Episode05 警備局と暴かれた秘密(5)

 ガチャ――


 ドアノブが回る。

 そのまま押し込み扉を開ける。


 そこには黒い制服を身に纏った生徒が数十人。


「ここにいるのは全員公安調査部の者で間違いないか?」


 ちょっとした確認だ。

 無関係の者を巻き込むわけには行かない。


 柄の悪い生徒がたむろしている。

 学園の治安と秩序を護る集団とは思えない。

 そうした崇高な思想や理念といったものは、とうの昔に形骸化してしまっているのだろう。


 全員が特注の黒い制服に袖を通している。


(問題は無い)


「虚無の世界に招待しよう」


 室内――建物そのものを魔法陣が覆う。


「眠れ」


 その言葉をトリガーに魔法が発動する。

 瞬間、室内に静寂が訪れる。


 扉を開けて、


 あれ? と首を傾げながら児島先生が入ってくる。

 気怠そうに、


「もう終わったのか?」

「ええ、先生はこちらに何のご用が?」

「いやな、俺のかわいい生徒たちに、いろいろやってくれたみたいだからさぁ。お仕置きしにきたんだが……無駄足だったみたいだな」

「ええ、こっちは俺一人で充分でしたよ。残すは風紀委員会です」

「あ、そっちはもう片付けといたから――教育的指導」


 淡々と言う児島先生。

 流石、と言うべきか。

 迅速な行動だ。


「おい、これ! お前についての調査報告書だぞ」


 迅速な行動。

 早速、公安調査部の資料を漁っている。


「これは……」



【黒野忍 調査報告】


 怪奇学園 二年一組 

 種族分類 魔法使い


 監視対象は我々の知らない魔法を使用。

 魔法そのものの構造に相違点あり。

 監視対象は、こちらとは――



 手にした報告書を魔法で裁断、焼却。


 何故……


はいずれバレるものだぞ」


 この人も侮れない。

 何処まで知っているのか悟らせない。

 しかし、敵意は無いので現状は放置。


「先生も、いつまでその身体のことを黙っているつもりですか?」

「何のことかね?」

「語尾がおかしくないですか?」

「そんなことはないさ」


 そう答える表情はいつもと変わらない。


「では、後始末はよろしく頼みます」


 …………

 ……

 …


 黒野に言われて来てみたはいいが……もうすべて終わってない?

 警備局に来てみれば既に局員は伸びているし、局長の九天も白目を剥いている。


 マジで無駄足じゃねぇか! 

 イライラする気持ちを納めるために煙草に火をつける。


 ボッ――


 それにしても煙たいな。

 土埃が舞っている。

 かなりの規模で戦闘が行われたようだ。


 ん? 嫌な予感。


 後始末。

 黒野の言葉を反芻する。


 あ……

 気づいた時には遅かった。

 

 粉塵爆発。


 高熱、爆風、爆音。

 それらすべてが襲ってきた。


 倒壊した社――警備局。

 瓦礫を押しのけ、地上へ出る。


 やってくれたな小僧。

 今度会ったらただじゃおかねぇ。


 そしてもう一本煙草を手に取り火をつける。

 粉塵爆発に怯えながら――


 …………

 ……

 …


 怪奇学園保健室。


 純白のシーツがその清潔さを物語る。

 冬夜はベッドの上で目を覚ました。


 身体を起こすと希望が抱きついた。

 冬夜は支え切れずにそのまま倒れてしまう。


 希望は冬夜の胸に顔を埋めて、


「よかったよ~」


 大粒の涙を零した。


 困った様子で辺りを見回す。


「の、のぞみちゃん!? ち、ちょとぉ……」

「冬夜……くん」

「真白さん?」


 希望とは反対側から抱きつく。

 冬夜は更なる混迷へ。


「真白さん!? 二人ともどうしたの!?」


 よかった。

 一言告げて、そっと抱きしめる。


「登丸先輩まで!?」


 冬夜が混乱を極める中、窓の外――木の上。

 全身黒ローブの男は、室内の様子を楽しげに眺めていた。


「いいなぁ……ぼくちんも皆と一緒に楽しみたいのだー」

「変なセリフあてないでもらえますか」


 冷静に切り返す。


「でも実際のところ、それがお前の本心だろ?」


 否定はしなかった。

 肯定もしなかった。


「一緒にいない方が皆のためですよ」


 ハハと鼻で笑うと、


「お前のため、の間違いだろ」


 自分の気持ちを押し殺してでも成し遂げなくてはならないことがある。

 そんな使命を授かってしまったがために自分を捨てた。


「そんなズケズケ突っ込んでいたら嫌われますよ」

「もう半分嫌われてるよ」


 男二人は自嘲気味に笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る