役割を持ち、果たしていた。
…………
……
…
真白は思考を巡らす。
目の前の敵が剣だけでなく魔法まで使ってきた。魔法剣士と言うヤツだ。
ただでさえ強いのに面倒な事この上ない。
ただ――最高に
ヴァンパイアとしての本能が叫ぶ。
目の前の敵を叩き潰せと。
視野が狭くなっていく。
悪い癖だ。戦いが長引くとどうも周囲への配慮が駆けてしまう。
気が付けば、今まで戦っていた場所がさら地、なんて事もざらにあった。
視線の端で冬夜たちがユニコーンと
大丈夫そうだ。
「よそ見とは余裕だな」
舌打ち交じりに鎧騎士が一閃。
反応が遅れた。
辛うじて直撃だけは避ける。
すぐさま追撃の魔法が飛んでくる。
片手を着いて強引に身体を捻り、飛んできた火球を回避。
着地時に生まれた僅かな隙に雷撃が飛んでくる。
「ちっ……」
髪が数本焼け落ちた。
魔法の選択も絶妙だ。戦況に最も即した魔法を扱う。
さらに嫌なタイミングで撃ってくる。
戦闘スタイルは、魔法剣士として完成されていた。
微塵の隙もない。
だが、真白は笑っていた。
強者との戦いに心躍っていた。
素早く身を沈め、拳を握りしめる。
一気に叩く。長期戦は不利と考え、敵がこちらの動きを完璧に捉える前に勝負を決めたい。
フッと息を吐くと、真白は全身のバネを使って突進する。
妖力を身体強化に当てている分、真白の方が接近戦になれば分がある。
相手の土俵で戦う必要はない。
多少強引にでも自分の土俵に相手を引き摺り込む。
そのための一手。
鎧騎士は最善手を打つ。必ず。
懐に飛び込めば、間合いに近づけまいと対応せざるを得ない。
剣での迎撃は悪手。
モーションが大きく、真白であれば
となれば魔法での迎撃。
直線的な魔法では見切られてしまう。回避不能な一手。全方位魔法。それが鎧騎士の取る最善手。
「《
鎧騎士を中心に、放射状に雷が飛ぶ。
それでも真白は、勢いを殺すことなく突っ込む。
魔法に突っ込む。これは悪手だ。しかしあえて悪手を選ぶ。
目の前で雷が弾ける。
視界が白く染まった。
瞬間、身体を文字通り電気が走った。
真白に秘策なんてありはしない。ただの我慢。やせ我慢である。
止まることなく前進、活路を開く。
鎧騎士は真白の取る行動を何十手も思い浮かべていたのだろう。
しかし真白は、その予測を裏切った。
真白はあえて攻撃を受けた。
顔は見えないが驚いていたことだろう。一瞬――刹那にも満たない戸惑い。それだけあれば充分だった。
迷いはない。
冷静沈着に相手を仕留める。
「終わりだ」
全ての妖力を脚へと集中させる。
確実に仕留める。確固たる意志を持った蹴りが炸裂する。
硬い
…………
……
…
強烈な蹴りを喰らった。
バカみたいに一直線に突っ込んできたヴァンパイア。
さすがに一瞬動きが止まってしまった。
まだ詰めが甘かったか。反省反省。
そもそもこの
今更だけど戦い辛い。
なんでこんなデザインなんだ? 誰だこんな
ようやく視界が定まってきた。収束される世界の中で、
「私に一撃入れたこと、誇ってよいぞ」
いかにも強キャラ感を
知り合いの声優さんに教えて貰った、強キャラ
(めちゃくちゃ痛い。怪力女め! 絶対に許してやるものか!!)
耳もキーンと鳴っている。
よく聞こえないが周囲が騒がしい。
怪力女の仲間がなにやら騒いでいる。
悲鳴にも似た声が飛んでいる。
視界がクリアに。
ん? なんだ? 視線がおかしい。
やたらと低いのだ。足しか見えない。
対峙しているはずの怪力女も……脚が伸びていてギリギリ胸元くらいまでは仰ぎ見ることが出来る。
仰ぎ見る?
私の頭は地面に転がっていた。
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