Episode03 人でもなく妖怪でもない(1)

 怪奇学園に入学してしばらくの月日が経った。

 ようやく学園での生活にも慣れてきた。だが新学期早々には様々な行事が目白押しである。

 今はまさに部活動の勧誘期間の真只中。

 登校するやいなや、校門前には様々な部活の勧誘が立っている。


「おはよう、冬夜くん」

「おはよう、真白さん」


 朝の挨拶を交わしていると、


「冬夜く~ん!!」


 飛びかかるようにして希望が冬夜に抱きつく。

 冬夜はなんとか倒れそうになるのを堪える。


「のぞみさん!?」

「何であなたが」


 つい先日戦ったばかりだから、真白は警戒心が強い。


「私、運命の人を探してるって言ったでしょう?」


 冬夜と真白は、うんうんと首を縦に振る。

 それを確認してから、


「そこで、私決めました――運命の人! 冬夜こそが私の運命の人♡ 身を挺して私を守る姿……惚れちゃいました♡」

「いや、あの、のぞみさん……そんなこと言われても……」

「のぞみさんなんて他人行儀なのはイヤ。のぞみって呼んで」


 いきなり女の子を呼び捨てだなんて冬夜にはハードルが高い。


「それはちょっと……のぞみちゃん、じゃダメかな?」

「うーん……うん、それでいいよ! これから宜しくね冬夜♡」


 顔が近づく。

 口をすぼめて迫ってくる。

 冬夜の唇に希望の唇が重なる――瞬間。


「ダメ――ッ!!」


 真白が希望を突き飛ばす。


「のぞみちゃんが冬夜くんにキスしたら虜になっちゃうでしょ!?」


 プンスカといった様子で真白が怒っている。

 その怒りの中にどこか愛情を感じた。

 きっと二人はいい友人になれる、そんな気がした。


 …………

 ……

 …


 冬夜は悩んでいた。

 どこの部活に入ろうかと。


 校内の至る所に勧誘のチラシが貼られている。

 中学の時は帰宅部だったからなぁ……

 高校デビューとは少し違うが、心機一転、頑張ってみようと思っていた。

 だがしかし、ここは妖怪の通う学園。運動部でやっていける気はしない。だとすると残りは文化部。しかし文化部にどのような部活があるのか冬夜は知らない。

 そこで、真白と一緒に部活見学に行こうという話になったのだが……


「何であなたまでついてくるの?」

「そっちこそついてこなくてもいいのに。冬夜は私が案内するから!」


 冬夜を挟んで真白と希望が口論していた。

 周囲の視線は殺気に満ちていた。

 それもそのはず、真白だけでなく希望まで、傍から見れば美少女二人を冬夜が侍らせているようにしか見えない。それも美少女二人が冬夜を取り合っているのである。

 男子生徒からすれば羨ましいことこの上ない――嫉妬するのも当然の事である。

 部活の勧誘は冬夜の存在が見えていないようで、真白と希望にしか声を掛けない。

 真白は困ったように目を泳がせる。

 希望は注目を集めることに慣れているのか、状況を楽しんでいる様であった。

 サキュバスの希望からすれば、入れ食い状態の今の状況は楽しくて仕方がないのだろう。

 どこか目が輝いているように思うのは気のせいではないだろう。


「まぁまぁ、二人とも」


 二人をなだめながら、冬夜は文化部を中心に確認していった。


 放送部……喋るの苦手(緊張する)だから無理。

 軽音楽部……楽器が弾けない。

 美術部……絵心が皆無なので無理。

 演劇部……人前に立つの緊張しちゃうから無理。

 書道部……字が下手なので無理。

 etc.エトセトラ……


 これと言った部活動がない。

 趣味でもあればよかったのだが、残念ながら冬夜に趣味はなかった。

 どれもピンと来ないんだよなぁ……

 もう一回見て回るかと、来た道を引き返そうとした時目に飛び込んできた『人間研究部』の看板。


(人間研究部……人間の僕にピッタリの部活じゃないのか!!)


 あまりにも割り当てられたスペースが小さすぎて見逃してしまうところだった。

 かなり冷遇されている部のようである。

 人間嫌いの多いこの学園では当然の扱いなのかもしれない。

 近づいてみるが、人はおらず、机の上に部室の場所が書かれたチラシが束になって置いてあるだけだった。


 やる気のない部活だな。それが冬夜の率直な感想だった。

 でも初めて興味を持った部活であるのも事実。

 行くだけ行ってみよう。

 冬夜は口論を続ける二人を引き連れて『人間研究部』の部室へと向かった。


 …………

 ……

 …


 部室棟の一番端の部屋が『人間研究部』の部室のはずなんだけど……

 ドアの横に立てかけられた看板は「人間」の部分から圧し折られていて無い。残された「研究部」の文字もだいぶ擦れて消えかかってしまっているし、血痕らしき赤黒い染みが付着していた。

 なんだかヤバい部活選んじゃったかも……


 冬夜の心配をよそに希望が、勢いよくドアを開ける。


(何で躊躇ないの――ッ!?)


 やはり妖怪である彼女は、不気味な雰囲気というものに耐性があるらしく、この程度の事は意に反さないようだ。

 陽の射し込まない薄暗い部屋の中に、ぽつんと座る人影。その目がギラッと光った――。

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