Episode04 もう一人の部員(1)

 人間研究部の活動は基本的に自由で、部員各々が好きなことを研究する。

 希望は、人間界のファッション&料理を研究することを早々に決めたようだ。


 冬夜と真白は未だに研究内容を決めかねていた。


「人間の研究って言われてもなぁ……」


 人間である冬夜は、人間研究をする意義を見いだせずにいた。

 真白もまた冬夜にくっついて入部したくちであるために、やりたいことが見つけられずにいた。


「冬夜くんはなにを研究するか決めた?」

「いや、全然決まってないよ。どうしようかな……」

「なになに~? 冬夜も真白も、まだ研究テーマ決まってないの?」

「人間のことって言われても、大体のことは知ってると思うんだよね」

「冬夜って人間界のこと詳しいの?」

「え?」


 はたと気づく。

 親しくなって気にならなくなっていたが、希望はれっきとした妖怪である。

 あぶない。つい、真白と同じ感覚で話してしまった。

 正体が人間ということは秘密にしなければいけないのに。


 でも、もし正体が人間だとバレたら、希望や登丸先輩は今と同じように接してくれるだろうか?


 少し確かめてみたい気持ちに駆られるが、それと同時に知られたくないという気持ちも強くなった。


「冬夜くんは人間界育ちの妖怪だからね。アハハハハ――」


 真白は急いでごまかす。

 冬夜も真白のでっちあげた作り話に乗る。


「そうなんだよ。ずっと人間界で育ったから、今更知りたいこともないんだよ」

「私も少しの間だけど人間界にいたんだ。だから余計にいろいろ考えちゃって、全然テーマ決められないんだよね」


 二人ともわざとらしく頭を抱えて見せる。

 この言い訳は厳しかったか?

 冬夜と真白の心中は穏やかではない。


「……なんだ、そっか、二人とも人間界に行ったことあるんだね。いいな~、私も行ってみたいな、人間界」


 希望は人間界の旅行雑誌を広げて見ている。


(の、乗り切れた~)


 安堵のため息をつく。


「あっ! ココとかいい感じ! 冬夜と一緒に行きたいな~。コッチも行きたいかも!!」


 希望は冬夜とのデートプランを絶賛構想中である。


「人間界は……あぶない」


 最近、ようやく意思の疎通が取れるようになった登丸先輩が言う。

 冬夜からすれば妖怪の世界の方が何倍も恐ろしいのだが、魔女の見地からすれば人間界は恐ろしい場所なのだろう。

 詳しくは知らないが、魔女狩りなんてものが行われていた世界なのだ。魔女の登丸先輩にとっては妖怪以上に人間は恐怖の対象なのだろう。


「いや、登丸先輩の思っているほど人間界は怖い場所じゃないですよ」


 人間代表としてイメージアップを図る。

 しかし、


「私も人間界はあんまり……」


 真白までもが反人間界の立場を取る。


「みんな揃ってるな」


 児島先生は、室内の微妙な空気を気にすることなく話を続ける。


「そろそろ部誌に載せる研究テーマは決めたか?」


 部誌? 初耳である。

 児島先生は要点をはしょる傾向があるので、登丸先輩に向けて首を傾げる。

 登丸先輩はたどたどしくも一から部誌について教えてくれた。


 人間研究部の主な対外的活動が部誌の発行なのだそうだ。

 部誌には部員が研究したことを掲載。その形式はレポート・エッセイ……etc.

 特に決まりはないらしい。


 その部誌の、今年度第一回目の発行が間近なのだという。


 でも、確か部員は冬夜、真白、希望が入部するまで登丸先輩しかいなかったはずだ。

 まさか去年は登丸先輩一人で部誌を発行したのか? 尋ねてみると、登丸先輩は首を振った。


「部員はもう一人いるから……」


 どこか淋しそうな表情を見せる。

 何かあったであろうことは誰の目からも明らかであった。

 だからといって強引に聞き出すことも出来ない。

 もしかしたら聞かれたくない――トラウマなのかもしれない。


「これ、去年の部誌だ。お前ら、参考にするといい」


 粗雑に部誌を放ると、タバコに火をつける。

 部室でタバコを吸うな! などと注意できるはずもなく、たゆたう煙の中、冬夜は部誌を開いた――。

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