Episode02 真夏のビーチとケモノっ娘(1)

 知らない天井。

 それもそのはず、そこはホテルの一室だった。

 空港での騒動ののち、冬夜は宿泊予定のホテルに運び込まれた。

 そのままベッドに放り投げられた、らしい。

 そして今に至る。


「表に出ろ」


 あれ? ケンカ売られてる?

 ……――冗談はほどほどにして。

 児島先生が外に出ろと誘ってくれている。


「なかなかの絶景だぞ」


 冬夜は首を傾げた。


 …………

 ……

 …


「絶景かなぁ~!!」


 おどけた調子で児島先生が言う。


 雲一つない青空に、降り注ぐ太陽。

 じりじりと肌を焦がす太陽の陽射しすら今は心地好く感じる。

 永遠に続く白い砂浜に、飛び交う黄色い声。

 はしゃぐ声が幾重にも重なる。

 そこいらのオーケストラ以上に心地好い音色。

 幸せ――至福の一時。


 肌色の面積が! 面積がッ!!

 ナツダ島の売りの一つ。ビーチ。

 早速女性陣は水着に着替えて、波打ち際でキャッキャウフフと遊んでいる。

 眼福です。

 思わず拝みそうになる。


「冬夜~!!」


 手を振る希望は黒のビキニ姿だ。

 胸がいやでも強調され――すっごい揺れる。

 お尻なんかもキュッキュッと左右に――さらに、引き締まった腰がなんとも……、もはや全身凶器だ。


 彼女はただ歩いているだけだというのに、悩殺寸前だ。

 自身の劣情にブレーキ。


 少し恥ずかしそうに、真白が尋ねる。


「冬夜くん……どうかな?」


 普段もスタイルいいな、なんて事思ったりもしていたが、今、視線の先に素のままのプロポーションが存在していた。そうそうお目にかかれるものじゃない。


 透き通るような白い肌に白いビキニ。まるで彼女の清廉さを現しているようだ。

 そしてあえて下半身をパレオで隠すことで、彼女の恥じらいまでもが加味されて、けしからんです(意味不明)。


「……やっぱり変かな?」

「むしろ最高です!」


 もはや答えになっていない。

 真白も首を傾げている。


 希望の背中に隠れていた登丸先輩が顔を出す。

 普段は全身長いローブで隠しているから分からなかったが、モデル並のスタイルだ。そんじょそこらのモデルより、よっぽど均整が取れている。

 しかし、水着姿はお預け。

 恥ずかしいのだろう。Tシャツを上から着ているのだ。

 だがむしろ水に濡れて透けた水着のチラリズムが……、


(平凡設定なのを忘れて興奮してしまった。いや、平凡だからこそ興奮するのか? なんだか一周回って落ち着いてきたかもしれないぞ)


「ねぇ冬夜、誰の水着が一番似合ってる?」


 胸を強調したポーズで希望が尋ねる。

 言いよどんでいると、


「冬夜くんはどんなのが好みなの?」

「………………どうなの?」


 登丸先輩まで!?

 これはきちんと答えなくてはいけないパターンだ。

 三人の視線がイタい。


「おいおい、皆月が困ってるだろ。みんな仲良く遊べよ」


 児島先生に、三人は「はーい」と元気に返す。


「さ、行こう」


 希望が積極的に手を取り引っ張る。

 もう片方の手を真白が握る。

 そして後ろから登丸先輩が身体全体で押すように――当たってる!? なにとは言わないが、とにかく当たってる!!?


 児島先生の遊ぶ発言が、イケナイ妄想に流れて行きそうになる。

 大変な苦労をして意識を保った。

 心臓に悪いことこのうえない。

 しかし、これは一生の宝物だ。

 脳内ハードディスクにしっかりと記録した。


 とは言え目のやり場に困る。

 さすがに慣れてはきたものの、少しでも意識してしまうとどうにもならない。


 それを分かってか、希望は扇情的な動き――もはやポーズをする。

 きっと、顔が朱くなるのを楽しんでいるのだろう。

 その証拠に希望はエスカレート。


「あはん……うふん」


 と声までつけだす始末。

 だが所々古いのはなんだか笑える。


「ぼ、僕飲み物買ってくるよ」


 これ以上は耐えられないと、その場――戦線を離脱する。

 俺の分も、と児島先生が言った気がしたが、気のせいということにしておこう。


 思いの外買い物に手間取った。

 観光地での買い物はいやでも列に並ぶことを余儀なくされる。


「結構時間かかっちゃったな」


 みんなのいる場所に戻ると、そこには楽園そのものの光景が広がっていた。

 波打ち際で美少女&美少女が戯れている。

 目に映る素敵なもろもろを、享受することに努めよう。


「そーれ!」


 真白が明るい声で、ビーチボールを手で軽く打つ。

 ボールは弧を描いて登丸先輩へと飛んでいく。


「あっ、えっ? わ、私ですか!? は、はいっ! 行きます!!」


 わたわたしながらも、きちんと打ち返す。

 狙ったのか、それとも偶然の産物か、ボールは綺麗な山を描いて――希望の方へと飛んでいく。


「今度は私の番ねッ!!」


 大きく振りかぶって打ち込む――アタック。


「きゃっ――!!?」


 真白は身を屈めて希望のアタックを回避。

 その後ろにいた冬夜は反応が遅れた。

 顔面に直撃。

 いくらビーチボールでも、痛いものは痛い。

 仰向けに倒れてしまう。

 買ってきたばかりの飲み物の容器が転がる。


 フタがついてるの買ってきてよかった。

 大惨事にならずにすんだことに安堵する。

 みんなが心配そうに駆け寄ってくれる。


「のぞきちゃん! 強く打ちすぎだよ」


 なだめるように言う


「それは真白が避けるからでしょ!?」

「あんなの誰でも避けるよ!?」

「二人ともその辺で……」


 口論しているものの、どこか楽しげである。


「スイカ割りするぞお前ら」


 まったく冬夜を労る素振りも見せず、児島先生はスイカを抱えたまま言う。


「「「スイカ割り!?」」」


 女子三人の興味は、スイカ割りに移行。

 鼻の頭を赤くしている冬夜は放置――置いてけ堀。


 ……まあ、いいか。みんな楽しそうだし。

 砂を払いながら立ち上がり、スイカを囲む輪の中に加わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る