Episode03 人でもなく妖怪でもない(5)

 やっぱりというべきか、登丸先輩は複数の女生徒に囲まれていた。


「登丸先輩――ッ!!」


 冬夜の声に驚いたように顔をあげる。

 まるで自分を助けに来る存在などいない――予期していなかったという顔だ。


「先輩方、こんなところで何やっているんですか!?」


「何をって……ねぇ?」

「あなた達はコイツを庇うの?」


「当たり前です! 妖怪とか、魔女とか、人間とか、そんなの関係ない!! お互いの事を知らないから恐れてるんだ。自分たちとは違う何かを――でも違うのなんて当然なんだ。全く同じなんてありえない。でも、だからこそ個性があるんじゃないですか」


「知ったことか!」


 逆上した一人の女生徒が直情的に突っ込んでくる。


「短絡的だな」


 冬夜の前に出ると真白は脚を振り下ろす。

 女生徒の身体は激しく地面にたたきつけられ、その衝撃で地面には亀裂が走った。

 女生徒は白目をむいて倒れている。


「よくも!」


「なんだ? 続く言葉は「やってくれたな!」か? だがそれはこっちのセリフだぞ先輩」


 女生徒は全員で真白に飛びかかる。

 その隙に、冬夜と希望は登丸先輩の下に駆け寄る。


「立てますか登丸先輩?」

「…………」


 自力で立つのは厳しそうだったので肩を貸す。

 希望は嫉妬心を隠そうともしない。

 肩を貸してくれとは頼みづらい。

 仕方がないので、背におぶることにする。


 よっこらせ。

 先輩をおぶり、立ち上がる。

 すでに戦闘の決着はつき、先輩方は地面に転がっていた。


「帰るぞ」

「ちょっと待ってよ、真白さん」


 真白はこちらを振り返ることなく去る。

 ほんの少し怒っているように見えたのは気のせいだろう。


 …………

 ……

 …


「あの女……いや、人間研究部の奴ら……」


 気を失っていた女生徒たちが目を覚ます。

 復讐心を燃やしていると、


「ウチの可愛い部員に手を出してくれるなよ。小娘ども」

「児島……」

「教師を呼び捨てとは……――教育的指導が必要だな」


 すでに満身創痍まんしんそういの相手にも、容赦なく児島の教育的指導は行われた。


 次の日から人間研究部へのあからさまな嫌がらせはなくなった――


 …………

 ……

 …


 人間研究部に入部して数日が過ぎた。


 長机を挟んで、冬夜、真白、希望の三人は黒ローブ――登丸先輩と対峙していた。

 登丸先輩の隣には顧問の児島先生。

 腕組みをして、自分からは一切話さないと意思表示。

 仕方がないので、登丸先輩が話してくれるのを待つ。


 意を決したように登丸先輩がローブを脱ぐ。

 現れたのは長い黒髪に漆黒色の瞳。

 お姉さんといった印象を受ける。

 年上なのだからその印象は間違いないのだろうが……

 一学年上とは思えないほどのお姉さん力。


「…………」


 相変わらず声が小さい。

 もしかしたら声が小さい妖怪なのではないのか? と思うほどの徹底ぶりであった。


 身を乗り出して顔を寄せて来る。

 そして耳元で、


「……ありがとう」


 感謝の言葉が聞こえた。

 それが登丸先輩の声だと気づかずに声の出所を見てしまう。

 目と目が合う。

 近い――!!

 顔が熱くなっているのが分かる。


 登丸先輩も潤んだ瞳を逸らす。

 いやでも互いを意識してしまう。

 目を逸らしていた登丸先輩が急に――驚いたように冬夜を見る。


 児島先生が、


「改めて、この人間研究部の部長を務めている登丸紗月とうまるさつきだ」

 

 気を逸らすかのように、話に割って入ってくる。


 怪訝な表情で児島先生は登丸先輩を見ていた――


 …………

 ……

 …


「何か見たのか?」


 その問いに登丸はコクンと首を縦に振る。


「何を見た」


 更に追及すると、


「彼――皆月冬夜は近いうちに死ぬ……」


 間を置いて、


「半端者の占いにすぎないですけど……」


 と続ける。


 しかし、的中率100パーセントを誇る登丸の占いは、既に予知の域に達している。


 避けられない未来は確実に近づいている――。

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