Episode04 もう一人の部員(3)
締め切り間際で大変な問題が発生した。
割り当てられたページ数が間違っていたのだ。
このままいくと一人分のページ数が白紙のまま刊行されることに……なんとかしなくては。
取り敢えず、図や写真を入れて一人頭のページ数をかさ増し。
後は削った情報を再度書き足す。
これで何とか……ならなかった。
どうしよう。
希望は原稿そのものが書けていない。
加えて他の部員も大幅に書き換えが必要。
そんな状況の中、
「ごめん。私ちょっと用事がって」
希望は部活を休んだ。
――締め切りまで5日。
…………
……
…
どうしようコレ……
希望は手に持った封筒を見つめる。
差出人は
知らないな――正確には覚えていない。
封筒の中の手紙には、
好きです。早く会いたい。
君のことを考えていると胸がギュと締め付けられるようです。
約束のデートの日を待っています。
約束のデート? 希望には心当たりが……あった。
というより心当たりが多すぎて、誰とどんな約束をしたのか覚えていない。
冬夜と出会う少し前。
希望は誰彼かまわず誘惑していた。
真白に対抗して男子生徒を手当たり次第、片っ端から誘惑していた。
その際に、デートをしてあげる、なんてことを口走った気がする。
しかもそんな事を言った相手は、両手の指じゃ足りないほどの数がいた。
しかし問題はそこではない。
ここまでなら、過去の過ち程度の事しか思わない。問題は同封されていた写真だった。
完全なプライベートショット――盗撮写真である。
手紙にはPSとあり、
放課後、校舎裏で待っています。独りで来てください。
と続いていた。
(コレって完全なストーカーじゃん)
心配を掛けまいと、誰にも見られないよう一日鞄にしまって過ごした。
放課後。
人間研究部の活動に参加。
冬夜と一緒にいられるだけで希望の幸福中枢は満たされた。
幸福感に満たされると同時に手紙の存在をすっかり忘れてしまっていた。
翌日。
下駄箱に封筒。
(ラブレター?)
差出人は土田――、
その先は見なくとも分かった。
完全に忘れてた。
手紙を読むと、約束を破るだなんて、と怒っているのが嫌というほど伝わってきた。
そして今回も写真が同封されていた。
また盗撮写真か……って違う!!?
写真は希望のセクシーショット。
簡潔に言えばエッチな写真だ。
女子更衣室での着替えシーンに、希望の自室での写真もある。
さすがに気持ち悪い。
加えて手紙の最後には、この写真をばらまかれたくなかったら校舎裏に来い、と書かれていた。
最早これはラブレターなどではない。脅迫状である。
冬夜にこんな写真見られるわけにはいかない。
自分で見せるのであれば兎も角、隠し撮り写真を見られるなんて恥ずかしすぎる。
「ごめん。私ちょっと用事がって」
希望は部室を出る。
「ちょっと、希望ちゃん!? 締め切りは……」
真白が呼び止める声がしたが、希望は振り返らなかった。
これは自分の問題だ。自分の手で解決する。
みんなの手は借りない。心に誓い、希望は校舎裏へと向かった。
…………
……
…
校舎裏。
「やぁ、待ってたよ。手紙と写真見てくれてないのかと思って心配したよ……でもまた会えてうれしいなぁ。久し振りだね、のぞみちゃん」
顔を見てもどこで会ったのか思い出せない。
「だ、誰よ!? アナタ……こんな写真使って私を呼び出すなんて!?」
「可愛く撮れてるだろ? ぼくのお気に入りの秘蔵コレクションなんだよ」
ハァハァと息を荒げるさまは、生理的に拒絶したくなった。
「覚えていないかい? ぼくたちの運命の出会いを……」
どうしよう全然覚えていない。
運命の出会いって何だ?
「ぼく……ずっと待ってたんだよぉ」
ジリジリとにじり寄って来る。
なんだか肌質とかもドロドロ? してる。
妖怪としての性質? なのかな?
どちらにしても生理的に受け付けない。
「さぁ、約束通りデートしよう。のぞみちゃん……でないとあの写真ばらまいちゃうよ?」
これは付き合うしかない。
希望は意を決して土田とのデートに臨む――
……でもコレって……デートじゃなくない?
「これはコスプレ撮影だよ!!」
興奮気味の土田が鼻息荒く言う。
「のぞみちゃんのブルマ姿最高!! 最高だぁぁあああ」
土田はシャッターを切り続ける。
流石に引いちゃうわ……
「もっと笑ってぇ~」
「笑えって……そんなの無理に決まってるでしょ! 無理やり付き合わされているんだからッ!!」
「そんなこと言ってもいいのかなぁ?」
「うっ……」
完全に主導権を握られてしまっている。
弱みにつけ込むなんて最低な男だ。
「それじゃあ、次はこの堕天使メイド服を着て!!」
土田の要求はエスカレートしていく。
いっそのことサキュバスの催淫能力で心を操ってしまおうか。
いやいや、それはダメだ。
そういう事は、冬夜に出逢ってからやめたんだから。
撮影会は続き……陽が沈む。
「もうあたりも暗くなっちゃったね。もう撮影は厳しいかな……」
残念そうに土田が言う。
ようやく解放された。
結局衣装チェンジ20回。さすがに疲れた。
希望は制服の着替えて部室へと戻る。
みんなまだやってるかな……
部活大変な時なのに勝手に抜けてきちゃったし……あやまらないとな……
人間研究部の部室には明かりが灯っている。
まだみんな頑張ってるんだ。
カララと静かに引き戸を開ける。
隙間から覗くと、殺気立ったみんなの視線。
みんな怒ってるぅ~~!!!
ガタンと冬夜が席を立つ。
「あぁ……お帰り、希望ちゃん。遅かったね。でも、今日はもう作業を切り上げたところなんだ」
みんなフラフラになりながら後片付けをしている。
「残りは明日にしょうって……希望ちゃんも、もう帰って大丈夫だよ」
ピシャッと扉が閉められる。
遅かった――……
みんなが帰った教室で一人佇む。
サキュバスの能力を使って人を虜にしてはいい気になっていた……
そんな自分が招いた事態。
バカな事をしたと悔いても遅い。
でも、明日からはちゃんとみんなを手伝える。
汚名返上――名誉挽回。今日休んじゃった分も頑張らないと!
「おやおや? どうしたの?のぞみちゃん。今日は楽しかったねぇ~。明日もよろしくね。くふふふふ」
背後にストーカー。
「土田くん!!? どうしてここに? 明日はダメだよ。それに今日、付き合ってあげたじゃない!」
「釣れないなぁ、のぞみちゃん。そんなこと言うのなら今日撮った写真、冬夜君に見せちゃうよぉ?」
そんな――ッ!?
これじゃ、いつまでたっても……
「明日も僕と遊ぶだろ? もう誰にも渡さない。のぞみちゃんは、ぼくのものだッ!」
「明日もだなんて……も、もう私に付き纏わないでッ!」
希望は部室を飛び出した。
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