Episode03 人でもなく妖怪でもない(2)
ぎぃゃやややぁぁあああ――ッ!!?
三人の悲鳴が響き渡る。
冬夜だけでなく、真白と希望の二人もさすがに恐怖を感じたらしい。
「…………」
何か言ったようだが、三人の悲鳴によってかき消されていた。
冬夜は耳を澄ませた。
「…………」
耳を澄ませても声は聞こえなかった。
真白と希望も耳を澄ませていたようだが、冬夜同様なにも聞き取れなかったらしい。
ぼそぼそと聞き取れない音量で何かを呟く人影。
どうやら『人間研究部』の部員であることは間違いないようなので、
「人間研究部の方ですか?」と訊ねる。
すると声量に反比例してブンブンと頭が縦に振られた。
部活について話を聴きたいと言うと、とても嬉しそうに色々な資料を見せて説明してくれる。
「…………」
相変わらず何を言っているのかは分からないが、悪い人ではなさそうなので一安心である。
しかし、どのような活動をしているのか分からない。
文献と呼ぶにふさわしい、古びた年季を感じさせる書物が出てきたかと思えば、近年人気を博しているファッション雑誌という具合に一貫性がない。
この部活は人間の何を研究しているのだろう。
疑問符が浮かぶばかりで、何時になってもその疑問が解決されないという時間が続いた。
満足気に佇まいを直した目の前の人間研究部部員は、もう喋ることはありませんよ、とでも言いたげな様子でこちらを見ていた。
どうしよう……なにも理解できなかったぞ。
三人は声量の小さな部員を前に問答を始めた。
「どうする?」
「うーん。良く分からなかったしなぁ……」
「私は冬夜が入部するなら入部するぅ♡」
「のぞみちゃん、そんな適当に部活決めたらダメだよ」
「じゃあ、真白は他の部活入れば? 私と冬夜は同じ部活に入るから」
三人の会話の収拾がつかなくなり始めたその時――、
「騒がしいぞお前ら」
そこには眉を顰めた担任の児島先生がいた。
「「「児島先生!!」」」
三人とも驚きの声をあげた。
何でここに? と質問を投げかけると一言、顧問だからと返す。
児島先生にペコリと頭を下げると声量の小さな部員は部屋の奥へと消えて行った。
「それじゃ、俺はこれで」
帰ろうとする児島先生を引き留め、活動内容の説明を求める。
「なんだ、お前ら
先程の部員は登丸という名前らしい。
声が小さく聞き取れなかったことを伝えると、
「ああ、そうか……仕方ないな。めんどくさいが俺が説明してやる。一度しか言わんからな」
そう言うと気怠そうに椅子に腰を下ろす。
一本いいか? と煙草の箱を見せる。
どうぞ、と手で促すと、少し頬を緩ませ、煙草に火をつけた。
ライターではなく指先を発火させて火をつけるあたり、児島先生も人間ではないのだなと実感させられる。
「まぁ……なんだ……人間の事を研究する部だ」
「それは分かってます……」
「そうじゃなくて人間の何を研究するのか冬夜は聞いてるんです!」
先生相手でも希望はズケズケものを言う。
そんな性格が少し羨ましい。
「お前、先生に対してなんだその態度は――仕置きが必要だな」
「え?」
児島先生は希望の手を引き部室を出る。
ドアが閉まると同時に悲鳴――そしてものの十数秒後……ボロボロの希望。
冬夜は思った。
希望の様な性格でなくてよかった、と。
「まあ、教育的指導だな」
これは暴力ではないのか、という思いは胸の奥底に仕舞い込んだ。
力なく机に突っ伏した希望をよそに、児島先生はクッキーをかじりながら話し始める。
「まあ、人間研究部ってのは、人間との共存のために人間の事をより深く理解しょうという、この学園の理念にもっとも即した部活動なのだが……イマイチ人気がない」
人間嫌いの妖怪が多い中では当たり前のことだろう。
ところで先程から食べているクッキーはなんなのだろう?
「妖怪の世界と人間界とでは常識そのものが大きく違うしな。あと、人間界は自由がないからな。すれ違いざまに人殴ったら捕まるし」
残念そうに言う児島先生に、自由すぎるわ! とツッコミを入れる勇気は冬夜にはなかった。
ていうか、
「そんな人間界で生きてゆくために人間は勿論、社会についても学ばなくてはならない、というわけで人間界そのものの研究も行っている」
色々と講釈を垂れていたが、結局は何でもOKという事では?
その後も話を聴いては見たが、取り敢えず人間についてであれば何でも調べてみる、というスタンスのきわめて緩い部活動という事が判明。
先輩部員の登丸の事はよく分からなかったが、顧問が担任の児島先生というのはなにかと助かる(のか?)。
その日のうちに入部届けを提出。
晴れて三人は人間研究部の部員になったのだった――。
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