Episode05 警備局と暴かれた秘密(3)

 冬夜が連れてこられたのは学園からほど近い場所にある社だった。その地下。

 そこはまるで監獄だった。

 鉄格子の檻が幾つも並ぶ。

 その中には人が――妖怪がひどい扱いを受けているのが見て取れた。


「貴様はここに入っていろ」


 放り込まれた檻には先客がいた。


「お前……皆月か」


 横たわる男から声がかけられた。

 田臥だった。かつて冬夜と真白を襲った男。


「九天――ッ!!」


 檻の外にいる存在を見つけると、飛びかかるように腕を伸ばす。

 九天に届く前にその腕は焔によって阻まれ、田臥を焼き尽くす。


「がぁあああああっ!!?」

「下等妖怪が私に刃向うな」


 田臥を瞬殺。

 九天の正体は分からないが、その強さは本物だ。


「処刑の準備が整うまでここで待機だ」


 言い残して九天は去っていった。


 …………

 ……

 …


「出ろ」


 冷たい声。


 どれだけの時間が経っただろうか。

 檻の中という環境がそう思わせるのか、随分と長い時間ここにいる気がする。


 そんなことを考えても意味はないか……

 もうすぐ殺されるのだから。



 処刑場。


 何もない。

 窓のない部屋。

 多目的ホールのようなものか? 学校という性質上そういう部屋があってもおかしくない。

 その部屋を警備局が私物化しているのかもしれない。


 その部屋で冬夜は対峙する。

 九天茜という絶対的強者と。


「なんでこんなことを?」

「こんなこと?」

「人間だとか妖怪だとか……そんなこと関係ないのに」

「関係ない、だと? 下等生物がほざくな」


 てのひらに焔を生み出す。

 次第に大きさを増す焔は、瞬く間に冬夜の顔ほどの大きさの塊になる。


「消えなさい」


 死の宣告。


 焔が迫り、爆発する。


「フッ……邪魔が入ったか」


 爆煙は晴れると、冬夜に覆いかぶさるようにして爆発から守る希望がいた。


(のぞみちゃん!?)

 

 驚きのあまり声も出ない。

 いや、違う。直撃でないだけでダメージはある。

 そのダメージで喋ることができないだけだ。


「冬夜は私が守るから。例え人間でも」


 その言葉からは強い意思を感じた。


「冬夜くん! のぞみちゃん!」


 真白と登丸先輩の姿が見える。


「冬夜さんを早く。時間は私が稼ぎます」

「登丸紗月、貴女は賢い奴だと思っていたが……これは極刑ものだぞ。死になさい」


 焔と魔法陣とがぶつかる。


 轟。


 辺りに吹き荒れる風が、二人の戦闘の激しさを物語る。


「冬夜」

「冬夜くん」


 逃げよう、二人はそう言おうとして押し黙った。

 冬夜は動きたくても動けないのだ。


 紅蓮よりも白に近い焔が広がる。

 焔の海の中心に退屈そうに首を回す人影が一つ。


 すぐ近くには登丸先輩が膝をついている。

 息も荒い。


「興が冷めた」


 九天が退屈そうな調子で告げる。


「そろそろ死ね」


 放たれる焔。

 迫りくる焔は、冬夜、真白、希望をまとめて始末できるだけのものだった。


 咄嗟に身体が動いた。

 真白と希望、そして放たれた焔の間に飛び込む。


 炸裂する焔。


 冬夜の身体は焔に包まれた。


「冬夜くん!?」

「冬夜ッ!?」


 真白と希望か駆け寄るも、既に九天の焔がすべてを奪い去っていた。


 …………

 ……

 …


 九天の放った一撃は、間違いなく冬夜の命を奪った。

 人間があの焔に堪えられるはずがない。


 占いで見た未来が現実のものとなってしまった。

 人間だけど、大切な後輩だ。

 もともと戦闘は得意とはしていないが、これ以上やらせるわけには行かない。


「雷鳴を轟かせろ――《稲妻の一撃ライトニング》」


 魔法陣を複数展開。

 四方から青白い光が飛ぶ。

 回避不能の一撃。


「くだらん」


 腕を振る。

 焔が九天を包む。

 まるで焔を羽織ったかのようだ。


「感情的になっていないか?」

「…………手強いですね」


 劣勢なのは言うまでもない。

 後輩達を逃がす時間を稼ぎたかったが、無理のようだ。

 全勢力傾けてようやく足止めできるレベルか?


 詠唱破棄。

 水系統の魔法を中心に、ありったけの魔力を注ぎ魔法陣を展開。


 火系統には水系統。

 魔法の法則が当てはまるのか不明だが、むやみやたらに魔法を放つよりはマシだろう。


 激流を生み出し、放つ。


 対して九天は、青白い焔を新たに生み出す。


 激突。


 辺りを水蒸気が包む。

 高熱によって登丸の放った水流は蒸発させられた。


「終わりか?」

「……まだっ」


 宙に魔法陣を描く。

 発動するより早く押し倒される。


 首を絞める手に力がこもる。


「ん?」


 いつの間にか九天の身体を、腕の太さ程もある蔦が幾重にも絡まり合い締め上げていた。


「幻術の類いか」


 妖力を放出。

 先程まで九天を締め上げていた蔦は霧散していた。


「そんなっ!?」

「サキュバスか……少しは楽しませてくれるんだろうな?」


 戦闘狂相手に真っ向勝負は分が悪い。


 九天を止めるだけの力はもう残っていない。


「希望さん――っ!?」


 間に合わない。


 けれども九十九の攻撃は希望に届かない。


「随分好き勝手やってくれたな」

「……真白」

「真衣さん!?」


「真打ち登場か?」

「貴様を許すつもりはない。覚悟しろ」



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