Episode03 人でもなく妖怪でもない(4)

 こんにちは。

 背後からの声に、反射的に挨拶を返す。


「あなたは……」


 昨日声をかけてきた上級生であった。

 なにをお世話になった訳でもないが「昨日はどうも」と頭を下げる。

 そのまま立ち去ろうとすると、


「待ちなさい」


 呼び止められる。

 振り返ると、そこには大きく手を――翼を広げた女生徒。

 妖怪としての本性を現した女生徒は上半身は人間、下半身は鳥という半人半鳥という姿だった。

 妖怪のことに疎い冬夜は、


「鳥人間……リアル鳥人とりじんか!?」


 人気漫才コンビの漫才を連想。

 しかし、妖怪にもプライドはある。


「鳥人などという名前ではない。姑獲鳥うぶめというれっきとした名前がある」


 鳥人発言は、姑獲鳥先輩の逆鱗に触れたようだ。

 ちなみに、姑獲鳥は妖怪の名前であって女生徒の名前ではない。


 妖怪の世界は多種多様な妖怪がいると同時に、名前のない妖怪もいるのだという。そんな中で名前を持つ妖怪というのは一種のステータスになるらしい。

 血統書つきの犬猫のようなものなのだろう。


 まあ、血統書つきの飼い主で他人からおたくは雑種? と尋ねられれば「違う」と答えるだろう。

 そのように考えると、申し訳ない気持ちが沸いて来る。


 しかし、謝ろうにも既に鋭い爪が迫っていた。

 飛び掛かるその姿は、獲物を前にした鳥そのものである。

 目つきが既に人間(変化時)の時のものとは違っている。

 鋭い眼光に射抜かれてしまうと身動きが取れなくなった。


 真白と希望は互いに冬夜の手を引く。

 左右に身体が裂けるかと思った。


「あっぶねぇ!?」


 希望が飛びついて来る。

 倒れ込んだおかげで攻撃の回避には成功したものの――サンドイッチ状態!!?

 具が平凡な僕でごめんなさい。

 なんだか要点から話が逸れてしまった。


 目の前には未だ問題が未解決のままある。

 上級生からの強襲。

 しかし一体何故? 理由がわからない。


「あなたたちは人間研究部の部員だと言った」

「ええ、確かに」

「それもあの半端者のいる部活……この学園に半端者はいらない。そして、人間研究部なんていう軟弱な部活も! なくなった方がいいのよ――ッ!!」


 あまりにも理不尽な言い分。

 けれど冬夜の耳にその言葉は違った印象を与えた。


 ――何に怯えているんだ?


 この感覚が正しいのか、正しくないのか、わからない。

 だとしても……


「そんな理由で、登丸先輩を傷つけていいわけない!」

「その通りだと思う」

「さすが冬夜! 私の運命の人♡」


 二人が同意してくれる。

 僕は間違っていないんだ。

 自分の考えに自信を持て――、


「真白さん。僕の血吸って」

「うん、わかった」


 吸血中は希望が何やら悲鳴を上げていたが、耳を貸さないようにしていた。

 黒いオーラが見えるのは気のせいではない。


「ちょっと真白! いつまでチューチューやってんのよ!? 二人を守りながら戦うのにも限界あんだからね!!?」


 そう言いながらも希望は空中戦を繰り広げていた。

 器用に旋回しながら攻撃をかわしている。

 それに加えて、冬夜と真白に攻撃が及ぼうとすると、希望は割って入って自分に目を向けるように誘導する。


 そのおかげで真白は吸血の邪魔をされない。


「もういいぞ」


 声とともに禍々しい妖気の渦が生まれ、真白を包んだ。

 渦が晴れると、深紅の髪と瞳の真白が姿を現した。


「こんなことでいちいち私を呼び出すなど……」


 少し機嫌の悪い真白は、上空にいる先輩女生徒を睨み付けると、


「手間を焼かせるな」


 飛び上がると問答無用で蹴りつけた。


「アンタ、一応確認とかしなくてもいいわけ?」

「確認? お前たちもこいつには問題があると思うから戦っていたのだろう? それに私はもう一人の私を通して一部始終を見聞きしていたから問題ない」


 すでに先輩女生徒は伸びて地面に突っ伏していた。


「その女は置いていく。それよりも今は登丸とか言う魔女の方が先だ」


 きっと強襲を掛けてきた女生徒は足止め。つまるところ捨て駒だ。


 冬夜たちは走った。先輩の下へ――。

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